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JP2021167056A - 切削工具及びその製造方法 - Google Patents

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JP2021167056A JP2020071819A JP2020071819A JP2021167056A JP 2021167056 A JP2021167056 A JP 2021167056A JP 2020071819 A JP2020071819 A JP 2020071819A JP 2020071819 A JP2020071819 A JP 2020071819A JP 2021167056 A JP2021167056 A JP 2021167056A
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Abstract

【課題】初期摩耗及び熱摩耗に対して優れた耐性を有する切削工具及びその製造方法を提供すること。【解決手段】基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、上記被覆層は、立方晶型の硬質粒子からなり、上記立方晶型の硬質粒子は、多層構造部とマトリックス−ドメイン構造部とからなり、上記多層構造部は、上記基材とは反対の側において上記マトリックス−ドメイン構造部と接していて、上記多層構造部は、第一単位層と第二単位層とを含み、上記マトリックス−ドメイン構造部は、マトリックス領域と上記マトリックス領域に囲まれているドメイン領域とを含み、上記立方晶型の硬質粒子は、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物又は炭化物からなり、上記アルミニウムの原子比xは、上記立方晶型の硬質粒子における上記アルミニウム及び上記チタンの全体を基準として0.7以上0.96以下であり、上記被覆層をX線回折法で分析した場合、(200)配向に由来するピーク強度が、他の配向に由来するピーク強度と比較して最大値を示す、切削工具。【選択図】なし

Description

本開示は、切削工具及びその製造方法に関する。
従来より、超硬合金からなる切削工具を用いて、鋼及び鋳物等の切削加工が行われている。このような切削工具は、切削加工時において、その刃先が高温及び高応力等の過酷な環境に曝されるため、刃先の摩耗及び欠けが招来される。
したがって、刃先の摩耗及び欠けを抑制することが切削工具の寿命を向上させる上で重要である。切削工具の切削性能の改善を目的として、超硬合金等の基材の表面を被覆する被膜の開発が進められている。なかでも、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)と窒素(N)との化合物(以下、「AlTiN」ともいう。)からなる被膜は、高い硬度を有することができるとともに、Alの含有割合を高めることによって耐酸化性を高めることができる。
例えば、特表2008−545063号公報(特許文献1)には、単層または多層の層構造を有する硬質膜被覆された物体であり、前記層構造はプラズマ励起を行わずにCVDにより作成されたTi1−xAlN硬質皮膜を少なくとも1つ有し、前記Ti1−xAlN硬質皮膜は、x>0.75〜x=0.93の化学量論係数および0.412nm〜0.405nmの格子定数afccを有する立方晶NaCl構造の単相の層として存在しているか、または前記Ti1−xAlN硬質皮膜は、その主要な相がx>0.75〜x=0.93の化学量論係数および0.412nm〜0.405nmの格子定数afccを有する立方晶NaCl構造を有するTi1−xAlNからなり、かつ別の相としてTi1−xAlNがウルツ鉱構造として、および/またはNaCl構造のTiNとして含有されている多相の層であり、かつTi1−xAlN硬質皮膜の塩素含有率が、0.05〜0.9原子%の範囲である、硬質膜被覆された物体、が開示されている。
特開2014−129562号公報(特許文献2)には、基材と、その表面に形成された硬質被膜とを含む表面被覆部材であって、前記硬質被膜は1または2以上の層により構成され、前記層のうち少なくとも1層は、硬質粒子を含む層であり、前記硬質粒子は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造を含み、前記第1単位層は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素およびAlからなる群より選ばれる1種以上の元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とからなる第1化合物を含み、前記第2単位層は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素およびAlからなる群より選ばれる1種以上の元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とからなる第2化合物を含む、表面被覆部材が開示されている。
国際公開第2018/158974号(特許文献3)には、基材と、その表面に形成された被膜とを含む表面被覆切削工具であって、前記被膜は、1または2以上の層を含み、前記層のうち少なくとも1層は、硬質粒子を含むAlリッチ層であり、前記硬質粒子は、塩化ナトリウム型の結晶構造を有し、かつ複数の塊状の第1単位相と、前記第1単位相間に介在する第2単位相とを含み、前記第1単位相は、AlxTi1-xの窒化物または炭窒化物からなり、前記第1単位相のAlの原子比xは、0.7以上0.96以下であり、前記第2単位相は、AlyTi1-yの窒化物または炭窒化物からなり、前記第2単位相のAlの原子比yは、0.5を超え0.7未満であり、前記Alリッチ層は、X線回折法を用いて前記被膜の表面の法線方向から解析したとき、(200)面において最大ピークを示す、表面被覆切削工具が開示されている。
特表2008−545063号公報 特開2014−129562号公報 国際公開第2018/158974号
近年はより高効率な(送り速度が大きい)切削加工が求められており、更なる性能の向上(例えば、刃先の欠け及び摩耗の抑制等)が期待されている。また、被削材の材料によって適した切削工具の開発が求められている。
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、初期摩耗及び熱摩耗に対して優れた耐性を有する切削工具及びその製造方法を提供することを目的とする。
本開示に係る切削工具は、
基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
上記被覆層は、立方晶型の硬質粒子からなり、
上記立方晶型の硬質粒子は、多層構造部とマトリックス−ドメイン構造部とからなり、
上記多層構造部は、上記基材とは反対の側において上記マトリックス−ドメイン構造部と接していて、
上記多層構造部は、第一単位層と第二単位層とを含み、
上記マトリックス−ドメイン構造部は、マトリックス領域と上記マトリックス領域に囲まれているドメイン領域とを含み、
上記立方晶型の硬質粒子は、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物又は炭化物からなり、
上記アルミニウムの原子比xは、上記立方晶型の硬質粒子における上記アルミニウム及び上記チタンの全体を基準として0.7以上0.96以下であり、
上記被覆層をX線回折法で分析した場合、(200)配向に由来するピーク強度が、他の配向に由来するピーク強度と比較して最大値を示す。
本開示に係る切削工具の製造方法は、
上記切削工具の製造方法であって、
上記基材を準備する第1工程と、
化学気相蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層の前駆体を形成する第2工程と、
上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する第3工程と、
を含む。
本開示によれば、初期摩耗及び熱摩耗に対して優れた耐性を有する切削工具及びその製造方法を提供することが可能になる。
