次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して本発明を説明する。ただし本発明は、図面に記載された態様に限定されるものではない。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の過酸化水素除去装置の構成を示している。本発明に基づく過酸化水素除去装置は、陽極11を備えた陽極室21と陰極12を備えた陰極室25との間に少なくとも1つの過酸化水素除去室23を備えており、過酸化水素除去室23は、陽極11の側に位置する第1のイオン交換膜と陽極12の側に位置する第2のイオン交換膜とによって区画されている。過酸化水素除去室23には、過酸化水素分解能を有する金属触媒が担持されているイオン交換体が充填されている。図1に示す例では、陽極11の側に配置される第1のイオン交換膜はアニオン交換膜32であり、陰極12の側に配置される第2のイオン交換膜はカチオン交換膜33であり、過酸化水素除去室23内には、白金族金属触媒が担持されたイオン交換体(IER)が充填されている。図において、白金族金属触媒が担持されたイオン交換体を「Cat. IER」で表記している。具体的には図1に示される過酸化水素除去装置では、陽極11と陰極12とが向き合っており、陽極11と陰極12の間に、陽極室21、第1の濃縮室22、過酸化水素除去室23、第2の濃縮室24及び陰極室25が陽極11の側からこの順で配置されている。陽極室21と第1の濃縮室22はカチオン交換膜31で仕切られ、第1の濃縮室22と過酸化水素除去室23はアニオン交換膜32で仕切られ、過酸化水素除去室23と第2の濃縮室24はカチオン交換膜33で仕切られ、第2の濃縮室24と陰極室25はアニオン交換膜34で仕切られている。陽極室21、第1の濃縮室22、第2の濃縮室24及び陰極室25には、それぞれ白金族金属触媒を担持していないイオン交換体が充填されている。ここで、イオン交換体としては、アニオン交換体及びカチオン交換体のいずれか、あるいはそれらの両方が用いられる。アニオン交換体とカチオン交換体の両方を用いる場合には、イオン交換体の充填形態は、アニオン交換体及びカチオン交換体を混合して充填した混床構成であってもよいし、アニオン交換体の層とカチオン交換体の層とがそれぞれ形成されるようにそれらを充填する複層床構成であってもよい。
次に、図1に示す過酸化水素除去装置の動作を説明する。過酸化水素を含む被処理水から過酸化水素を除去するときは、陽極室21、第1の濃縮室22、第2の濃縮室24、陰極室25にそれぞれ供給水を通水し、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加した状態で、過酸化水素除去室23に被処理水を通水する。過酸化水素を含んだ被処理水を過酸化水素除去室23に通水すると、被処理水中の過酸化水素は、過酸化水素除去室23内のイオン交換体に担持された白金族金属触媒との間の触媒反応によって水と酸素とに分解され、その結果、過酸化水素除去室23からは過酸化水素が除去された処理水が流出する。このとき、過酸化水素除去室23では、印加電流によって異種のイオン交換性物質の界面で生じる電位差により、水の解離反応(H2O→H++OH-)が同時に起こり、水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH-)が生成する。異種のイオン交換性物質の界面は、例えば、アニオン交換膜とカチオン交換体との界面、カチオン交換膜とアニオン交換体との界面、あるいはカチオン交換体とアニオン交換体との界面である。このように生成した水素イオンと水酸化物イオンとによって、先に過酸化水素除去室23内のイオン交換体に吸着されていたイオン成分がイオン交換されてイオン交換体から脱離する。脱離したイオン成分のうちアニオンはアニオン交換膜32を介して陽極11に近い方の第1の濃縮室22に移動し、この第1の濃縮室22から濃縮水として排出される。一方、カチオンは、カチオン交換膜33を介して陰極12に近い方の第2の濃縮室24に移動し、この第2の濃縮室24から濃縮水として排出される。結局、過酸化水素除去室23に供給された被処理水中のイオン成分は、第1の濃縮室22及び第2の濃縮室24に移行して排出され、同時に、過酸化水素除去室23のイオン交換体も再生される。なお、陽極室21及び陰極室25からは電極水がそれぞれ排出される。なお、直流電圧の印加は被処理水の通水時に連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
濃縮室22,24及び電極室(すなわち陽極室21及び陰極室25)に通水する供給水としては、特に制限はなく、それぞれ独立の供給水を用いることができ、また、同一の供給水を分岐して用いてもよい。さらに、被処理水や過酸化水素除去室23から排出される処理水を供給水として通水してもよいし、過酸化水素を含まない別系統の供給水を通水してもよい。また図では、電極室、濃縮室22,24及び過酸化水素除去室23での供給水や被処理水の流れは相互に並流の関係となっているが、隣接する室の間で向流となるように水を流してよい。
図1に示す構成では、[濃縮室(C)22|アニオン交換膜(AEM)32|過酸化水素除去室(H)23|カチオン交換膜(CEM)33|濃縮室(C)24]からなる基本構成が陽極11と陰極12の間に配置されている。この基本構成をセルセットと呼ぶ。実際には、電極間にこのようなセルセットを複数個(図1では「Nセット」)並置し、電気的には複数個のセルセットが一端を陽極11とし、他端を陰極12として直列接続されるようにして、処理能力の増大を図ることができる。この場合、隣接するセルセット間で隣り合う濃縮室を共有することができるので、本発明に基づく過酸化水素除去装置の構成としては、[AEM|H|CEM|C]からなる繰り返し単位をXで表すこととすると、[陽極室|CEM|C|X|X|・・・|X|AEM|陰極室]の構成とすることができる。このような直列構造において、陽極室21に最も近い過酸化水素除去室23に関し、陽極室21との間に独立の濃縮室22を介在させることなく陽極室21自体を濃縮室22として機能させることができる。同様に、陰極室25に最も近い過酸化水素除去室23に関し、陰極室25との間に独立の濃縮室24を介在させることなく陰極室25自体を濃縮室24として機能させることができる。
本発明に基づく過酸化水素除去装置では、上述したように、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加して過酸化水素除去室23内のイオン交換体、例えば粒状のイオン交換樹脂を電気再生しつつ、過酸化水素の除去や脱塩を行う。陽極11と陰極12との間に印加される電圧を小さくするためには、過酸化水素除去室23内において、通水が阻害されない範囲内でイオン交換体が密に充填されていることが有効である。また、イオン交換体、特にイオン交換樹脂は、その含水量やイオン形によって粒径が変化することが知られている。イオン形が再生形であるときは、すなわちアニオン交換体であればイオン交換基に水酸化物イオンが吸着され、カチオン交換体であればイオン交換基に水素イオンが吸着された状態としたときは、再生形以外のイオン形(例えば塩化物イオンやナトリウムイオンが吸着された状態)であるとき、すなわち塩形であるときに比べて粒径が大きくなる。また、イオン交換体の含水量が大きければ粒径も大きくなる。イオン交換体、特にイオン交換樹脂は弾性を有し、圧力が加われば変形し、圧力の印加が終われば元の形状に戻る性質を有する。そこで、過酸化水素除去室23の変形がないものと仮定して、粒径が小さな状態でイオン交換体を過酸化水素除去室23に充填し、その後、通水や電気再生によりイオン交換体を膨張させてイオン交換体が過酸化水素除去室23内で密に充填されるようにすることが好ましい。もっとも、イオン交換体があまりにも過密に過酸化水素除去室23に存在すると、過酸化水素除去室23への通水が阻害されて好ましくない。
そこで本発明に基づく過酸化水素除去装置では、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加して被処理水を過酸化水素除去室23に通水したのちに過酸化水素除去室23から取り出されるイオン交換体の自由状態での体積を過酸化水素除去室23の容積で除算した値である充填率が、95%以上125%以下であるようにする。充填率は、102%以上125%以下であることが好ましい。ここでイオン交換体の自由状態での体積とは、過酸化水素除去室23によってイオン交換体が拘束されない状態での、粒子間の空隙も含めた見かけの体積のことである。以下に説明するように本発明に基づく過酸化水素除去装置では、金属触媒を担持させたイオン交換体に加え、金属触媒を担持させていないイオン交換体を過酸化水素除去室23に充填する場合もある。本発明による効果はイオン交換体相互間での物理的な密着度合いによるものと考えられるので、金属触媒を担持させたイオン交換体と金属触媒を担持させていないイオン交換体とが共存する場合における充填率は、過酸化水素除去室23から取り出したイオン交換体の全体の自由状態での体積に基づいて定められる。以下、本発明に基づく種々の過酸化水素除去装置を説明するが、そのいずれにおいても過酸化水素除去室23におけるイオン交換体の充填率は95%以上125%以下である。
