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JP4604238B2 - 燐酸カルシウムと生理活性物質を含有する高分子複合体、その製造方法及びそれを用いた医療用材料 - Google Patents

燐酸カルシウムと生理活性物質を含有する高分子複合体、その製造方法及びそれを用いた医療用材料 Download PDF

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Description

本発明は、生体適合性、生体組織に対する密着性あるいは接着性を有する、医療用材料、特に経皮端子として有用な燐酸カルシウム−生理活性物質−高分子複合体及び、その製造法、該高分子複合体を素材とする経皮端子などの医療用材料に関する。
医療用デバイス、たとえば皮膚を経由して人体内に薬剤などを導入したり人体外へ体液等を排出する際の人体の内と外の連通路に使用する経皮端子の素材として、生体不活性、長期安定性、強度、柔軟性等の特性を持つシリコーンゴムなどの高分子材料が古くから用いられている。
しかし、これらの高分子基材は、生体親和性に劣り、経皮部における生体組織との接着・密着性が十分ではなく、皮膚のdown growth(上皮組織がデバイス表面に沿って皮膚内部へ陥入していく現象)などによる細菌感染の危険性が問題となっている。
このため、(1)生体親和性に優れるハイドロキシアパタイトを始めとする燐酸カルシウム系化合物の焼結体を用いる方法(非特許文献1)や(2)シリコーン表面にアパタイトを共有結合させた材料を用いる方法(非特許文献2)などが提案されている。
(1)の方法は、セラミックスであるアパタイトを直接利用するものであることから、得られる材料が脆く、衝撃で破損する恐れがある上、成型加工が困難であり、しかも経皮端子として使用すると、応力が直接身体にかかり皮膚組織の破壊を招く恐れがある等といった多くの問題点があった。
(2)の方法では、(1)のような問題が少なく、シリコーン樹脂とアパタイトの接着性に優れるものの、材料と上皮組織等との接着性が必ずしも十分とは言えず、その界面から細菌感染の生じる可能性がある。
また、高分子材料と上皮組織との接着性を高める手法として、たとえば、高分子材料をラミニンで被覆する方法が示されている(特許文献1)。しかし、この文献には、高分子基材表面にラミニンを強固に固定化する手法、更には、ラミニンとアパタイトの複合層を高分子基材表面に強固に固定化する方法については何ら示唆されていない。
したがって、上皮組織等とより高い接着性を有する高分子系経皮端子の素材の開発が強く望まれているのが現状である。
人工臓器、13,1131〜1134頁 1984 J BIOMED MATER RES 56 9−16 2001 特表2000−508929号公報
本発明の第1の目的は、生体適合性、生体組織に対する密着性、接着性に優れた、経皮カテーテル、経皮端子等の経皮医療器具、人工血管、人工気管等の人工臓器等の医療用材料として好適に使用することができ、特に経皮端子の素材として使用した場合にも、生体組織との密着特性に優れ、界面からの細菌感染を防止し得る、燐酸カルシウムと生理活性物質を含有する高分子複合体を提供することにあり、第2の目的は、該高分子複合体を効率的に製造し得る方法を提供することにあり、第3の目的は、上記高分子複合体を素材とする、経皮端子などの医療用材料を提供することにある。
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 高分子基材の表面に燐酸カルシウム捕捉層を設け、その上に燐酸カルシウムと生理活性物質の複合層を設けたことを特徴とする生理活性物質と燐酸カルシウムを含有する高分子複合体。
(2) 高分子基材が、シリコーンポリマーなどの珪素含有ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン等の含酸素ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子、こられの共重合体、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等の天然高分子から選ばれた少なくとも1種の高分子であることを特徴とする上記(1)に記載の高分子複合体。