図1は、切削工具の基材の一態様を例示する斜視図である。 図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。 図3は、本実施形態の他の態様における切削工具の模式断面図である。 図4は、本実施形態に係る切削工具の被膜層の模式拡大図である。 図5は、本実施形態に係る被覆層における硬質粒子の模式図である。 図6は、本実施形態に係る硬質粒子における多層構造部の透過型電子顕微鏡の写真及びX線回折パターンの写真(右下)である。 図7は、本実施形態に係る硬質粒子におけるマトリックス−ドメイン構造部の透過型電子顕微鏡の写真及びX線回折パターンの写真(右下)である。 図8は、本実施形態に係る切削工具の製造に用いられるCVD装置の模式的な断面図である。 図9は、実施例における切削加工時間と逃げ面の摩耗量との相関を示すグラフである。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の一態様の内容を列記して説明する。
[1]本開示に係る切削工具は、
基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
上記被覆層は、立方晶型の硬質粒子からなり、
上記立方晶型の硬質粒子は、多層構造部とマトリックス−ドメイン構造部とからなり、
上記多層構造部は、上記基材とは反対の側において上記マトリックス−ドメイン構造部と接していて、
上記多層構造部は、第一単位層と第二単位層とを含み、
上記マトリックス−ドメイン構造部は、マトリックス領域と上記マトリックス領域に囲まれているドメイン領域とを含み、
上記立方晶型の硬質粒子は、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物又は炭化物からなり、
上記アルミニウムの原子比xは、上記立方晶型の硬質粒子における上記アルミニウム及び上記チタンの全体を基準として0.7以上0.96以下であり、
上記被覆層をX線回折法で分析した場合、(200)配向に由来するピーク強度が、他の配向に由来するピーク強度と比較して最大値を示す。
上記切削工具は、上述のような構成を備えることによって、初期摩耗及び熱摩耗に対して優れた耐性を有することが可能になる。上記切削工具は、特に鋳鉄製の被削材を切削加工することに適している。ここで、「初期摩耗」とは、切削開始時に発生する摩耗を意味する。「熱摩耗」とは、高温時における摩耗を意味する。
[2]上記被覆層が六方晶型の硬質粒子を含む場合、上記六方晶型の硬質粒子の含有割合は、上記立方晶型の硬質粒子と上記六方晶型の硬質粒子との総量を基準としたとき、0体積%を超えて20体積%以下であることが好ましい。このように規定することで初期摩耗及び熱摩耗に対して更に優れる切削工具となる。
[3]上記マトリックス−ドメイン構造部の厚みは、0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。このように規定することで初期摩耗に対する耐性に更に優れる切削工具となる。
[4]本開示に係る切削工具の製造方法は、上記切削工具の製造方法であって、
上記基材を準備する第1工程と、
化学気相蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層の前駆体を形成する第2工程と、
上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する第3工程と、
を含む。
上記切削工具の製造方法は、上述のような構成を備えることによって、初期摩耗及び熱摩耗に対して優れた耐性を有する切削工具を製造することが可能になる。上記切削工具の製造方法は、特に鋳鉄製の被削材を切削加工することに適した切削工具を製造することが可能になる。
[5]上記第2工程において、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アンモニアガスを含む第二ガスとのそれぞれを、650℃以上850℃以下且つ2kPa以上4kPa以下の条件において上記基材に対して噴出することを含むことが好ましい。このように規定することで、耐熱性に優れる切削工具を製造することが可能になる。
[6]上記第3工程における上記エネルギー粒子は、ガリウムイオンであることが好ましい。このように規定することで、初期摩耗に対する耐性に更に優れる切削工具を製造することが可能になる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わす。本明細書において「A〜Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiN」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき上記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiN」の化学式には、化学量論組成「Ti」のみならず、例えば「Ti0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiN」以外の化合物の記載についても同様である。
≪切削工具≫
本実施形態に係る切削工具は、
基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
上記被覆層は、立方晶型の硬質粒子からなり、
上記立方晶型の硬質粒子は、多層構造部とマトリックス−ドメイン構造部とからなり、
上記多層構造部は、上記基材とは反対の側において上記マトリックス−ドメイン構造部と接していて、
上記多層構造部は、第一単位層と第二単位層とを含み、
上記マトリックス−ドメイン構造部は、マトリックス領域と上記マトリックス領域に囲まれているドメイン領域とを含み、
上記立方晶型の硬質粒子は、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物又は炭化物からなり、
上記アルミニウムの原子比xは、上記立方晶型の硬質粒子における上記アルミニウム及び上記チタンの全体を基準として0.7以上0.96以下であり、
上記被覆層をX線回折法で分析した場合、(200)配向に由来するピーク強度が、他の配向に由来するピーク強度と比較して最大値を示す。
本実施形態の切削工具50は、基材10と、上記基材10上に設けられている被覆層20とを備える(以下、単に「切削工具」という場合がある。)(図2)。上記切削工具50は、上記被覆層20の他にも、上記基材10と上記被覆層20との間に設けられている下地層21を更に含んでいてもよい(図3)。下地層21については、後述する。
なお、上記基材10上に設けられている上述の各層をまとめて「被膜」と呼ぶ場合がある。すなわち、上記切削工具50は上記基材10上に設けられている被膜40を備え、上記被膜40は上記被覆層20を含む。また、上記被膜40は、上記下地層21更に含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、上記被膜は、上記基材におけるすくい面を被覆していてもよいし、すくい面以外の部分(例えば、逃げ面)を被覆していてもよい。
上記切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金又はcBN焼結体を選択することが好ましい。その理由は、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、cBN焼結体の場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
図1は、切削工具の基材の一態様を例示する斜視図である。このような形状の基材は、例えば、旋削加工用刃先交換型切削チップの基材として用いられる。上記基材10は、すくい面1と、逃げ面2と、上記すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、基材10の切刃先端部を構成する。このような基材10の形状は、上記切削工具の形状と把握することもできる。
上記切削工具が刃先交換型切削チップである場合、上記基材10は、チップブレーカーを有する形状も、有さない形状も含まれる。刃先稜線部3の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