図2は、図1に示す構成において、陽極室21にカチオン交換樹脂(CER)を充填し、濃縮室22,24及び陰極室25にアニオン交換樹脂(AER)を充填し、過酸化水素除去室23には、白金族金属触媒を担持させたアニオン交換樹脂(Cat. AER)を充填した例を示している。
図3は、図2に示す過酸化水素除去装置において、陽極室21、第1の濃縮室22、第2の濃縮室24及び陰極室25への供給水として、過酸化水素除去室23で過酸化水素が除去されたのちの処理水を用いる例を示している。過酸化水素除去室23から得られる処理水の一部を第1の濃縮室22、第2の濃縮室24に通水し、それぞれ濃縮水として、排出する。また、処理水の一部を陰極室25に通水し、排出された電極水をさらに陽極室21に通水している。過酸化水素が除去された処理水を濃縮室及び電極室に通水する供給水として使用することにより、濃縮室、電極室に含まれるイオン交換体を酸化劣化させるおそれが低くなる。
第1の実施形態の過酸化水素除去装置においては、白金族金属触媒を担持させたアニオン交換体(Cat. AER)に加えて金属触媒を担持させていないイオン交換体を過酸化水素除去室23に充填することができる。以下、そのような例について説明する。過酸化水素除去室23に、金属触媒を担持させていないイオン交換体を充填するときは、そのイオン交換体が過酸化水素によって劣化することがないように、金属触媒を担持させたイオン交換体が過酸化水素除去室23における被処理水の入口に接して配置されるように、各イオン交換体の配置を定めることが好ましい。なお以下の説明において、白金族金属触媒を担持させたアニオン交換樹脂を触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)とも呼ぶ。単にアニオン交換樹脂(AER)及びカチオン交換樹脂(CER)と言うときは、それぞれ、金属触媒を担持させていないアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂のことを指す。
図4に示した過酸化水素除去装置では、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)とアニオン交換樹脂(AER)とが混合された形態で過酸化水素除去室23に充填されている。なお、アニオン交換樹脂(AER)に代えてカチオン交換樹脂(CER)が充填されていてもよい。この構成では、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)だけを過酸化水素除去室23に充填する場合に比べ、高価な白金族金属触媒の使用量を削減することができるので、コストを低減することができる。
図5に示した過酸化水素除去装置では、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層とアニオン交換樹脂(AER)の層とが、水の流れに沿って触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層の方が上流側となるように、これらの層が交互に配置した複層床構成で過酸化水素除去室23に充填されている。この過酸化水素除去装置では、過酸化水素除去室23における被処理水の入口の近傍において過酸化水素の分解除去が行われるとともに、過酸化水素除去室23の全体においてアニオンに対する脱塩処理が行われる。
図6に示す過酸化水素除去装置は、図5に示す過酸化水素除去装置の過酸化水素除去室23において、アニオン交換樹脂(AER)の代わりにカチオン交換樹脂(CER)を充填したものである。したがって過酸化水素除去室23では、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層とカチオン交換樹脂(CER)の層とが、水の流れに沿って触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層の方が上流側となるように、複層床構成で充填されている。この過酸化水素除去装置では、過酸化水素除去室23における被処理水の入口の近傍において過酸化水素の分解除去が行われるともに、全体としてアニオン及びカチオンに対する脱塩処理が行われる。
図7に示した過酸化水素除去装置では、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層とカチオン交換樹脂(CER)の層とアニオン交換樹脂(AER)の層とが水の流れに沿って上流側からこの順で、複層床構成で過酸化水素除去室23に充填されている。この過酸化水素除去装置の過酸化水素除去室23においても、過酸化水素の除去と、アニオン及びカチオンの両方に対する脱塩処理が行なわれ、同時にそれぞれのイオン交換樹脂の再生が行われる。
図5~図7を用いて説明した過酸化水素除去装置においても、過酸化水素除去室23を複層床構成とすることにより、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)だけを過酸化水素除去室23に充填する場合に比べ、高価な白金族金属触媒の使用量を削減することができるので、コストを低減することができる。
先に述べたように、陽極室に隣接する濃縮室を設けずに陽極室が濃縮室としても機能することができ、同様に、陰極室に隣接する濃縮室を設けずに陰極室が濃縮室としても機能するようにすることができる。図8に示す過酸化水素除去装置では、陽極11、陽極室26、アニオン交換膜32、過酸化水素除去室23、カチオン交換膜33、陰極室27及び陰極12がこの順で配置されている。陽極室26及び陰極室27はいずれも濃縮室としての機能を備える。陽極室26にはアニオン交換樹脂(AER)またはカチオン交換樹脂(CER)が充填され、過酸化水素除去室23には触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)が充填され、陰極室27にはアニオン交換樹脂(AER)またはカチオン交換樹脂(CER)が充填されている。この過酸化水素除去装置は、濃縮室22,24としての機能を陽極室26及び陰極室27がそれぞれ備えてその代わりに濃縮室22,24が設けられていない点を除けば図2に示した過酸化水素除去装置と同じである。したがって、図8に示す過酸化水素除去装置は、図2に示した過酸化水素除去装置と同様に動作する。
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の過酸化水素除去装置について説明する。第1の実施形態の過酸化水素除去装置において、陽極11と陰極12の間において、過酸化水素除去室23の陰極側もしくは陽極側に中間イオン交換膜を介して過酸化水素除去室23に隣接するように脱塩室を設け、被処理水を過酸化水素除去室に通水して得られた処理水を脱塩室に通水するようにすることができる。脱塩室にはイオン交換体が充填される。このように構成することにより、被処理水からの過酸化水素の除去と脱塩とを同時に行うことができ、高い純度の純水ならびに超純水を製造することが可能となる。中間イオン交換膜は、アニオン交換膜であってもカチオン交換膜であってもよく、バイポーラ膜などの複合膜であってもよい。
図9は、第2の実施形態の過酸化水素装置を示している。図示される過酸化水素除去装置は、図1に示す過酸化水素除去装置の第2のイオン交換膜に代えて、中間イオン交換膜36を配置したものである。中間イオン交換膜36の陰極12の側に、イオン交換体が充填された脱塩室28が設けられ、脱塩室28と陰極室25の間に第2のイオン交換膜が配置し、過酸化水素除去室23で処理された処理水が、脱塩室28に通水される。過酸化水素除去室23におけるイオン交換体の充填率は、第1の実施形態と場合と同様に、95%以上125%以下となっている。図示したものでは、陽極11、陽極室21、カチオン交換膜31、第1の濃縮室22、アニオン交換膜32、過酸化水素除去室23、中間イオン交換膜36、脱塩室28、カチオン交換膜33、第2の濃縮室24、アニオン交換膜34、陰極室25及び陰極12がこの順で配置されている。
図10は、第2の実施形態の過酸化水素除去装置の具体例の1つを示している。図10に示される過酸化水素除去装置は、図2に示す過酸化水素除去装置において過酸化水素除去室23と第2の濃縮室24との間に脱塩室28を配置したものである。過酸化水素除去室23と脱塩室28とは、中間イオン交換膜であるカチオン交換膜35によって仕切られており、脱塩室28と第2の濃縮室24とは第2のイオン交換膜であるカチオン交換膜33で仕切られている。被処理水は過酸化水素除去室23に供給され、過酸化水素除去室23において過酸化水素を分解除去されたのち、脱塩室28に通水される。脱塩室28からは、過酸化水素が除去され脱塩処理がなされた処理水が排出される。図10に示す過酸化水素除去装置においても、アニオン交換膜32から第2の濃縮室24までを繰り返し単位Xとして、陽極室21に隣接する第1の濃縮室22と、陰極室25に接するアニオン交換膜34との間に、繰り返し単位Xを直列に複数セット設けることができる。