(3) 燐酸カルシウム捕捉層が、Si-OH基、Ti-OH基、カルボキシル基、燐酸基、硫酸基、水酸基などの官能基(末端にこれらの官能基を有するシランカップリング剤やグラフト鎖、金属酸化物ゲル等も包含される)や、それらの官能基にアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンを結合させたものや、炭酸カルシウム、アパタイトなど、リン及び/又はカルシウムを含む化合物から選ばれた少なくとも一種から形成されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高分子複合体。
(4) 生理活性物質が、タンパク質、ペプチド、及び抗生物質から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)乃至(3)何れかに記載の複合体。
(5) タンパク質が、成長因子、アルブミン及び細胞接着因子から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)乃至(4)何れかに記載の複合体。
(6) ペプチドが、少なくとも一つ以上の酸性アミノ酸を含むことを特徴とする上記(1)乃至(4)何れかに記載の複合体。
(7) 抗生物質が、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、またはその塩を有することを特徴とする上記(1)乃至(4)何れかに記載の複合体。
(8) 表面に燐酸カルシウム捕捉層を有する高分子基材と、生理活性物質を含む燐酸カルシウム過飽和溶液とを接触させ、該基材表面に生理活性物質と燐酸カルシウムを共沈させることを特徴とする上記(1)乃至(7)何れかに記載の複合体の製造方法。
(9)上記(1)乃至(7)何れかに記載の生理活性物質と燐酸カルシウムを含有する高分子複合体を素材とする医療用材料。
(10) 医療用材料が経皮端子であることを特徴とする上記(9)に記載の医療用材料。
本発明の複合体の構成成分であるアパタイトなどの燐酸カルシウムは骨の主要無機成分であり、硬組織だけでなく、軟組織とも高い親和性を示し、また、他方の構成成分であるラミニン等の生理活性物質は、血管内皮細胞や歯肉上皮細胞等の上皮系細胞の生物学的能動接着を促す性質を有するものであり、しかもこれらの構成成分は、燐酸カルシウム捕捉層を介して高分子基材表面に強固に固定されているので、本発明に係る高分子複合体は、柔軟性、強度、生体に対する密着性、生体適合性に優れるため、経皮カテーテル、経皮端子等の経皮医療器具、人工血管、人工器官等の人工臓器等の医療用材料として好適に適用することができる。また、本発明の製造法では、上記複合体を効率よく容易に得ることができる。
本発明の燐酸カルシウムと生理活性物質を含有する高分子複合体は、高分子基材の表面に燐酸カルシウム捕捉層を設けられ、その上に燐酸カルシウムと生理活性物質の複合層が設けられていることを特徴としている。
本発明の高分子複合体は、上記のような特有な構造を有することから、燐酸カルシウム由来の生体適合性、骨結合性と、生理活性物質由来の生理活性を併せ示す特性を有するものである。
高分子基材としては、この種の分野で通常用いられている有機高分子材料が全て使用でき、例えば、シリコーンポリマーなどの珪素含有ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン等の含酸素ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子、こられの共重合体、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等の天然高分子を好ましく挙げることができる。
本発明で用いる上記基材の形状は限定されない。例えば、平板状、フィルム状、膜状、棒状、筒状、メッシュ状、繊維状、多孔体状、粒子状等が好ましく挙げられる。
この高分子基材表面に設けられる燐酸カルシウム捕捉層とは、燐酸カルシウム過飽和水溶液中において燐酸カルシウムの形成を促し、該燐酸カルシウムを基材表面に堅固に固定化できる層を意味する。
燐酸カルシウム捕捉層を構成する物質としては、Si-OH基、Ti-OH基、カルボキシル基、燐酸基、硫酸基、水酸基などの官能基(末端にこれらの官能基を有するシランカップリング剤やグラフト鎖、金属酸化物ゲル等も包含される)や、それらの官能基にアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンを結合させたものや、炭酸カルシウム、アパタイトやアパタイトの前躯体など、少なくともリン及び/又はカルシウムを含む化合物が有効である。