以上、基材10の形状及び各部の名称を、図1を用いて説明したが、本実施形態に係る切削工具50において、上記基材10に対応する形状及び各部の名称については、上記と同様の用語を用いることとする。すなわち、上記切削工具は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面及び上記逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
<被膜>
本実施形態に係る被膜40は、上記基材10上に設けられている被覆層20を含む(図2参照)。「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接するすくい面等)を被覆することで、切削工具における耐チッピング、耐摩耗性、耐剥離性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の一部に限らず上記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
上記被膜の厚みは、4μm以上30μm以下であることが好ましく、7μm以上25μm以下であることがより好ましい。ここで、被膜の厚みとは、被膜を構成する層それぞれの厚みの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、後述する被覆層及び下地層等が挙げられる。上記被膜の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。後述する被覆層及び下地層等のそれぞれの厚みを測定する場合も同様である。走査透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM−2100F(商品名)が挙げられる。
(被覆層)
本実施形態における被覆層は、上記基材の上に配置されている。ここで「基材の上に配置されている」とは、基材の直上に配置されている態様(図2参照)に限られず、他の層を介して基材の上に配置されている態様(図3参照)も含まれる。すなわち、上記被覆層は、本開示の効果が奏する限りにおいて、上記基材の直上に配置されていてもよいし、後述する下地層等の他の層を介して上記基材の上に配置されていてもよい。また、上記被覆層は、上記被膜の最表面である。
上記被覆層20は、立方晶型の硬質粒子30からなる(図4)。ここで、「立方晶型の硬質粒子からなる」とは、立方晶型の硬質粒子のみからなる態様に限られず、本開示の効果が奏される限りにおいて、立方晶型の硬質粒子及び立方晶型の結晶型以外の硬質粒子から構成される態様を含む概念である。すなわち、本実施形態の一側面において、上記被覆層は、立方晶型の硬質粒子のみからなっていてもよい。また、上記被覆層は、立方晶型の硬質粒子及び立方晶型の結晶型以外の硬質粒子からなっていてもよい。「立方晶型の結晶型以外の硬質粒子」としては、例えば、六方晶型の硬質粒子が挙げられる。立方晶型の硬質粒子と六方晶型の硬質粒子とは、例えば、以下に記載するX線回折により得られる回折ピークのパターンにより識別される。
本実施形態の一側面において、本開示の効果が奏される限りにおいて、上記被覆層はアモルファス相を含んでいてもよい。
((200)配向に由来するピーク強度)
本実施形態において、上記被覆層をX線回折法で分析した場合、(200)配向に由来するピーク強度が、他の配向に由来するピーク強度と比較して最大値を示す。これにより切削工具は、被覆層に含まれる硬質粒子の大部分が、被膜の表面の法線方向に対して平行に成長した結晶であることが理解される。もって、切削工具は、高い硬度とともに初期摩耗を効果的に抑制する効果を有することができる。さらに、(200)面において最大のピーク強度を示すことから、靱性を備えて耐欠損性に優れることができる。ここで、「他の配向に由来するピーク強度」とは、(111)配向に由来するピーク強度及び(220)配向に由来するピーク強度が挙げられる。被覆層に対して行なうX線回折(XRD)法は、具体的には以下の方法が適用される。
まず、X線回折法の測定対象物となる切削工具をX線回折装置(商品名:「SmartLab(登録商標)」、株式会社リガク製)に、その被膜の表面の法線方向から解析可能となる方向にセットする。
次に、切削工具の被覆層に対し、次の条件下で被膜の表面の法線方向から解析する。これにより、被覆層におけるX線回折ピークに関するデータを得ることができる。
測定方法:ω/2θ法
入射角度(ω):2°
スキャン角度(2θ):30〜70°
スキャンスピード:1°/min
スキャンステップ幅:0.05°
X線源:Cu−Kα線
光学系属性:中分解能平行ビーム
管電圧:45kV
管電流:200mA
X線照射範囲:2.0mm範囲制限コリメーターを使用し、すくい面上の直径2mmの範囲に照射(ただし、同条件で逃げ面にX線を照射することも許容される)
X線検出器:半導体検出器(商品名:「D/teX Ultra250」、株式会社リガク製)
(200)配向に由来するピーク強度、(111)配向に由来するピーク強度及び(220)配向に由来するピーク強度の合計を基準として、上記(200)配向に由来するピーク強度の比率は、50%以上100%以下であることが好ましく、55%以上90%以下であることがより好ましい。ここで、「ピーク強度」とは、X線スペクトルにおけるピークの高さ(cps)を意味する。
上記被覆層の厚みは、4μm以上30μm以下であることが好ましく、7μm以上25μm以下であることがより好ましい。上記被覆層の厚みは、上述したのと同様の方法で、TEMを用いて基材と被膜の垂直断面を観察することにより確認することができる。以下、被覆層を構成する硬質粒子について説明する。
(立方晶型の硬質粒子)
本実施形態に係る立方晶型の硬質粒子30は、多層構造部32と、マトリックス−ドメイン構造部31と、からなる(図5)。上記多層構造部32は、上記基材10とは反対の側において上記マトリックス−ドメイン構造部31と接している(図5)。
上記立方晶型の硬質粒子は、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物又は炭化物からなる。アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物としては、例えば、AlTi1−xNで示される化合物が挙げられる。ここで、化学式「AlTi1−xN」における「AlTi1−x」と「N」との組成比(元素比)は、化学量論組成(例えば、(AlTi1−x)のみならず、非化学量論組成(例えば、(AlTi1−x0.8)も含まれる。また、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む炭窒化物としては、例えば、AlTi1−xCNで示される化合物が挙げられる。ここで、化学式「AlTi1−xCN」における「AlTi1−x」と「CN」との組成比(元素比)は、化学量論組成(例えば、(AlTi1−x(CN))のみならず、非化学量論組成(例えば、(AlTi1−x(CN)0.8)も含まれる。
上記アルミニウム(Al)の原子比xは、上記立方晶型の硬質粒子における上記アルミニウム及び上記チタンの全体を基準として0.7以上0.96以下であり、0.75以上0.9以下であることが好ましい。上記原子比xは、上述の断面サンプルにあらわれた上記立方晶型の硬質粒子に対して透過型電子顕微鏡(TEM)に付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。このときに求められるアルミニウムの原子比xは、上記立方晶型の硬質粒子全体の平均として求められる値である。具体的には、上記断面サンプルの被覆層における任意に選択された10箇所の当該硬質粒子それぞれを測定してアルミニウムの原子比の値を求め、求められた10箇所の値の平均値を上記立方晶型の硬質粒子におけるアルミニウムの原子比とする。このとき、一見して異常値と思われる数値は採用しないものとする。ここで当該「任意に選択された10箇所」は、上記被覆層の互いに異なる硬質粒子から選択するものとする。上記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED−2300(商品名)が挙げられる。なお、アルミニウムに限らず、チタン、窒素等の原子比も上述の方法で算出することが可能である。
(多層構造部)