図11に示す過酸化水素除去装置は、脱塩室28に対してアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混床(MB)形態で充填した点で、図10に示す過酸化水素除去装置とは異なっている。図11において、過酸化水素除去室23と脱塩室28とを仕切る中間イオン交換膜は、アニオン交換膜37によって構成されている。
図12に示す過酸化水素除去装置は、過酸化水素除去室23と脱塩室28を仕切る中間イオン交換膜としてアニオン交換膜37を用いるとともに、脱塩室28において、水の流れ方向に沿ってカチオン交換樹脂(CER)の層とアニオン交換樹脂(AER)の層とをこの順で交互に配置した複層床構成で充填している点で、図10に示す過酸化水素除去装置と異なっている。脱塩室28と陰極12の側の濃縮室24とはカチオン交換膜33によって仕切られている。
図13に示す過酸化水素除去装置は、図12に示す過酸化水素除去装置において、陰極12側の濃縮室24と陰極室25との間に、補助となる過酸化水素除去室29を配置したものである。この過酸化水素除去室29にも、白金族金属触媒を担持させたアニオン交換体(Cat. AER)が、充填率が95%以上125%以下であるように充填され、被処理水が供給される。過酸化水素除去室29から排出される水は、過酸化水素除去室23から排出される水と合流して脱塩室28に供給される。濃縮室24と過酸化水素除去室29とはアニオン交換膜34を挟んで隣接し、過酸化水素除去室29と陰極室25とはアニオン交換膜38を挟んで隣接する。図13に示す過酸化水素除去装置は、複数の過酸化水素除去室23,29を有するため、より効率的に過酸化水素の除去が行うことができる。
[第3の実施形態]
第1の実施形態の過酸化水素除去装置において過酸化水素除去室23内のイオン交換体の再生に利用される水酸化物イオンは、アニオン交換樹脂とカチオン交換膜とが接する点、あるいはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが接する点において発生する水の解離反応によって生じたものである。イオン交換樹脂とイオン交換膜とが接する面積や、イオン交換樹脂が相互に接する面積は小さいので、過酸化水素除去室23内のイオン交換体の再生に用いられる水酸化物イオンの生成量も小さい。過酸化水素除去室23内に大量に水酸化物イオンを供給できるようにすれば、過酸化水素除去室23におけるイオン交換体の充填率を95%以上125%とすることの効果と相まって、イオン交換体の再生効率をさらに向上させ、過酸化水素除去室23の実効的な電気抵抗をさらに低下させることができる。そこで第3の実施形態の過酸化水素除去装置では、過酸化水素除去室23と陰極12との間に、カチオン交換膜が陰極12の側となりアニオン交換膜が過酸化水素除去室23の側となるようにカチオン交換膜とアニオン交換膜とが相互に重ね合わされたものを配置する。このように構成すると、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加したときに、電流によって生じる電位差によってカチオン交換膜とアニオン交換膜との界面において水の解離反応が進行し、水酸化物イオン(OH-)がアニオン交換膜から過酸化水素除去室に供給される。その結果、陽極11と陰極12との間の電気抵抗がより小さくなって、低電圧で大電流を過酸化水素除去室に流すことが可能となり、過酸化水素除去室23内のイオン交換体の再生を促進することができる。カチオン交換膜とアニオン交換膜を重ね合わせるときに、単純に両者を重ね合わせてもよいし、両者の界面に水の解離反応を促進する触媒を配置することによりバイポーラ膜として構成してもよい。
図14は、第3の実施形態の過酸化水素除去装置の構成を示している。この過酸化水素除去装置は、図1に示す過酸化水素除去装置において、過酸化水素除去室23と第2の濃縮室24との間を仕切るカチオン交換膜33の過酸化水素除去室23側の面に、アニオン交換膜81を配置し、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされるようにしたものである。具体的には図14に示される過酸化水素除去装置では、陽極11と陰極12とが向き合っており、陽極11と陰極12の間に、陽極室21、第1の濃縮室22、過酸化水素除去室23、第2の濃縮室24及び陰極室25が陽極11の側からこの順で配置されている。陽極室21と第1の濃縮室22はカチオン交換膜31で仕切られ、第1の濃縮室22と過酸化水素除去室23はアニオン交換膜32で仕切られている。過酸化水素除去室23と第2の濃縮室24は、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とを相互に重ね合わせたもので仕切られている。第2の濃縮室24と陰極室25はアニオン交換膜34で仕切られている。陽極室21、第1の濃縮室22、第2の濃縮室24及び陰極室25には、図1に示した過酸化水素除去装置と同様に、それぞれ白金族金属触媒を担持していないイオン交換体が充填されている。この実施形態においても、過酸化水素除去室23におけるイオン交換体の充填率は95%以上125%以下となっている。
次に、図14に示す過酸化水素除去装置の動作を説明する。過酸化水素を含む被処理水から過酸化水素を除去するときは、図1に示す装置の場合と同様に、陽極室21、濃縮室22,24及び陰極室25にそれぞれ供給水を通水し、陽極11と陰極12との間に直流電圧を印加した状態で、過酸化水素除去室23に被処理水を通水する。過酸化水素を含んだ被処理水を過酸化水素除去室23に通水すると、被処理水中の過酸化水素は、過酸化水素除去室23内のイオン交換体に担持された白金族金属触媒との間の触媒反応によって水と酸素とに分解され、その結果、過酸化水素除去室23からは過酸化水素が除去された処理水が流出する。このとき、過酸化水素除去室23では、印加電流によって異種のイオン交換性物質の界面で生じる電位差により、水の解離反応(H2O→H++OH-)が起こり、水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH-)が生成し、水素イオンと水酸化物イオンとによって、先に過酸化水素除去室23内のイオン交換体に吸着されていたイオン成分がイオン交換されてイオン交換体から脱離する。脱離したイオン成分のうちアニオンはアニオン交換膜32を介して陽極11に近い方の第1の濃縮室22に移動し、この第1の濃縮室22から濃縮水として排出される。同時に、過酸化水素除去室23のイオン交換体も再生される。陽極室21及び陰極室25からは電極水がそれぞれ排出される。なお、直流電圧の印加は被処理水の通水時に連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
図14に示した過酸化水素除去装置では、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面において効率よく水の解離反応が進行し、アニオン交換膜81を介して大量の水酸化物イオンが過酸化水素除去室23内に供給される。大量の水酸化物イオンが供給されることにより過酸化水素除去室23の実効的な電気抵抗を小さくできるので、過酸化水素除去室23内のアニオン交換体の電気再生のために陽極11と陰極12の間に印加される直流電圧も小さくすることができる。
図14に示す構成では、[アニオン交換膜(AEM)32|過酸化水素除去室(H)23|アニオン交換膜(AEM)81|カチオン交換膜(CEM)33|濃縮室(C)24]からなる構成を繰り返し単位Xとして、陽極室21に隣接する濃縮室22と、陰極室25を区画するアニオン交換膜34の間に、繰り返し単位Xを直列に複数セット設けることができる。このような直列構造において、陽極室21に最も近い過酸化水素除去室23に関し、陽極室21との間に独立の濃縮室22を介在させることなく陽極室21自体を濃縮室22として機能させることができる。同様に、陰極室25に最も近い過酸化水素除去室23に関し、陰極室25との間に独立の濃縮室24を介在させることなく陰極室25自体を濃縮室24として機能させることができる。