この中でも、燐酸カルシウムの形成を誘起する速度の観点から、アパタイトや、アモルファス燐酸カルシウム等のアパタイトの前躯体が好ましく使用される。
本発明に係る燐酸カルシウムと生理活性物質からなる複合体層とは、燐酸カルシウムマトリックス層と、同層の内部、及び表面に存在する生理活性物質とからなる複合体層と定義される。このような複合体層中においては、生理活性物質は周囲の燐酸カルシウムマトリックス中に物理的に担持されているだけでなく、生理活性物質表面に存在する官能基と燐酸カルシウムとの相互作用により、化学的にも燐酸カルシウムに強固に結合固定化されている。
本発明で用いる燐酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト、オキシアパタイト、ピロ燐酸アパタイト、ハイドロキシアパタイトのイオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等で置換された化合物、アモルファス燐酸カルシウム、燐酸三カルシウム、燐酸四カルシウム、燐酸八カルシウム、二燐酸カルシウム、メタ燐酸カルシウム、二燐酸二水素カルシウム、ホスフィン酸カルシウム、燐酸水素カルシウム二水和物、燐酸二水素カルシウム一水和物、ホスホン酸カルシウム一水和物、ビス(燐酸二水素)カルシウム一水和物、これらの無水物、又はこれらの混合物等からなる燐酸カルシウム系化合物を挙げることができる。特に、生体組織との親和性、体内環境における安定性からハイドロキシアパタイトを好ましく挙げることができる。
本発明で用いる生理活性物質としては、タンパク質、ペプチド、抗生物質等を、水溶性であればいずれも使用することができる。ここで生理活性物質とは、生物に対して活性を有する、すなわち生物に作用することで生物体に何らかの変化を誘起し得る物質をいう。生理活性物質には、生体機能を調節、または変化させ得るサイトカイン、ホルモン等が含まれ、例えば成長因子や細胞接着因子を挙げることができる。
水溶性生理活性物質には、本来は非水溶性の生理活性物質を、アルブミンなどの水溶性担体タンパク質またはポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸類(ホモポリマーまたはランダムコポリマ)などの水溶性ポリマーに結合させることで水可溶性とした非水溶性生理活性物質も含む。非水溶性の生理活性物質と上記水溶性担体タンパク質または水溶性ポリマーとの結合には両者の官能基を利用すればよく、種々の公知の方法で結合させることができる。
生理活性を持つタンパク質の例としては、塩基性繊維芽細胞成長因子、IL−1(インターロイキン1)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、エリスロポエチン、CSF−1(コロニー刺激因子)、SCF(幹細胞因子)、トロンボポエチン、EGF(上皮増殖因子)、TGF−α(トランスフォーミング増殖因子−α)、HB−EGF(へパリン結合性EGF様増殖因子)、エピレグリン、ニューレグリン1,2,3、PDGF(血小板由来増殖因子)、インスリン、HGF(肝細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、NGF(神経成長因子)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、ミッドカイン、TGF−β(トランスフォーミング増殖因子−β)、ベータグリカン、アクチビン、BMP(骨形成因子)、TNF(腫瘍壊死因子)、IFN−α/β(インターフェロン−α/β)、IFN−γ(インターフェロン−γ)、フィブロネクチン、ラミニン、カドヘリン、インテグリン、セレクチンなどを挙げることができるが、これらに限定はされない。
生理活性ペプチドの例としては、YIGSR、RGD、LDV, REDV、IKVAV、LRE、RNIAEIIKDI、PDSGR、RYVVLPR、LGTIPG、DEGA、EILDV、GPRP、及びKQAGDVなどを挙げることができるが、これらに限定はされない。また、これらのペプチドの片方または両方の末端に、一つまたは複数のアミノ酸を結合させたペプチドを用いることもできる。ただし、燐酸カルシウムとの親和性の点から、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)を使用するのが好ましい。