上記多層構造部は、第一単位層と第二単位層とを含む。上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に積層されている。本実施形態において、上記第一単位層と上記第二単位層との界面は、上記第一単位層及び上記第二単位層が積層されている方向に対して垂直又は略垂直である。言い換えると、上記第一単位層と上記第二単位層とは、両層が積層されている方向に対して垂直ではない界面を形成しない。そのため、上記多層構造部においては、上記第一単位層が上記第二単位層に周囲を囲まれることがない。また、上記第二単位層が上記第一単位層に周囲を囲まれることがない。換言すると、上記第一単位層は、両層が積層されている方向において上記第二単位層に囲まれているが、両層が積層されている方向に対して垂直な方向においては上記第二単位層に囲まれていないと把握することができる。また、上記第二単位層は、両層が積層されている方向において上記第一単位層に囲まれているが、両層が積層されている方向に対して垂直な方向においては上記第一単位層に囲まれていないと把握することができる。すなわち、上記多層構造部は、後述するマトリックス−ドメイン構造部とは明確に異なる構造を形成している。
(第一単位層)
上記第一単位層は、後述する第二単位層と比較して、上記アルミニウムの原子比が高い層である。上記第一単位層は、上記多層構造部をTEMで観察した場合、第二単位層と比較して暗い層として観察される(例えば、図6参照)。そのため、上記第一単位層は、第二単位層と明確に区別可能である。
第一単位層の厚みは、1nm以上20nm以下であることが好ましく、2nm以上10nm以下であることがより好ましい。上記第一単位層の厚みは、TEMを用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける同一層内の任意に選択された10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。このとき、一見して異常値と思われる数値は採用しないものとする。上記多層構造部が2層以上の第一単位層を含む場合、まず上述の方法で各第一単位層の厚みを求め、求められた値の平均値を当該多層構造部における第一単位層の厚みとする。上記多層構造部に含まれる第一単位層が10層を超える場合、任意に選択された10層の第一単位層において、上述の方法でその10層の第一単位層それぞれの厚みを求め、その各第一単位層から求められた値の平均値を当該多層構造部における第一単位層の厚みとする。
(第二単位層)
上記第二単位層は、上記第一単位層と比較して、上記アルミニウムの原子比が低い層である。上記第二単位層は、上記多層構造部をTEMで観察した場合、第一単位層と比較して明るい層として観察される(例えば、図6参照)。そのため、上記第二単位層は、第一単位層と明確に区別可能である。
第二単位層の厚みは、0.5nm以上5nm以下であることが好ましく、1nm以上2.5nm以下であることがより好ましい。上記第二単位層の厚みは、上述したのと同様の方法で、TEMを用いて求めることが可能である。
(第一単位層と第二単位層との繰り返し単位)
1層の上記第一単位層と1層の第二単位層とからなる繰り返し単位において、上記繰り返し単位の厚みが1.5nm以上25nm以下であることが好ましく、1.5nm以上20nm以下であることがより好ましく、5nm以上15nm以下であることが更に好ましい。上記繰り返し単位が上述の構成を備えることによって、上記被覆層は熱摩耗に対する耐性が向上していると本発明者らは考えている。本実施形態に係る多層構造部は、第一単位層と第二単位層とが交互に積層されることで形成されるが、隣り合っている1層の第一単位層と1層の第二単位層とを合わせて「1層の第一単位層と1層の第二単位層とからなる繰り返し単位」又は単に「繰り返し単位」と呼ぶこととする。「繰り返し単位の厚み」とは、繰り返し単位を構成している第一単位層の厚みと第二単位層の厚みとの合計を意味する。
(マトリックス−ドメイン構造部)
上記マトリックス−ドメイン構造部は、マトリックス領域と上記マトリックス領域に囲まれているドメイン領域とを含む。
上記マトリックス−ドメイン構造部の厚みは、0.1μm以上2μm以下であることが好ましく、0.2μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。上記マトリックス−ドメイン構造部の厚みdは、上記硬質粒子における上記基材とは反対の側の表面と、上記多層構造部と上記マトリックス−ドメイン構造部との境界面との最短距離として把握することができる(図5参照)。このとき、上記硬質粒子における上記基材とは反対の側の表面と、上記多層構造部と上記マトリックス−ドメイン構造部との境界面とは概念的に平行であると考えられる。また、上述の境界面は、上記多層構造部における基材の側から最も遠い単位層(すなわち、第一単位層、又は第二単位層)であって層状の構造が維持されている単位層の基材から遠い方の界面と把握することもできる。具体的には、TEMを用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける被覆層内の任意に選択された10箇所の硬質粒子について測定し、測定された10箇所の上記マトリックス−ドメイン構造部の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。このとき、一見して異常値と思われる数値は採用しないものとする。
(ドメイン領域)
本実施形態において「ドメイン領域」とは、後述するマトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域(例えば、図7における暗く示されている領域)を意味する。このとき、上記ドメイン領域は、あらゆる方向において上記マトリックス領域中に分散していると考えられる。ここで、「あらゆる方向」とは、上記基材の表面の法線方向及び当該法線方向に対して垂直な方向が含まれる。なお、上述の「分散した状態」は、基本的には隣り合うドメイン領域同士が直接接触しないことを意味するが、一部のドメイン領域が互いに接触しているものを排除するものではない。
また、上記ドメイン領域は、上記マトリックス−ドメイン構造部において複数の領域に分かれて配置される領域と把握することもできる。本実施形態の一側面において、上記ドメイン領域を構成する上記複数の領域の大部分は、上記マトリックス領域に取り囲まれていると把握することもできる。このとき、上記ドメイン領域は、あらゆる方向においてマトリックス領域に取り囲まれていると考えられる。ここで、「あらゆる方向」とは、上記基材の表面の法線方向及び当該法線に対して垂直な方向が含まれる。
このように上記マトリックス−ドメイン構造部では、上記ドメイン領域が上記マトリックス領域中に分散している。そのため、上記ドメイン領域及び上記マトリックス領域が積層構造を形成することはなく、上記マトリックス−ドメイン構造部は、上記多層構造部とは明確に異なる構造を形成している。
上記ドメイン領域は、後述するマトリックス領域と比較して、上記アルミニウムの原子比が高い領域である。上記ドメイン領域は、上記マトリックス−ドメイン構造部をTEMで観察した場合、マトリックス領域と比較して暗い領域として観察される(例えば、図7参照)。そのため、上記ドメイン領域は、マトリックス領域と明確に区別可能である。
上記ドメイン領域の体積比率は、特に制限はないが、上記ドメイン領域及び上記マトリックス領域の全体積を基準として、50体積%以上90体積%以下であってもよいし、60体積%以上85体積%以下であってもよい。上記ドメイン領域の体積比率は、以下のようにして求めることが可能である。まず、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける所定の視野(例えば、0.5μm×0.5μm)をTEMで観察し、観察画像を得る。このときの倍率は、例えば、2000000倍である。得られた観察画像において、ドメイン領域及びマトリックス領域それぞれの面積を算出する。次に、上記ドメイン領域及び上記マトリックス領域の合計の面積を基準として、当該ドメイン領域の面積比率を算出する。このような測定を少なくとも10視野において行い、10視野それぞれにおいて算出された面積比率の平均値を当該ドメイン領域の体積比率と見なして取り扱う。
上記ドメイン領域の大きさは、2nm以上15nm以下であることが好ましく、2.5nm以上10nm以下であることがより好ましい。上記ドメイン領域の大きさは、以下のようにして求めることが可能である。まず、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける所定の視野(例えば、0.05μm×0.05μm)をTEMで観察し、観察画像を得る。このときの倍率は、例えば、10000000倍である。得られた観察画像において、個々のドメイン領域の面積を算出し、算出した面積に基づいて当面積円相当径(Heywood径)を求める。このとき測定するドメイン領域の数は、少なくとも10以上とする。