図15は、図14に示す構成において、陽極室21にカチオン交換樹脂(CER)を充填し、濃縮室22,24及び陰極室25にアニオン交換樹脂(AER)を充填し、過酸化水素除去室23には、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)を充填した例を示している。言い換えれば図15に示す過酸化水素除去装置は、図2に示す装置において、過酸化水素除去室23と濃縮室24とを仕切るカチオン交換膜33の過酸化水素除去室23側の面に、アニオン交換膜81を配置し、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされるようにしたものである。被処理水中のTOC成分を紫外線酸化装置により分解除去した場合、紫外線酸化装置から排出される水には炭酸成分と微量の過酸化水素が含まれている。そのような水を被処理水として被処理水から過酸化水素を分解除去する場合、過酸化水素の除去とともに炭酸成分も除去できることが好ましい。図15に示す装置では、アニオン交換膜81を介して、水解離反応により生成した水酸化物イオンが供給されるので過酸化水素除去室23内は塩基性の環境となり、被処理水中の炭酸成分は炭酸イオンあるいは重炭酸イオンとしてアニオン交換体に吸着し、次いで水酸化物イオンによってイオン交換されてアニオン交換膜32を介して濃縮室22に移動する。水酸化物イオンによるアニオン交換体の再生も促進される。したがって、図15に示す過酸化水素除去装置では、被処理水中の過酸化水素を分解除去できるとともに、被処理水から炭酸成分を除去することもできる。図15に示す過酸化水素除去装置においても、図3に示すものと同様に、陽極室21、第1の濃縮室22、第2の濃縮室24及び陰極室25への供給水として、過酸化水素除去室23で過酸化水素が除去されたのちの処理水を用いることができる。具体的には、過酸化水素除去室23から得られる処理水の一部を濃縮室22,24に通水し、それぞれ濃縮水として排出し、また、処理水の一部を陰極室25に通水し、排出された電極水をさらに陽極室21に通水することができる。
図16は、図15に示す過酸化水素除去装置の動作を具体的に示す図であって、過酸化水素除去室23とその近傍を示している。矢印で示すように過酸化水素除去室23とその両側の濃縮室22,24とでは、水の流れが逆向きとなっている。ここでは、白金族金属触媒がパラジウム(Pd)からなり、パラジウム触媒を担持させた粒状のアニオン交換樹脂(Pd AER)がアニオン交換体として過酸化水素除去室23に充填されている。濃縮室22,24には、金属触媒を担持させていない粒状のアニオン交換樹脂がアニオン交換体として充填されている。図示されるように、陽極11と陰極12との間に直流電流を印加すると、電流によって生じる電位差によってアニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面で水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生し、水素イオンはカチオン交換膜33を介して濃縮室24に移動し、水酸化物イオンはアニオン交換膜81を介して過酸化水素除去室23に移動する。以下の説明において、パラジウム触媒を担持させた粒状のアニオン交換樹脂(Pd AER)のことを、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)とも呼ぶ。
第3の実施形態の過酸化水素除去装置においても、第1の実施形態の装置と同様に、白金族金属触媒を担持させたアニオン交換体(Cat. AER)に加えて金属触媒を担持させていないイオン交換体を過酸化水素除去室23に充填することができる。以下、そのような例について説明する。
図17に示す過酸化水素除去装置は、図4に示す装置において、過酸化水素除去室23と濃縮室24とを仕切るカチオン交換膜33の過酸化水素除去室23側の面に、アニオン交換膜81を配置し、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされるようにしたものである。この構成においても、高価な白金族金属触媒の使用量を削減することができるので、コストを低減することができる。
図18に示す過酸化水素除去装置は、図5に示す装置において、過酸化水素除去室23と濃縮室24とを仕切るカチオン交換膜33の過酸化水素除去室23側の面に、アニオン交換膜81を配置し、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされるようにしたものである。この過酸化水素除去装置では、図16を用いて説明した場合と同様に、陽極11と陰極12との間に直流電流を印加すると、電流によって生じる電位差によってアニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面で水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生する。水酸化物イオンは、アニオン交換膜81から、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)の層と金属触媒を担持させていないアニオン交換樹脂(AER)の層の両方に移動する。この過酸化水素除去装置では、過酸化水素除去室23における被処理水の入口の近傍において過酸化水素の分解除去が行われるとともに、過酸化水素除去室23の全体においてアニオンに対する脱塩処理が行われる。
図19に示す過酸化水素除去装置は、図18に示す過酸化水素除去装置の過酸化水素除去室23において、アニオン交換樹脂(AER)の代わりにカチオン交換樹脂(CER)を充填したものである。したがって過酸化水素除去室23では、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層とカチオン交換樹脂(CER)の層とが、水の流れに沿って触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層の方が上流側となるように、複層床構成で充填されている。そしてこの複層床構成において、カチオン交換樹脂(CER)が形成されている位置では、アニオン交換膜81は設けられておらず、カチオン交換樹脂(CER)とカチオン交換膜33とが直接接している。この過酸化水素除去装置では、陽極11と陰極12との間に直流電流を印加すると、電流によって生じる電位差によってアニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面で水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生し、水素イオンはカチオン交換膜33を介して濃縮室24に移動し、水酸化物イオンはアニオン交換膜81を介して過酸化水素除去室23に移動する。さらにアニオン交換膜32と過酸化水素除去室23内のカチオン交換樹脂(CER)との界面でも水が解離し、水素イオンと水酸化物イオンとが発生する。水素イオンは、カチオン交換樹脂(CER)内を拡散してカチオン交換樹脂(CER)を再生する。過酸化水素除去室23内のカチオン交換樹脂(CER)から脱離したカチオンは、アニオン交換膜81と重ね合わされていない位置のカチオン交換樹脂(CER)を通って、陰極12側の濃縮室24に移動する。したがって、図19に示す過酸化水素除去装置では、過酸化水素除去室23において、過酸化水素の除去と、アニオン及びカチオンの両方に対する脱塩処理が行なわれ、同時に触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)とカチオン交換樹脂(CER)の両方の再生が行われる。
図20に示す過酸化水素除去装置は、図15に示す過酸化水素除去装置において、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層とカチオン交換樹脂(CER)の層とアニオン交換樹脂(AER)の層とが水の流れに沿って上流側からこの順で、複層床構成で過酸化水素除去室23に充填されているものである。カチオン交換膜33と相互に重なり合うアニオン交換膜81は、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層が形成されている位置にしか設けられていない。カチオン交換樹脂(CER)とアニオン交換樹脂(AER)はカチオン交換膜33と直接接している。陽極11と陰極12との間に直流電流を印加すると、電流によって生じる電位差によってアニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面で水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生する。水酸化物イオンは、アニオン交換膜81から、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)の層に移動する。同時にアニオン交換膜32と過酸化水素除去室23内のカチオン交換樹脂(CER)との界面と、過酸化水素除去室23内のアニオン交換樹脂(AER)とカチオン交換膜33の界面とでも水が解離して水素イオンと水酸化物イオンとが発生する。アニオン交換膜32との界面で発生した水素イオンは、カチオン交換樹脂(CER)内を拡散し、カチオン交換樹脂(CER)を再生する。カチオン交換膜33との界面で発生した水酸化物イオンは、アニオン交換樹脂(AER)内を拡散してこのアニオン交換樹脂(AER)を再生する。この過酸化水素除去装置の過酸化水素除去室23においても、過酸化水素の除去と、アニオン及びカチオンの両方に対する脱塩処理が行なわれ、同時にそれぞれのイオン交換樹脂の再生が行われる。なお、図20に示す過酸化水素除去装置において、カチオン交換膜33と相互に重なり合うアニオン交換膜81は、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層の形成位置だけでなく、アニオン交換樹脂(AER)の形成位置に設けられていてもよい。