抗生物質の例としては、アジスロマイシン、アボパルシン、アモキシシリン、アルベカシン、アンピシリン、イミペネム、エペレゾリド、エリスロマイシン、エンロフロキサシン、オキサシリン、オキシテトラサイクリン、オフロキサシン、オーレオマイシン、カナマイシン、キノロン、キヌプリスチン、クリンダマイシン、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、クロロマイセチン、ゲンタマイシン、サラフロキサシン、シプロフロキサシン、ストレプトマイシン、スピラマイシン、スペクチノマイシン、スルバクタム、セファゾリン、セファロスポリン、セフタジジム、セフトリアキソン、セフトリアゾン、タゾバクタム、ダプトマイシン、ダルホプリスチン、チロシン、テイコプラニン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、トブラマイシン、トリメトプリム、ナフシリン、ナリジクス酸、ネオマイシン、バシトラシン、バージニアマイシン、バンコマイシン、ピペラシリン、プリスチナマイシン、ペニシリン、ポリミキシン、マゲイニン、ミノサイクリン、メチシリン、リネゾリド、リンコマイシンなどを挙げることができるが、これらに限定はされない。ただし、燐酸カルシウムとの親和性の点から、酸性官能基、中でも、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、またはその塩を有する抗生物質を使用するのが好ましい。
本発明の高分子複合体を作成するには、たとえば、高分子基材表面に燐酸カルシウム捕捉層を設けた後(第1工程)、該捕捉層と生理活性物質を含有させた燐酸カルシウム過飽和水溶液とを接触させ、基材表面に生理活性物質−燐酸カルシウム複合層を形成させる(第2工程)ことにより行われる。
第1工程は、具体的には、例えば次のように行えばよい。高分子基材を、200mMの塩化カルシウム水溶液に10秒間、次いで超純水に1秒間浸漬した後、風乾する。続いて、基材を200mMの燐酸水素二カリウム・三水和物水溶液に10秒間、次いで超純水に1秒間浸漬した後、風乾する。以上の操作を交互に3回繰り返す。同処理によって、基材表面にアモルファス燐酸カルシウム(ACP)よりなる燐酸カルシウム補足層が形成される。燐酸カルシウム捕捉層の厚みに特別な制限はないが、0.1nm〜1μm、好ましくは1〜300nmである。
第2工程は、表面に燐酸カルシウム捕捉層を有する高分子基材と、生理活性物質を含む燐酸カルシウム過飽和溶液とを接触させることにより、基材表面に生理活性物質と燐酸カルシウムを共沈させる方法が好ましく採用される。
ここで、燐酸カルシウム過飽和溶液とは、燐酸カルシウムの溶解度以上にカルシウム、及びリン成分が溶けている溶液のことを意味し、安定燐酸カルシウム過飽和溶液と、不安定燐酸カルシウム過飽和溶液の2つに分けることができる。
安定燐酸カルシウム過飽和溶液とは、溶液調整完了後から少なくとも8日間は、燐酸カルシウムを析出しない溶液のことである。このような安定燐酸カルシウム過飽和溶液には、ハンクス溶液や、ヒトの体液とほぼ等しい無機イオン濃度を有する水溶液(擬似体液)などがある。また、不安定燐酸カルシウム過飽和溶液とは、溶液調整完了後7日以内に、自発的核形成によって燐酸カルシウムを析出する溶液のことである。
共沈とは、単独では析出または沈殿しないはずの目的物質が、主沈殿または主析出物とともに同時に沈殿または析出することである。
燐酸カルシウム過飽和溶液は、少なくともカルシウムを含む試薬粉末/溶液、少なくともリンを含む試薬粉末/溶液、少なくともカルシウムとリンの両者を含む試薬粉末/溶液、さらに必要であればpH緩衝剤を順次水に溶解してゆくことで調整することができる。これらの試薬粉末/溶液の添加順序は、該過飽和溶液調整中または調整後10秒以内に燐酸カルシウムの自発的核形成を誘起しない限り、特に制限はない。
燐酸カルシウム過飽和溶液中には、燐酸カルシウムの自発的核形成までに要する時間を遅延する1種または2種以上の成分を含む試薬粉末/溶液をさらに混合してもよい。
少なくともカルシウムを含む粉末/溶液、及び少なくともリンを含む粉末/溶液、及び、少なくともカルシウムとリンの両者を含む粉末/溶液は限定されない。少なくともカルシウムを含む粉末/溶液の例としては、塩化カルシウム粉末/溶液、乳酸カルシウム粉末/溶液、酢酸カルシウム粉末/溶液、グルコン酸カルシウム粉末/溶液、クエン酸カルシウム粉末/溶液などが挙げられる。少なくともリンを含む粉末/溶液の例としては、リン酸緩衝生理的食塩水、リン酸溶液、リン酸水素二カリウム粉末/溶液、リン酸二水素カリウム粉末/溶液、リン酸水素二ナトリウム粉末/溶液、リン酸二水素ナトリウム粉末/溶液などが挙げられる。少なくともカルシウムとリンの両者を含む溶液としては、ハンクス溶液や擬似体液のような安定燐酸カルシウム過飽和溶液や、燐酸カルシウム不飽和溶液を挙げることもできる。燐酸カルシウム不飽和溶液の例としては、例えば、塩化カルシウム濃度2.5mM、リン酸水素二カリウム濃度1.0mM、pH5未満の溶液を挙げることができる。