(マトリックス領域)
本実施形態において「マトリックス領域」とは上記マトリックス−ドメイン構造部の母体となる領域(例えば、図7における明るく示されている領域)であり、ドメイン領域以外の領域を意味する。言い換えると、上記マトリックス領域の大部分は、上記ドメイン領域を構成する複数の領域のそれぞれを取り囲むように配置されている領域と把握することもできる。また、上記マトリックス領域の大部分は、上記ドメイン領域を構成する複数の領域の間に配置されていると把握することもできる。
上記マトリックス領域は、上記ドメイン領域と比較して、上記アルミニウムの原子比が低い領域である。上記マトリックス領域は、上記マトリックス−ドメイン構造部をTEMで観察した場合、ドメイン領域と比較して明るい領域として観察される(例えば、図7参照)。そのため、上記マトリックス領域は、ドメイン領域と明確に区別可能である。
上記マトリックス領域の体積比率は、特に制限はないが、上記ドメイン領域及び上記マトリックス領域の全体積を基準として、10体積%以上50体積%以下であってもよいし、10体積%以上40体積%以下であってもよいし、10体積%以上30体積%以下であってもよい。上記マトリックス領域の体積比率は、以下のようにして求めることが可能である。まず、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける所定の視野(例えば、0.5μm×0.5μm)をTEMで観察し、観察画像を得る。このときの倍率は、例えば、2000000倍である。得られた観察画像において、ドメイン領域及びマトリックス領域それぞれの面積を算出する。次に、上記ドメイン領域及び上記マトリックス領域の合計の面積を基準として、当該マトリックス領域の面積比率を算出する。このような測定を少なくとも10視野において行い、10視野それぞれにおいて算出された面積比率の平均値を当該マトリックス領域の体積比率と見なして取り扱う。
(六方晶型の硬質粒子)
本開示の効果が奏する限りにおいて、上記被覆層が六方晶型の硬質粒子を含んでいてもよい。上記六方晶型の硬質粒子の構成元素は、上記立方晶型の硬質粒子の構成元素と同じであると考えられる。ただし、上記六方晶型の硬質粒子の元素組成は、上記立方晶型の硬質粒子の元素組成と同じであってもよいし、異なっていてもよい。上記被覆層が六方晶型の硬質粒子を含む場合、上記六方晶型の硬質粒子の含有割合(h/(c+h))は、上記立方晶型の硬質粒子(c)と上記六方晶型の硬質粒子(h)との総量を基準としたとき、0体積%を超えて20体積%以下であることが好ましく、0体積%を超えて15体積%以下であることがより好ましく、0体積%を超えて10体積%以下であることが更に好ましい。本実施形態の一側面において、上記被覆層が六方晶型の硬質粒子を含まないことが好ましい。当該含有割合は、例えば、X線回折により得られる回折ピークのパターンを解析することによって求めることが可能である。具体的な方法は以下の通りである。
X線回折装置(Rigaku社製「MiniFlex600」(商品名))を用いて上述の断面サンプルにおける被覆層のX線スペクトルを得る。このときのX線回折装置の条件は例えば、下記の通りとする。
特性X線: Cu−Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ−2θ法
得られたX線スペクトルにおいて、立方晶型の硬質粒子のピーク強度(Ic)と、六方晶型の硬質粒子のピーク強度(Ih)とを測定する。ここで、「ピーク強度」とは、X線スペクトルにおけるピークの高さ(cps)を意味する。立方晶型の硬質粒子のピークは、回折角2θ=38°付近及び44°付近に確認することができる。六方晶型の硬質粒子のピークは、回折角2θ=33°付近に確認することができる。ピーク強度はバックグラウンドを除いた値とする。
上記立方晶型の硬質粒子と上記六方晶型の硬質粒子との総量を基準としたときの上記六方晶型の硬質粒子の含有割合(体積%)は、下記の式により算出される。ここで、立方晶型の硬質粒子のピーク強度(Ic)は、2θ=38°付近におけるピーク強度と2θ=44°付近におけるピーク強度との和で求められる。
上記六方晶型の硬質粒子の含有割合(体積%)=100×{Ih/(Ih+Ic)}
(他の層)
本実施形態の効果を損なわない範囲において、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記被膜層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層としては、例えば、TiN層、TiCN層、TiBN層、Al層等を挙げることができる。例えば、上記他の層としては、上記基材と上記硬質被膜層との間に設けられている下地層等が挙げられる。上記他の層の厚さは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上2μm以下が挙げられる。
≪切削工具の製造方法≫
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、
上記切削工具の製造方法であって、
上記基材を準備する第1工程と、
化学気相蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層の前駆体を形成する第2工程と、
上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する第3工程と、
を含む。
<第1工程:基材を準備する工程>
本工程では、上記基材を準備する。上記基材としては、上述したようにこの種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、上記基材が超硬合金からなる場合、所定の配合組成(質量%)からなる原料粉末を市販のアトライターを用いて均一に混合して、続いてこの混合粉末を所定の形状(例えば、SEET13T3AGSN−G、CNMG120408等)に加圧成形した後に、所定の焼結炉において1300℃〜1500℃で、1〜2時間焼結することにより、超硬合金からなる上記基材を得ることができる。また、基材は、市販品をそのまま用いてもよい。市販品としては、例えば、住友電工ハードメタル株式会社製のEH520(商品名)が挙げられる。
<第2工程:化学気相蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層の前駆体を形成する工程>
本工程では、化学気相蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層の前駆体を形成する。上記第2工程は、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アンモニアガスを含む第二ガスとのそれぞれを、650℃以上850℃以下且つ2kPa以上4kPa以下の雰囲気において上記基材に噴出することを含むことが好ましい。この工程は、例えば以下に説明するCVD装置を用いて行うことができる。
(CVD装置)
図8に、実施の形態の切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の模式的な断面図を示す。図8に示すように、CVD装置70は、基材10を設置するための基材セット治具71の複数と、基材セット治具71を被覆する耐熱合金鋼製の反応容器72とを備えている。また、反応容器72の周囲には、反応容器72内の温度を制御するための調温装置73が設けられている。
反応容器72には、隣接して接合された第1ガス導入管74と第2ガス導入管75とが反応容器72の内部の空間を鉛直方向に延在し、当該鉛直方向を軸に回転可能に設けられている。ガス導入管76においては、第1ガス導入管74に導入された第一ガスと、第2ガス導入管75に導入された第二ガスとがガス導入管76の内部で混合しない構成とされている。また、第1ガス導入管74及び第2ガス導入管75のそれぞれの一部には、第1ガス導入管74及び第2ガス導入管75のそれぞれの内部を流れるガスを基材セット治具71に設置された基材10上に噴出させるための複数の貫通孔が設けられている。