図18~図20を用いて説明した過酸化水素除去装置においても、過酸化水素除去室23を複層床構成とすることにより、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)だけを過酸化水素除去室23に充填する場合に比べ、高価な白金族金属触媒の使用量を削減することができるので、コストを低減することができる。
図21に示す過酸化水素除去装置は、図8に示す過酸化水素除去装置において、過酸化水素除去室23と陰極室27との間を仕切るカチオン交換膜33の過酸化水素除去室23側の面に、アニオン交換膜81を配置し、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされるようにしたものである。この過酸化水素除去装置は、濃縮室22,24としての機能を陽極室26及び陰極室27がそれぞれ備えてその代わりに濃縮室22,24が設けられていない点を除けば図15に示した過酸化水素除去装置と同じである。したがって、図21に示す過酸化水素除去装置は、図15に示した過酸化水素除去装置と同様に動作する。
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態の過酸化水素除去装置について説明する。第4の過酸化水素除去装置は、上述した第2の実施形態の過酸化水素除去装置において、過酸化水素除去室23に供給される水酸化物イオンの量を増やすために、過酸化水素除去室23と陰極12との間に、カチオン交換膜が陰極12の側となりアニオン交換膜が過酸化水素除去室23の側となるようにカチオン交換膜とアニオン交換膜とが相互に重ね合わされたものを配置したものである。この場合、過酸化水素除去室23と脱塩室28とを仕切る中間イオン交換膜自体を、アニオン交換膜が過酸化水素除去室23の側となるようにアニオン交換膜とカチオン交換膜を相互に重ねたものとしてもよい。あるいは、脱塩室28に少なくともアニオン交換樹脂が充填されている場合には、中間イオン交換膜をアニオン交換膜とし、脱塩室28がその陰極12の側で、アニオン交換膜が過酸化水素除去室23の側となるようにアニオン交換膜とカチオン交換膜を相互に重ねたものによって区画されるようにすることもできる。この実施形態においても、過酸化水素除去室23におけるイオン交換体の充填率は、95%以上125%以下となっている。
図22に示す過酸化水素除去装置は、図10に示す過酸化水素除去装置において、中間イオン交換膜として設けられているカチオン交換膜35の過酸化水素除去室23の側に、アニオン交換膜82とカチオン交換膜35とが相互に重ね合わされるようにアニオン交換膜82を配置したものである。この場合、アニオン交換膜82とカチオン交換膜35とを相互に重ね合わせたものは、中間イオン交換膜に該当する。被処理水は過酸化水素除去室23に供給され、過酸化水素除去室23において過酸化水素を分解除去されたのち、脱塩室28に通水される。脱塩室28からは、過酸化水素が除去され脱塩処理がなされた処理水が排出される。図22に示す過酸化水素除去装置においても、アニオン交換膜32から第2の濃縮室24までを繰り返し単位Xとして、陽極室21に隣接する第1の濃縮室22と、陰極室25に接するアニオン交換膜34との間に、繰り返し単位Xを直列に複数セット設けることができる。
図22に示す過酸化水素除去装置では、アニオン交換膜82とカチオン交換膜35の界面において水の解離反応が起きて水素イオンと水酸化物イオンが発生し、この水酸化物イオンが過酸化水素除去室23に供給されるので、過酸化水素除去室23の実効的な電気抵抗が低下する。また、過酸化水素除去室23内のアニオン交換樹脂の再生も促進される。このことは、過酸化水素の除去とともにアニオン成分、特に炭酸成分を除去することに関して有利である。
図23に示す過酸化水素除去装置は、図11に示す過酸化水素除去装置において、中間イオン交換膜として設けられているアニオン交換膜37の脱塩室28の側に、アニオン交換膜37とカチオン交換膜83とが相互に重ね合わされるようにカチオン交換膜83を配置したものである。図23に示す過酸化水素除去装置では、アニオン交換膜37とカチオン交換膜83とを相互に重ね合わせたものは、中間イオン交換膜に該当する。
図24に示す過酸化水素除去装置は、図12に示す過酸化水素除去装置において、脱塩室28と濃縮室24とを仕切るカチオン交換膜33の脱塩室28の側に、アニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされるようにアニオン交換膜81を配置したものである。ただし、アニオン交換膜81は、脱塩室28においてアニオン交換樹脂(AER)が充填されている位置のみに設けられており、脱塩室28内のカチオン交換樹脂(CER)はカチオン交換膜33と直接接している。この過酸化水素除去装置では、陽極11と陰極12との間に直流電流を印加すると、電流によって生じる電位差によってアニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面で水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生する。水酸化物イオンは、脱塩室28内のアニオン交換樹脂(AER)を拡散し、中間イオン交換膜であるアニオン交換膜37を通って過酸化水素除去室23に移動する。また、アニオン交換膜37と脱塩室28内のカチオン交換樹脂(CER)との界面での水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生し、この水素イオンはカチオン交換樹脂(CER)内を拡散する。水素イオンが拡散するので、脱塩室28においてカチオン交換樹脂(CER)が充填されている領域は酸性環境となり、被処理水中の炭酸成分が遊離炭酸(CO2)となる。この遊離炭酸は、脱塩室28内のアニオン交換樹脂(AER)が充填されている領域に到達し、この領域は塩基性環境であるので炭酸イオンあるいは重炭酸イオン(炭酸水素イオン)としてアニオン交換樹脂に吸着され、さらに、アニオン交換膜37、過酸化水素除去室23及びアニオン交換膜32を経て濃縮室22に移動する。
図25に示す過酸化水素除去装置は、図24に示す過酸化水素除去装置において、過酸化水素除去室23と脱塩室28とを入れ替え、中間イオン交換膜であるアニオン交換膜37を挟んで陽極11の側を脱塩室28とし、陰極12の側を過酸化水素除去室23としたものである。過酸化水素除去室23では、その被処理水の入口側に触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)が配置され、出口側にカチオン交換樹脂(CER)が配置されている。過酸化水素除去室23と陰極12側の濃縮室24との間はカチオン交換膜33で区画されているが、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)が設けられている位置では、カチオン交換膜33の陽極側11にアニオン交換膜81が重ね合わされ、触媒担持アニオン交換樹脂(Cat. AER)の層はアニオン交換膜81に接している。カチオン交換樹脂(CER)の層は、カチオン交換膜33に直接接している。脱塩室28には、アニオン交換樹脂(AER)が充填されている。被処理水は、過酸化水素除去室23を通液したのち、脱塩室28に供給され、脱塩室28からは、過酸化水素が除去され、脱塩処理がなされた処理水が排出される。この過酸化水素除去装置では、陽極11と陰極12との間に直流電流を印加すると、電流によって生じる電位差によってアニオン交換膜81とカチオン交換膜33の界面で水の解離反応が進行して水素イオンと水酸化物イオンが発生する。水酸化物イオンは、過酸化水素除去室23内のPd担持アニオン交換樹脂(AER)の層に供給される。中間イオン交換膜であるアニオン交換膜37と過酸化水素除去室23内のカチオン交換樹脂(CER)の界面においても水の解離反応が進行し、このとき発生した水素イオンは、過酸化水素除去室23内のカチオン交換樹脂(CER)に供給される。