さらに、反応容器72には、反応容器72の内部のガスを外部に排気するためのガス排気管77が設けられており、反応容器72の内部のガスは、ガス排気管77を通過して、ガス排気口78から反応容器72の外部に排出される。
より具体的には、上述した第一ガス及び第二ガスを、それぞれ第1ガス導入管74及び第2ガス導入管75に導入する。このとき、各ガス導入管内における第一ガス及び第二ガスそれぞれの温度は、液化しない温度であれば特に制限はない。次に、650℃以上850℃以下(好ましくは730℃以上750℃以下)且つ2kPa以上4kPa以下(好ましくは2kPa以上2.5kPa以下)の雰囲気とした反応容器72内へ第一ガス、第二ガスをこの順で繰り返して噴出する。ガス導入管76には複数の貫通孔が開いているため、導入された第一ガス及び第二ガスは、それぞれ異なる貫通孔から反応容器72内に噴出される。このときガス導入管76は、図8中の回転矢印が示すようにその軸を中心として、例えば、2〜10rpmの回転速度で回転している。これによって、第一ガス、第二ガスをこの順で繰り返して基材10に対して噴出することができる。
(第一ガス)
上記第一ガスは、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む。
アルミニウムのハロゲン化物ガスとしては、例えば、塩化アルミニウムガス(AlClガス、AlClガス)等が挙げられる。好ましくは、AlClガスが用いられる。アルミニウムのハロゲン化物ガスの濃度(体積%)は、第一ガス及び第二ガスの全体積を基準として、0.3体積%以上1.5体積%以下であることが好ましく、0.6体積%以上0.8体積%以下であることがより好ましい。
チタンのハロゲン化物ガスとしては、例えば、塩化チタン(IV)ガス(TiClガス)、塩化チタン(III)ガス(TiClガス)等が挙げられる。好ましくは、塩化チタン(IV)ガスが用いられる。チタンのハロゲン化物ガスの濃度(体積%)は、第一ガス及び第二ガスの全体積を基準として、0.1体積%以上1体積%以下であることが好ましく、0.14体積%以上0.4体積%以下であることがより好ましい。
上記第一ガス及び第二ガスの混合ガスにおけるアルミニウムのハロゲン化物ガスの体積比は、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスの全体積を基準として、0.5以上0.85以下であることが好ましく、0.6以上0.85以下であることがより好ましい。
上記第一ガスは、水素ガスを含んでもよいし、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。不活性ガスの濃度(体積%)は、第一ガス及び第二ガスの全体積を基準として、5体積%以上50体積%以下であることが好ましく、20体積%以上40体積%以下であることがより好ましい。水素ガスは、通常上記第一ガス及び第二ガスの残部を占める。
本実施形態の一側面において、上記第一ガスは炭化水素ガスを更に含んでいてもよい。炭化水素ガスとしては、例えば、メタンガス、エチレンガス(Cガス)等が挙げられる。炭化水素ガスの濃度(体積%)は、第一ガス及び第二ガスの全体積を基準として、0.1体積%以上1体積%以下であることが好ましく、0.2体積%以上0.4体積%以下であることがより好ましい。
上記基材に噴出するときの上記第一ガスの流量は、20〜30L/minであることが好ましい。
(第二ガス)
上記第二ガスは、アンモニアガスを含む。また上記第二ガスは、水素ガスを含んでもよいし、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。上記第二ガスを上記基材に噴出することで、上記多層構造部の形成が促進される。
アンモニアガスの濃度(体積%)は、第一ガス及び第二ガスの全体積を基準として、0.5体積%以上4体積%以下であることが好ましく、1体積%以上2体積%以下であることがより好ましい。水素ガスは、通常上記第一ガス及び上記第二ガスの残部を占める。
上記基材に噴出するときの上記第二ガスの流量は、10〜20L/minであることが好ましい。
<第3工程:上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する工程>
本工程では、上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する。このようにすることで、上記被覆層の前駆体を構成する硬質粒子における多層構造部の一部がマトリックス−ドメイン構造部に変化し、もって上記被覆層が形成される。なお、上述の工程からも明らかなように、被覆層の前駆体における多層構造部と、被覆層における多層構造部とは、層の構造、組成が同じである。
従来は、多層構造部をマトリックス−ドメイン構造部に変換しようとする場合、被覆層全体(すなわち硬質粒子全体)を熱処理(アニール処理)する必要があった。このような従来の熱処理では、全体がマトリックス−ドメイン構造部で構成される硬質粒子しか生成することができなかった。本開示では、上述のように上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射することで、硬質粒子の一部のみを熱処理することを可能にしている。そのため、多層構造部及びマトリックス−ドメイン構造部の両方を備える硬質粒子を生成することが可能になり、もって鋳鉄製の被削材を切削加工する場合において、初期摩耗及び熱摩耗に対して優れた耐性を有する切削工具を提供することが可能になる。
なお、上記第3工程を行わずに製造された切削工具でも切削加工に伴う摩擦熱によって被覆層の表面部分が結果的に加熱されると考えられる。しかし、加熱の程度が厳密に制御されていないため上記マトリックス−ドメイン構造部が生成されていないと本発明者らは考えている。
上記エネルギー粒子としては、例えば、ガリウムイオン(Ga)、キセノンイオン(Xe)等が挙げられる。本実施形態の一側面において、上記第3工程における上記エネルギー粒子は、ガリウムイオンであることが好ましい。
エネルギー粒子を照射する方法としては、特に制限されないが、例えば、レーザー処理、電子線照射、集束イオンビーム照射(FIB照射)、放射線照射等が挙げられる。装置としては、公知の装置を利用できるが、例えば、日本電子株式会社製のJIB−4501(商品名)が挙げられる。
エネルギー粒子を照射する時間は、0.01秒以上0.1秒以下であることが好ましく、0.05秒以上0.1秒以下であることがより好ましい。
エネルギー粒子を照射した後、次の照射を行うまでの待機時間(インターバルの時間)は、0.005秒以上0.02秒以下であることが好ましく、0.01秒以上0.02秒以下であることがより好ましい。エネルギー粒子を照射する時間及び次の照射を行うまでの待機時間を上述のようにすることで、熱が基材に逃げることなく、上記被覆層の前駆体の表面に効率よく熱を加えることが可能になる。
エネルギー粒子を照射して、所定の時間待機する操作の繰返し回数は、5回以上500回以下であることが好ましく、10回以上50回以下であることがより好ましい。
本実施形態の一側面において、第3工程としてガリウムイオンを用いたFIB照射を行う場合、以下の条件が例示される。
加速電圧:1〜2kV
電流密度:40〜60nA
照射角度:60〜90°
照射時間:0.1秒
インターバル:0.02秒
繰返し数:10〜50回
処理深さ:300〜1020nm
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、他の層を形成する工程、及び表面処理する工程等を適宜行ってもよい。上述の他の層を形成する場合、従来の方法によって他の層を形成してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例では、被膜の組成および形成条件が異なる試料No.1〜12及び試料No.21〜23の切削工具を作製した。その後、これらの切削工具の性能を評価した。試料No.1〜12が実施例に相当する。試料No.21〜23が比較例に相当する。
≪切削工具の作製≫
<基材の調製>
試料No.1〜12及び試料No.21〜23の切削工具を作製するため、以下の表1に示す配合組成の基材Aを準備した。具体的には、まず表1に示す配合組成からなる原料粉末を均一に混合した。次に混合した原料粉末を所定の形状に加圧成形した。その後、1300〜1500℃の焼結温度、及び1〜2時間の焼結時間で上述の加圧成形した原料粉末を焼結することにより、形状がSEET13T3AGSN−Gの超硬合金製基材(住友電工ハードメタル株式会社製)を得た(第1工程)。SEET13T3AGSN−Gは、転削用加工(フライス加工用)の刃先交換型切削チップの形状である。