図26に示す過酸化水素除去装置は、図24に示す過酸化水素除去装置において、陰極12側の濃縮室24と陰極室25との間に、補助となる過酸化水素除去室29を配置したものである。この過酸化水素除去室29にも、白金族金属触媒を担持させたアニオン交換体(Cat. AER)が充填され、被処理水が供給される。過酸化水素除去室29から排出される水は、過酸化水素除去室23から排出される水と合流して脱塩室28に供給される。濃縮室24と過酸化水素除去室29とはアニオン交換膜34を挟んで隣接し、過酸化水素除去室29と陰極室25とはアニオン交換膜38を挟んで隣接する。図26に示す過酸化水素除去装置は、複数の過酸化水素除去室23,29を有するため、より効率的に過酸化水素の除去が行うことができる。
本発明に基づく過酸化水素除去装置に用いられるアニオン交換体は、金属触媒が担持させるために用いられるものかそうでないかによらず、特に限定されるものではなく、モノリス状多孔質アニオン交換体やアニオン交換樹脂が好適に用いられる。また、アニオン交換膜としては、特に限定はないが、例えば、均質アニオン交換膜や不均質アニオン交換膜が好適に用いられる。また、カチオン交換体は特に限定ないが、モノリス状多孔質カチオン交換体やカチオン交換樹脂が好適に用いられる。また、カチオン交換膜としては、特に限定はないが、例えば、均質カチオン交換膜や不均質カチオン交換膜が好適に用いられる。加えて、中間イオン交換膜としては、特に限定はないが、例えば、均質アニオン交換膜や不均質アニオン交換膜、均質カチオン交換膜や不均質カチオン交換膜、バイポーラ膜などが好適に用いられる。
また、アニオン交換樹脂またはカチオン交換樹脂の母体となる樹脂としては、特に制限はないが、三次元的な網目構造を持った有機高分子を母体とするものが好ましく、例えば、母体となる有機高分子としては、スチレン-ジビニルベンゼンの共重合体(スチレン系)や、アクリル酸-ジビニルベンゼンの共重合体(アクリル系)などを挙げることができる。
さらに、アニオン交換体の種類としては、弱塩基性アニオン交換体、強塩基性アニオン交換体等が挙げられる。カチオン交換体の種類としては、弱酸性カチオン交換体、強酸性カチオン交換体等が挙げられる。本発明に用いられる白金族金属触媒を担持したイオン交換体は、上記のカチオン交換体、アニオン交換体に白金族金属触媒の粒子が担持されているものである。
本発明に用いられる白金族金属触媒を担持させたイオン交換体の製造方法には特に制約はなく、公知の方法により白金族金属の粒子をイオン交換体に担持させることにより、白金族金属触媒を担持させたイオン交換体を得ることができる。例えば、アニオン交換体を塩化パラジウムの塩酸水溶液に浸漬し、塩化パラジウム酸アニオンをイオン交換によりアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤と接触させてパラジウム金属ナノ粒子をアニオン交換体に担持する方法がある。あるいは、アニオン交換体をカラムに充填し、塩化パラジウムの塩酸水溶液を通液して塩化パラジウム酸アニオンをイオン交換によりアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤を通液してパラジウム金属ナノ粒子をアニオン交換体に担持する方法がある。これらの方法において用いられる還元剤にも特に制約はなく、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールや、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸等のカルボン酸、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。
本発明に基づく過酸化水素除去装置に供給される被処理水は、過酸化水素を含んでいるものであれば特に限定はなく、その過酸化水素の濃度としては、例えば、1μg/L以上、5μg/L以上、10μg/L以上、100μg/L以上、1000μg/L以上のものを挙げることができる。また被処理水は、炭酸成分を含んでいてもよい。ここで炭酸成分は、H2CO3、HCO3
-、CO3
2-のことを指す。炭酸成分は、例えば紫外線酸化装置によりTOC成分の分解除去を行ったときに発生する。本明細書において、これらの炭酸成分の総量を「全炭酸」といい、その濃度をCO2換算濃度(as CO2)として表す。被処理水の全炭酸の濃度としては、特に制限はないが、例えば、0.01mg/L(as CO2)以上、0.1mg/L(as CO2)以上、1.0mg/L(as CO2)以上のものを挙げることができる。被処理水の導電率にも特に制限はないが、例えば、0.1μS/cm以上、1μS/cm以上のものを挙げることができる。また被処理水は、ナトリウム等の塩成分を含んでいてもよい。被処理水中に含まれるナトリウムの濃度には、特に制限はないが、例えば、1μg/L以上、10μg/L以上、100μg/L以上等を挙げることができる。
本発明において、白金族金属触媒を担持したイオン交換体の充填体積に対する、被処理水の通水空間速度は、過酸化水素が除去できるものであれば特に制限はないが、例えば、10h-1以上、100h-1以上、200h-1以上を挙げることができる。また、被処理水から除去される過酸化水素の除去率についても特に制限はないが、例えば、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上を挙げることができる。
本発明において、過酸化水素除去室23の厚さは9mm以上30mm以下とすることが好ましい。ここで過酸化水素除去室23の厚さとは、陽極11と陰極12の間に直流電圧を印加したときの電圧印加方向に沿った過酸化水素除去室23のサイズのことであり、過酸化水素除去室23の厚さ方向は、一般に、過酸化水素除去室23における被処理水の流れ方向に直交する。過酸化水素除去室23の厚さが薄すぎると処理可能な被処理水の流量が小さくなりすぎる。一方、過酸化水素除去室23の厚さが厚すぎると、陽極11と陰極12との間に印加すべき直流電圧を過度に高くなるとともに、イオン交換体の量に比べて水の解離によって発生する水酸化物イオンや水素イオンの量が不足するので、過酸化水素除去室23内のイオン交換体の電気再生が十分に行われなくなる。
本発明に基づく過酸化水素除去装置は、例えば、純水製造装置あるいは超純水製造装置に組み込むことができる。以下、本発明に基づく過酸化水素除去装置を組み込んだ純水製造装置及び超純水製造装置について説明する。
図27は、従来技術における純水製造装置の構成の一例を示している。この純水製造装置では、原水を貯蔵する原水タンク41、第1の逆浸透膜装置51、第2の逆浸透膜装置52、逆浸透膜処理水タンク42、電気再生式脱イオン装置(EDI)54、EDI処理水タンク43、紫外線酸化装置(UV)55、非再生型イオン交換樹脂(CP)56及び脱気膜(MD)58がこの順で配置され、原水はこの順で処理される。その結果、最終的に純水が製造される。この純水製造装置においては、後段の設備が満水になった場合には、系内にて循環運転を行うことになるが、紫外線酸化装置55より発生する過酸化水素により、電気再生式脱イオン装置54内のイオン交換体が酸化劣化するおそれがある。そこで、系内で循環させるときは、紫外線酸化装置55の処理水が、電気再生式脱イオン装置54に循環しないように、製造された純水をEDI処理水タンク43に循環させ、電気再生式脱イオン装置54の処理水を逆浸透膜処理水タンク42に循環させる必要がある。このような純水製造装置は、循環のための複数のラインやEDI処理水タンクが必要となり、複雑な構成となる。
図28は、本発明に基づく過酸化水素除去装置を備えた純水製造装置の構成の一例を示している。図示される純水製造装置300では、原水タンク41、第1の逆浸透膜装置51、第2の逆浸透膜装置52、逆浸透膜処理水タンク42、紫外線酸化装置(UV)55、過酸化水素除去装置100、電気再生式脱イオン装置(EDI)54及び脱気膜(MD)58がこの順で配置され、原水はこの順で処理され、その結果、純水が製造される。ここで用いる過酸化水素除去装置100は、本発明に基づく過酸化水素除去装置であればどのようなものであってもよいが、図1~図26に示した過酸化水素除去装置のいずれかを用いることが好ましい。この純水製造装置では、純水の供給先である後段の設備が満水になった場合には、製造された純水を逆浸透膜処理水タンク42に循環させる。すなわち、紫外線酸化装置55の後段に過酸化水素除去装置100を配置することにより、紫外線酸化装置55により発生する過酸化水素による、電気再生式脱イオン装置54への影響を回避することが可能となる。また、上述の説明から明らかになるように過酸化水素除去装置100自体が、電気再生式脱イオン装置と同様の脱塩性能を備えることから、この構成により、電気再生式脱イオン装置を2段直列に配置した場合と同等な高純度の純水を得ることが可能となる。純水製造装置に要求される脱塩性能によっては、電気再生式脱イオン装置(EDI)54を設けることなく、過酸化水素除去装置100の出口水がそのまま脱気膜(MD)58に供給されるようにしてもよい。処理水を循環させる系統を1系統とすることで、図27に示される装置で必要とされた、EDI処理水タンクや、EDI処理水の循環ラインが不要になり、コストの低い純水製造装置とすることができる。
なお、図28では、脱気膜(MD)58の処理水の少なくとも一部を逆浸透膜処理水タンク42に循環しているが、過酸化水素除去装置100または電気再生式脱イオン装置(EDI)54の処理水を逆浸透膜処理水タンク42に循環してもよい。また、過酸化水素除去装置100の濃縮室、電極室に通水する供給水として、紫外線酸化装置55をバイパスした水を利用してもよく、そうすることが好ましい。紫外線酸化装置55をバイパスした水を利用することにより、過酸化水素濃度が低いか過酸化水素を含まない水が濃縮室と電極室に供給されることとなるので、濃縮室と電極室に充填されているイオン交換体の劣化を抑制できる。
純水製造装置では、過酸化水素除去装置の前段に炭酸除去手段を設けてもよい。過酸化水除去装置に供給される被処理水中の炭酸成分が少なくなると、過酸化水素除去装置に印加する電圧を低くすることが可能となり、消費電力を少なくできる。炭酸除去手段としては、逆浸透膜(RO)装置や、逆浸透膜装置への塩基性薬剤の添加、さらには、図28には示していないが、脱気膜(MD)、脱炭酸塔、アニオン交換樹脂塔などを用いることができる。
図29は、本発明に基づく過酸化水素除去装置を組み込んだ超純水製造装置の構成の一例を示している。図示される超純水製造装置400は、図28に示した純水製造装置300を一次純水システムとして用い、さらにサブシステムを配置して、超純水を製造するものである。サブシステムでは、一次純水システムからの一次純水を貯える純水タンク45が設けられており、純水タンク45の出口に対し、紫外線酸化装置(UV)61、非再生型イオン交換樹脂(CP)63、脱気膜(MD)65、及び限外濾過膜(UF)67がこの順で配置されて一次純水がこの順で処理され、超純水が製造される。製造された超純水の一部は純水タンク45に循環される。限外濾過膜(UF)67の代わりに精密濾過膜を用いてもよい。また、一次純水システムにおいて電気再生式脱イオン装置(EDI)54を設けない構成とすることもできる。
図30に示す超純水製造装置は、図29に示す超純水製造装置の一次純水システムにおける紫外線酸化装置(UV)55、過酸化水素除去装置100及び電気再生式脱イオン装置(EDI)54の配置順を、電気再生式脱イオン装置(EDI)54、紫外線酸化装置(UV)55及び過酸化水素除去装置100の順に入れ替えたものである。また図31に示す超純水製造装置は、図30に示す超純水製造装置の一次純水システムにおいて、電気再生式脱イオン装置(EDI)54の後段であって紫外線酸化装置(UV)の前段となる位置にホウ素選択性イオン交換樹脂(B IER)57やホウ素選択性吸着体などのホウ素除去装置を設けたものである。
超純水製造装置において、本発明に基づく過酸化水素除去装置100をサブシステムに配置することもできる。図32は、図30に示す超純水製造装置において、一次純水システムから過酸化水素除去装置100を取り除いて紫外線酸化装置(UV)55の出口水がそのまま脱気膜(MD)58に供給されるようにし、サブシステムにおいて非再生型イオン交換樹脂(CP)63の代わりに過酸化水素除去装置100を設けたものである。一次純水システムでは、過酸化水素除去装置100の代わりに非再生型イオン交換樹脂(CP)56が設けられている。過酸化水素除去装置100には脱塩性能を持たせることができるので、サブシステムにおいて非再生型イオン交換樹脂(CP)63の代わりに過酸化水素除去装置100を設けたとしても、限外濾過膜(UF)67の出口水として得られる超純水の水質が劣化することはない。サブシステムにおいて、非再生型イオン交換樹脂(CP)63はそのまま残して過酸化水素除去装置100を設けるようにしてもよい。このようにすることで、過酸化水素除去装置100では取り切れなかったイオン成分を非再生型イオン交換樹脂(CP)63で除去でき、さらに、非再生型イオン交換樹脂(CP)63では除去することのできない過酸化水素を除去することができ、それぞれの機能を補完することができる。過酸化水素除去装置100と非再生型イオン交換樹脂(CP)63との両方を直列に設ける場合、過酸化水素除去装置100に先に通水しても、非再生型イオン交換樹脂(CP)63に先に通水してもよい。
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
[実施例1]
陽極11と陰極12の間に複数の過酸化水素除去室23が配置されるようにして図15及び図16に示した過酸化水素除去装置を組み立てた。10cm×10cmの正方形の開口を有する厚さ1cmの枠体を用意し、この枠体を2枚重ねてそこに再生形のPd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を充填することにより、厚さ2cmの過酸化水素除去室23を構成した。過酸化水素除去室23は、その陽極11の側はアニオン交換膜32で区画され、陰極12の側は、カチオン交換膜33が陰極12の側となるようにアニオン交換膜81とカチオン交換膜33とが相互に重ね合わされた膜で区画されている。電極室(陽極室21及び陰極室25)、濃縮室22,24については、同じ枠体を使用してイオン交換体を充填することにより、それぞれ厚さが1cmとなるようにした。電極室、濃縮室22,24及び過酸化水素除去室23に対し、導電率が1.3μS/cmであり、過酸化水素濃度が97.5μg/Lであり、全炭酸濃度が0.103mg/L(as CO2)である水を供給し、電流が1.04Aとなるように陽極11と陰極12の間に直流電圧を印加した。過酸化水素除去室23への被処理水流量を88L/hとした。
過酸化水素除去装置への通水と直流電圧の印加を開始して約1000時間が経過して系が安定したときの、過酸化水素除去室23から排出される処理水に含まれる過酸化水素濃度を求め、この過酸化水素除去装置における過酸化水素除去率を求めた。同時に被処理水の比抵抗と、そのときに印加されている直流電圧の値とを求め、印加電圧と電流値とに基づいて、被処理水の単位流量当たりの消費電力を求めた。結果を表1に示す。また、これらの測定を終えたのち、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を過酸化水素除去室23から取り出して自由状態でのその体積を求めたところ、過酸化水素除去室23の容積の95~100%であった。
[実施例2]
実施例1と同様の過酸化水素除去装置であるが、過酸化水素除去室23とその陰極12の側に位置する濃縮室24との間がカチオン交換膜33のみによって仕切られている過酸化水素除去装置を組み立てた。この実施例2の過酸化水素除去装置は、図2に示した構造を有する。図33は実施例2の過酸化水素除去装置の要部を示している。実施例2の過酸化水素除去装置では、実施例1で用いた枠体を1枚だけ使用することによって、過酸化水素除去室23の厚さが1cmとなっている。
実施例1と同じ水を使用し、過酸化水素除去室23への被処理水流量を56L/hとし、陽極11と陰極12の間を流れる電流が0.66Aとなるようにして、実施例1と同じ測定を行った。結果を表1に示す。また、測定を終えたのち、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を過酸化水素除去室23から取り出して自由状態でのその体積を求めたところ、過酸化水素除去室23の容積の95~100%であった。なお、実施例2の過酸化水素除去装置では、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)とカチオン交換膜33との界面で水の解離反応が進行するが、このとき発生した水素イオンが過酸化水素除去室23に隣接する濃縮室24に放出され、濃縮室24内の水に含まれる炭酸成分と反応し、遊離炭酸を生じさせる。遊離炭酸は、荷電を有しないため、カチオン交換膜33の荷電反発による影響を受けず、濃縮室24から過酸化水素除去室23内へとカチオン交換膜33を介して拡散する。この遊離炭酸は、イオン形でないので過酸化水素除去室23内のPd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)にも吸着されにくく、処理水側にリークして水質を低下させる原因になる。炭酸成分がPd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)に吸着されるためには、炭酸イオンまたは重炭酸イオンに変換されている必要がある。これに対し、実施例1の過酸化水素除去装置では、遊離炭酸が拡散するカチオン交換膜33に対してアニオン交換膜81が重ね合わされているため、遊離炭酸は、アニオン交換膜81を通過するときに確実に炭酸イオンや重炭酸イオンに変換されてから過酸化水素除去室23に放出されるから、処理水における水質低下が起こりにくい。
[実施例3]