Figure 2021167056
<被膜の形成>
上記で得られた基材に対してその表面に被膜を形成した。具体的には、図8に示すCVD装置70を用い、基材10を基材セット治具71にセットし、CVD法を用いて基材10上に被膜40を形成した。
(下地層の形成)
試料No.1〜12、並びに、試料No.21及び22における下地層の形成条件は、以下の表2に示す通りである。各試料においてTiN、TiCN、Alの各層は、後述する表6に示す厚みとなるように原料ガスの噴出時間を調整した上で、基材上に形成した。試料No.23の基材については、AlおよびTiからなるターゲット(ターゲット組成、Al:Ti=50:50)を用いたPVD法(物理蒸着法)により基材上にAlTiNの層を形成した。
Figure 2021167056
ここで試料No23の基材に対してAlTiNの層を形成したときのPVDの条件は、以下の通りである。
アーク電流:150V
バイアス電圧:−40A
チャンバ内圧力:2.6×10−3Pa
反応ガス:窒素ガス
基材を載置する回転テーブルの回転速度:10rpm
(被覆層の形成)
被覆層については、上述した化学気相蒸着法(CVD法)を用いて、上記基材上に上記被覆層の前駆体を形成する第2工程と、上記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する第3工程とを行うことにより形成した。
(第2工程)
まず第2工程によって基材上に被覆層の前駆体(上記多層構造部のみからなる層)を形成した。表3に示すように、被覆層の前駆体を形成する条件は、条件T1及びT2の2通りとした。条件T1では、AlClガス、TiClガス及びHガスを含む第一ガスと、NHガス及びArガスを含む第二ガスとをそれぞれ噴出し、反応容器内で混合ガスを形成した。条件T2は、AlClガス、TiClガス及びHガスに加え、Cガスを含む第一ガスと、NHガス及びArガスを含む第二ガスとをそれぞれ噴出し、反応容器内で混合ガスを形成した。条件T1及びT2において、混合ガスの組成、混合ガスにおけるAlCl/(AlCl+TiCl)の体積比、CVD装置70の反応容器72内における温度条件及び圧力条件は、それぞれ表3に示す通りである。
第2工程では、具体的には、上記第一ガスをCVD装置70の導入口74から導入管76に導入し、第二ガスを導入口75より導入管76に導入した。続いて導入管76を回転させて導入管76の貫通孔から第一ガスおよび第二ガスを噴出させた。これにより、第一ガスと第二ガスとが均一化された混合ガスが得られ、得られたの混合ガスを上記下地層上に噴出することによって、被覆層の前駆体を形成した。
Figure 2021167056
表3に示すように、たとえば条件T1では、アルミニウムの原子比が0.86である第一単位層と、アルミニウムの原子比が0.60である第二単位層とが繰返し周期(すなわち、繰返し単位の厚み)7nmで積層され、第一単位層及び第二単位層の平均組成(すなわち、多層構造部の平均組成)がAl0.8Ti0.2Nである被覆層の前駆体を形成することができる。
第2工程では、後述する表6に示すように、試料No.1〜7、並びに、試料No.21及び22の基材に対しては、条件T1を用いて被覆層の前駆体を形成した。試料No.8〜12の基材に対しては、条件T2を用いて被覆層の前駆体を形成した。ここで試料No.1の被覆層の前駆体における多層構造部の透過電子顕微鏡像を図6に示す。透過電子顕微鏡には、商品名:「JEM−2100F(日本電子株式会社製)」を用いた。
(第3工程)
さらに試料No.1〜12については、第3工程によって上記被覆層の前駆体の表面にガリウムイオン(エネルギー粒子)を断続的に照射すること(FIB照射すること)により、マトリックス−ドメイン構造部を生成し、もって被覆層を得た。なお、上述の工程からも明らかなように、被覆層の前駆体における多層構造部と、被覆層における多層構造部とは、層の構造、組成が同じであると考えられる。表4に示すように、マトリックス−ドメイン構造部を生成する条件は、条件J1〜条件J3の3通りとした。
Figure 2021167056
表4に示すように、たとえば条件J1では、加速電圧1kV、電流密度40nA、照射角度90°で、処理深さ300nmでガリウムイオンを被覆層の前駆体の表面に断続的に照射した。このとき照射時間0.1秒、インターバル0.02秒のサイクルを10回繰り返して行った。また、ガリウムイオンを照射する装置は、日本電子株式会社製のJIB−4501(商品名)を用いた。
第3工程では、後述する表6に示すように、試料No.1の被覆層の前駆体に対し、条件J1を用いることにより被覆層を得た。試料No.2の被覆層の前駆体に対し、条件J2を用いることにより被覆層を得た。試料No.3〜12の被覆層の前駆体に対し、条件J3を用いることにより被覆層を得た。試料No.21の被覆層の前駆体に対しては、第3工程を行なわなかった。試料No.22の被覆層の前駆体に対しては、第3工程を行う代わりに、下記の条件C1でアニールすることで、被覆層の前駆体における硬質粒子の多層構造部全体をドメイン−マトリックス構造部に変化させ、もって被覆層を得た。試料No.23のPVD法で形成したAlTiNの層に対しては、第3工程を行なわなかった。
アニールの条件C1
昇温速度 :10℃/分
アニール温度 :900℃
アニール時間 :60分
アニール雰囲気 :Arガス
冷却温度 :40℃/分
冷却時の炉内圧力: 0.9MPa
試料No.1における被覆層中の硬質粒子におけるドメイン−マトリックス構造部の透過電子顕微鏡像を図7に示す。透過電子顕微鏡には、商品名:「JEM−2100F(日本電子株式会社製)」を用いた。
(表面処理)
さらに、試料No.4.5、7、9、10及び12に対してはそれぞれ、表5に示す条件でショットブラストによる表面処理を行なって被膜に圧縮応力を付与した。
Figure 2021167056
以上のように各基材上に被膜を形成することにより、試料No.1〜12及び試料No.21〜23の切削工具を作製した。各試料における基材及び被膜の構成を表6に示す。表6において、たとえば試料No.1は、基材Aの直上に下地層として1μmの厚みを有するTiNの層が形成され、上記下地層上に4μmの厚みの被覆層(AlTiN)が形成された切削工具であることを示している。試料No.1の切削工具は、条件T1により形成した被覆層の前駆体を、条件J1により処理することで得た被覆層を有している。表6の「下地層」の欄において「−」は、該当する組成の層が存在しないことを意味している。表6の「表面処理」の欄において「−」は、表面処理を行わなかったことを意味している。
Figure 2021167056
≪切削工具の評価≫
<被膜等の厚みの測定>
被膜等の厚み(すなわち、被覆層、下地層の厚み)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100F)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めた。このときの観察倍率は、10000倍であった。結果を表6に示す。
<被覆層の観察>
((200)配向に由来するピーク強度)
試料No.1〜12、及び試料No.21〜23の切削工具に対し、まず下記測定条件におけるX線回折法により被覆層を被膜の積層方向から解析し、どの結晶面において回折ピークが最大となるかを調べた。また、上記の測定結果から上述の方法で(200)配向に由来するピーク強度の比率を算出した。その結果を表7に示す。表7の結果から試料No.1〜12の切削工具における被覆層は、回折ピークが(200)面で最大を示すことが分かった。たとえば図6及び7における右下の写真は、試料No.1の切削工具における被覆層のX線回折の結果を示している。これにより試料1〜試料12の表面被覆切削工具は、耐欠損性に優れ、鋳物などの断続加工が必要な用途に対して優れた性能を発揮することができると期待される。
測定方法:ω/2θ法
入射角度(ω):2°
スキャン角度(2θ):30〜70°
スキャンスピード:1°/min
スキャンステップ幅:0.05°
X線源:Cu−Kα線
光学系属性:中分解能平行ビーム
管電圧:45kV
管電流:200mA