実施例1と同様の過酸化水素除去装置であるが、過酸化水素除去室23とその陰極12の側に位置する濃縮室24との間がカチオン交換膜33のみによって仕切られている過酸化水素除去装置を組み立てた。図34は実施例3の過酸化水素除去装置の要部を示している。実施例3の過酸化水素除去装置では、過酸化水素除去室23の厚さは実施例1と同じく2cmとなっている。実施例3の過酸化水素除去装置も図2に示した構造を有し、実施例2と実施例3とは、過酸化水素除去室23の厚さだけが異なっている。
実施例1と同じ水を使用し、過酸化水素除去室23への被処理水流量を88L/hとし、陽極11と陰極12の間を流れる電流が1.04Aとなるようにして、実施例1と同じ測定を行った。結果を表1に示す。また、測定を終えたのち、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を過酸化水素除去室23から取り出して自由状態でのその体積を求めたところ、過酸化水素除去室23の容積の95~100%であった。なお、実施例3の過酸化水素除去装置でも、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)とカチオン交換膜33との界面で水の解離反応が進行するが、このとき発生した水素イオンはカチオン交換膜33を介して濃縮室24に拡散し、遊離炭酸を生じさせる。
実施例1~3を比較すると、過酸化水素除去率はほぼ同じであり、処理水の比抵抗は、実施例1が最も高い。実施例1~3のいずれも、陽極11と陰極12との間に印加される直流電圧は実用可能な範囲内にあった。しかしながら、実施例1では印加電圧が10.0Vであるのに対し、実施例1よりも電流値を小さくしたにも関わらず実施例2では印加電圧が14.6Vであって実施例1の約1.5倍になった。実施例1と同じ電流値である実施例3では印加電圧が29.2Vであって約3倍になった。印加電圧が高くなったことに伴い、処理水の単位流量当たりの消費電力では、実施例1では0.11W・h/Lであるのに対し、実施例2では0.17W・h/Lであって実施例1の約1.5倍となり、実施例3では0.33W・h/Lであって実施例1の約3倍となった。このように実施例1では印加電圧を低くでき、処理水量当たりの消費電力を小さくできるのは、実施例1ではアニオン交換膜81とカチオン交換膜33との接合界面の全面で水の解離反応が発生するので、イオン交換体の電気再生に使用される水酸化物イオンが大量に過酸化水素除去室23に供給されるためと考えられる。これに対して実施例2,3では、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)とカチオン交換膜33とが接する点という比較的狭い場所でしか水の解離反応が進行しないので、水酸化物イオンの生成量が少なく、印加電圧の上昇がもたらされたものと考えらえる。また、実施例1において処理水の比抵抗が高いのは、濃縮室24から過酸化水素除去室23に拡散する遊離炭酸が、アニオン交換膜81を拡散するときに炭酸イオンあるいは重炭酸イオンに変換され、その後、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)に捕捉されるためであると考えられる。
[実施例4]
過酸化水素除去室におけるイオン交換体の充填率について検討した。ここでイオン交換体の充填率とは、上述したように、陽極と陰極との間に直流電圧を印加して被処理水を過酸化水素除去室に通水したのちに過酸化水素除去室から取り出されるイオン交換体の自由状態での体積を、過酸化水素除去室の容積で除算して得られる値のことである。実施例1と同じ構成の過酸化水素除去装置を使用し、過酸化水素除去室23には塩形のPd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を充填した。このときの充填量を変えることにより実施例4-1と実施例4-2の過酸化水素除去装置を構成した。電極室、濃縮室22,24及び過酸化水素除去室23に対し、導電率が1.3μS/cmであり、過酸化水素濃度が97.5μg/Lであり、全炭酸濃度が0.103mg/L(as CO2)である水を供給し、電流が1.04Aとなるように陽極11と陰極12の間に電圧を印加した。過酸化水素除去室23への被処理水流量を88L/hとした。
実施例4-1及び実施例4-2のそれぞれの過酸化水素除去装置について、過酸化水素除去装置への通水と直流電圧の印加を開始して約500時間が経過して系が安定したときの、過酸化水素除去室23から排出される処理水に含まれる過酸化水素濃度を求め、この過酸化水素除去装置における過酸化水素除去率を求めた。同時に被処理水の比抵抗と、そのときに印加されている直流電圧の値とを求めた。結果を表2に示す。また、これらの測定を終えたのち、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を過酸化水素除去室23から取り出して自由状態でのその体積を求めて充填率を求めたところ、実施例4-1では110~115%であり、実施例4-2では95~100%であった。
実施例4-1と実施例4-2とを比較すると、過酸化水素除去率はほぼ同じであり、処理水の比抵抗には若干の差がある。しかしながら、充填率が高い実施例4-1では印加電圧が6.5Vであるのに対し、充填率が低い実施例4-2では印加電圧が29.2Vであり、実施例4-1に比べて約4.5倍となった。実施例1と比較しても、より充填率が高い実施例4-1では印加電圧を低くすることができた。被処理水の通水を妨げない範囲で充填率を高めることにより、印加電圧を低くできることが分かった。また、電圧が低くなり電流が流れやすくなったことで、実施例4-1の処理水の比抵抗の方が若干高く良好な値になったものと考えられる。
[実施例5]
白金族金属触媒を担持させたイオン交換体の充填率と過酸化水素除去室の電気抵抗との関係を調べた。ここでは過酸化水素除去室を模するために両側に白金の板電極を備える53.1cm3の空間を用意し、充填率に相当するようにこの空間に対し、塩形のPd担持アニオン交換樹脂を充填し、温度25℃の超純水を通水した。そして、LCRメータを使用して板電極間に周波数1kHz、電圧1000mVの交流電圧を印加して板電極間のインピーダンスを測定し、これを、過酸化水素除去装置として運転する際の直流電圧を印加したときの電気抵抗として評価した。結果を図35に示す。図35に示すように、充填率が0.95(すなわち95%)未満であると電気抵抗は著しく大きくなり、過酸化水素除去室23内のイオン交換体の電気再生には多くのエネルギーを必要とするものとなった。充填率は0.95以上1.25以下(すなわち95%以上125%以下)であることが好ましく、1.02以上1.25以下(すなわち102%以上125%以下)であることがより好ましいことが分かった。
[実施例6]
実施例4と同様に、過酸化水素除去室におけるイオン交換体の充填率について検討した。図34に示す、実施例3と同じ構成の過酸化水素除去装置を使用し、過酸化水素除去室23には塩形のPd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を充填した。このときの充填量を変えることにより実施例6-1と実施例6-2の過酸化水素除去装置を構成した。電極室、濃縮室22,24及び過酸化水素除去室23に対し、実施例6-1では、導電率が1.2μS/cmであり、過酸化水素濃度が102μg/Lであり、全炭酸濃度が0.104mg/L(as CO2)である水を供給し、実施例6-2では、導電率が1.3μS/cmであり、過酸化水素濃度が96.3μg/Lであり、全炭酸濃度が0.103mg/L(as CO2)である水を供給した。実施例6-1及び実施例6-2のいずれにおいても、過酸化水素除去室23への被処理水流量を88L/hとし、電流が1.04Aとなるように陽極11と陰極12の間に電圧を印加した。
実施例6-1及び実施例6-2のそれぞれの過酸化水素除去装置について、過酸化水素除去装置への通水と直流電圧の印加を開始して約300時間が経過して系が安定したときの、過酸化水素除去室23から排出される処理水に含まれる過酸化水素濃度を求め、この過酸化水素除去装置における過酸化水素除去率を求めた。同時に処理水の比抵抗と、そのときに印加されている直流電圧の値と、処理水量当たりの消費電力とを求めた。結果を表3に示す。また、これらの測定を終えたのち、Pd担持アニオン交換樹脂(Pd AER)を過酸化水素除去室23から取り出して自由状態でのその体積を求めて充填率を求めたところ、実施例6-1では110~115%であり、実施例6-2では95~100%であった。
実施例6-1と実施例6-2とを比較すると、過酸化水素除去率はほぼ同じであり、処理水の比抵抗には差がある。印加電圧に関し、充填率が高い実施例6-1では充填率が低い実施例6-2の半分以下となり、その分、消費電力が低くなった。電圧が低くなり電流が流れやすくなったことで、実施例6-1の処理水の比抵抗の方が実施例6-2の場合よりも高くなり、良好な値になったものと考えられる。