X線照射範囲:2.0mm範囲制限コリメーターを使用し、すくい面上の直径2mmの範囲に照射(ただし、同条件で逃げ面にX線を照射することも許容される)
X線検出器:半導体検出器(商品名:「D/teX Ultra250」、株式会社リガク製)
(六方晶型の硬質粒子の体積比率)
次に、試料No.1〜12、及び試料No.21〜23の切削工具に対し、下記測定条件におけるX線回折法により被覆層における立方晶型の硬質粒子のピーク強度及び六方晶型の硬質粒子のピーク強度それぞれを測定した。測定された各ピーク強度に基づいて当該六方晶型の硬質粒子の体積比率を算出した。結果を表7に示す。なお、このX線回折測定により、試料No.1〜12の切削工具における被覆層に、立方晶型の硬質粒子が含まれることが確認された。
X線回折装置: Rigaku社製「MiniFlex600」(商品名)
特性X線: Cu−Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ−2θ法
(被覆層の元素分析)
さらに、試料No.1〜12、及び試料No.21〜23の切削工具に対し、それぞれ被覆層を上述した透過顕微鏡を用いて観察し、当該透過顕微鏡に付帯したEDXで元素分析した。これにより被覆層を構成する硬質粒子のAlの原子比xを求めた。結果を表7に示す。
(マトリックス−ドメイン構造部の厚み)
マトリックス−ドメイン構造部の厚みは、TEMを用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける被覆層内の任意に選択された10箇所の硬質粒子について測定し、測定された10箇所の上記マトリックス−ドメイン構造部の厚みの平均値をとることで求めた。結果を表7に示す。表7の「マトリックス−ドメイン構造部の厚み」の欄において「−」は、硬質粒子内にマトリックス−ドメイン構造部が存在しないことを意味している。
<切削試験1>
次に、試料No.1〜12、及び試料No.21〜23の切削工具に対し、以下の切削条件の下で切削試験(耐摩耗性試験)を行った。具体的には、試料No.1〜12、及び試料No.21〜23の切削工具(形状はSEET13T3AGSN−G)について、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.30mmになるまでの切削可能時間を測定した。その結果を、表7に示す。切削可能時間が長い切削工具である程、初期摩耗、熱摩耗が抑えられることにより、切削工具の寿命が長いことを示す。
<切削条件>
被削材:FCD600ブロック材(鋳鉄)
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
周速:350m/min
送り速度:0.3mm/秒
切込み量:2.0mm
切削液:なし
Figure 2021167056
表7より、試料No.1〜12(実施例)の切削工具は、試料No.21〜23(比較例)の切削工具に比べ、初期摩耗、熱摩耗が抑えられることにより、切削工具の寿命が長いことが分かった。
<切削試験2>
次に、試料No.3、及び試料No.21〜23の切削工具に対し、以下の切削条件の下で切削試験(耐摩耗性試験)を行い、切削時間と逃げ面の摩耗量との相関関係について調べた。具体的には、試料No.3、及び試料No.21〜23の切削工具(形状はSEET13T3AGSN−G)について、以下の切削条件により切削加工を行い、各切削時間における逃げ面摩耗量(Vb)を測定した。Vbが0.34mmを超えたところで当該切削試験を終了した。その結果を、表8及び図9に示す。表8において「−」は、逃げ面の摩耗量の測定を行わなかったことを意味している。図9において、縦軸は逃げ面の摩耗量(mm)を示し、横軸は切削時間(分)を示している。
<切削条件>
被削材:FCD600ブロック材(鋳鉄)
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
周速:350m/min
送り速度:0.3mm/秒
切込み量:2.0mm
切削液:なし
Figure 2021167056
表8及び図9の結果から、多層構造部のみからなる硬質粒子を含む被覆層を有する試料No.21の切削工具では、切削開始から1分後の逃げ面摩耗量が0.09mmであり初期摩耗が大きいことが分かった。マトリックス−ドメイン構造部のみからなる硬質粒子を含む被覆層を有する試料No.22の切削工具では、切削開始から9分後までの逃げ面摩耗量が他の3つの切削工具と比較して小さく、初期摩耗に強いことが窺える。しかし切削開始10分後を超えたあたりから逃げ面摩耗量が増大しており、熱摩耗が大きいことが分かった。PVD法で形成した被覆層を有する試料No.23の切削工具では、初期摩耗及び熱摩耗の両方が大きいことが分かった。
一方、多層構造部と上記多層構造部の表面に接して配置されているマトリックス−ドメイン構造部とからなる硬質粒子からなる被覆層を有する試料No.3の切削工具では、切削開始から1分後の逃げ面摩耗が試料No.21よりも小さく、初期摩耗に対する耐性に優れていることが分かった。さらに、当該切削工具は、切削開始から10分を超えたあたりから、試料No.22の切削工具よりも逃げ面摩耗量が小さく、熱摩耗に対する耐性にも優れていることが分かった。
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 すくい面
2 逃げ面
3 刃先稜線部
10 基材
20 被覆層
21 下地層
30 硬質粒子
31 マトリックス−ドメイン構造部
32 多層構造部
40 被膜
50 切削工具
70 CVD装置
71 基材セット治具
72 反応容器
73 調温装置
74 第1ガス導入管
75 第2ガス導入管
76 ガス導入管
77 ガス排気管
78 ガス排気口
d マトリックス−ドメイン構造部の厚み

Claims (6)

  1. 基材と前記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
    前記被覆層は、立方晶型の硬質粒子からなり、
    前記立方晶型の硬質粒子は、多層構造部とマトリックス−ドメイン構造部とからなり、
    前記多層構造部は、前記基材とは反対の側において前記マトリックス−ドメイン構造部と接していて、
    前記多層構造部は、第一単位層と第二単位層とを含み、
    前記マトリックス−ドメイン構造部は、マトリックス領域と前記マトリックス領域に囲まれているドメイン領域とを含み、
    前記立方晶型の硬質粒子は、アルミニウム及びチタンを構成元素として含む窒化物又は炭化物からなり、
    前記アルミニウムの原子比xは、前記立方晶型の硬質粒子における前記アルミニウム及び前記チタンの全体を基準として0.7以上0.96以下であり、
    前記被覆層をX線回折法で分析した場合、(200)配向に由来するピーク強度が、他の配向に由来するピーク強度と比較して最大値を示す、切削工具。
  2. 前記被覆層が六方晶型の硬質粒子を含む場合、前記六方晶型の硬質粒子の含有割合は、前記立方晶型の硬質粒子と前記六方晶型の硬質粒子との総量を基準としたとき、0体積%を超えて20体積%以下である、請求項1に記載の切削工具。
  3. 前記マトリックス−ドメイン構造部の厚みは、0.1μm以上2μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の切削工具。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削工具の製造方法であって、
    前記基材を準備する第1工程と、
    化学気相蒸着法を用いて、前記基材上に前記被覆層の前駆体を形成する第2工程と、
    前記被覆層の前駆体の表面にエネルギー粒子を断続的に照射する第3工程と、
    を含む、切削工具の製造方法。
  5. 前記第2工程において、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アンモニアガスを含む第二ガスとのそれぞれを、650℃以上850℃以下且つ2kPa以上4kPa以下の条件において前記基材に対して噴出することを含む、請求項4に記載の切削工具の製造方法。
  6. 前記第3工程における前記エネルギー粒子は、ガリウムイオンである、請求項4又は請求項5に記載の切削工具の製造方法。
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