燐酸カルシウムの自発的核形成までに要する時間を遅延する成分としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛等の無機塩、ポリビニルアルオール、ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマー等を挙げることができる。
少なくともカルシウムを含む粉末/溶液、少なくともリンを含む粉末/溶液、少なくともカルシウムとリンを含む粉末/溶液、燐酸カルシウムの自発的核形成までに要する時間を遅延する成分を含む粉末/溶液は、各々1種類の粉末/溶液でも良いし、組成の異なる複数種の粉末/溶液から成っていても良い。
pH緩衝剤としては、pH5〜9の間でpHを緩衝するものであれば、限定されない。そのようなpH緩衝剤としては具体的には、トリスヒドロキシルアミノメタン、HEPES{2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic Acid}、中性リン酸カリウム緩衝液などを挙げることができる。
生理活性物質の変成や失活を生じなければ、調整前の水、または上述のいずれかの溶液に生理活性物質を添加溶解しても良いし、複数の溶液に生理活性物質を添加溶解しても良いし、全ての試薬又は溶液が混合された後に生理活性物質を添加溶解しても良い。添加溶解する生理活性物質は、固体状でも良いし、すでに溶液に溶解しているものでも良い。
燐酸カルシウム過飽和溶液とは具体的には、例えばCa−P−Na−K−Cl系及び、Ca−P−K−Cl系のある特定組成範囲の水溶液である。安定燐酸カルシウム過飽和溶液になるか不安定燐酸カルシウム過飽和溶液になるかは、各成分濃度、pHによってきまる。
Ca−P−Na−K−Cl系の燐酸カルシウム過飽和溶液の成分濃度は、Ca成分0.1〜5.0mM、好ましくは1.5〜4.0mM、P成分0.1〜10mM、好ましくは0.5〜2mM、K成分0〜20mM、好ましくは0〜10mM、Na成分0〜200mM、好ましくは100〜150mM、Cl成分0〜200mM、好ましくは100〜150mMであり、pHは5.0〜9.0、好ましくは6.0〜8.0である。
Ca−P−K−Cl系の燐酸カルシウム過飽和溶液の成分濃度は、Ca成分0.1〜5.0mM、好ましくは1.5〜4.0mM、P成分0.1〜10mM、好ましくは0.5〜2mM、K成分0〜250mM、好ましくは50〜100mM、Cl成分0〜250mM、好ましくは50〜100mMであり、pHは5.0〜9.0、好ましくは6.0〜8.0である。
燐酸カルシウム過飽和溶液は、医療用輸液剤、透析・腹膜灌流液、輸液の補正用製剤、カルシウム製剤、透析・腹膜灌流液の補充液の中から選ばれた1種又は2種以上の粉末または溶液を混合することで調整することもできる。
以上に示した方法を用い、生理活性物質を含む燐酸カルシウム過飽和溶液と、アパタイト捕捉層を有する高分子基材とを接触させると、高分子基材の表面に設けられているアパタイト捕捉層上に生理活性物質と燐酸カルシウムが共沈析出し、生理活性物質と燐酸カルシウムを含有する高分子複合体を得ることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1
[高分子基板表面への燐酸カルシウム捕捉層の固定]
大きさ10×10×1 mm3のエチレンビニルアルコール共重合体基板を#2000のSiC研磨紙で研磨し、アセトン及びエタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。以後、同基板をEVと略記する。
EV を、20 mLの200mM CaCl2水溶液に10秒間、同量の超純水に1秒間浸した後乾燥させ、次いで、20mLの200mM K2HPO4・3H2O水溶液に10秒間、同量の超純水に1秒間浸浸した後乾燥させた。同操作を3回繰り返した。以後、上記処理を交互浸漬処理と呼ぶ。また、交互浸漬処理後の基板をEVCPと略記する。
(表面構造の解析)
前記で得た各基板の表面構造をX線光電子分光法(XPS)により調べた。EV表面のスペクトルには、EVの構成元素であるCに帰属されるピークのみが検出されたのに対し、EVCP表面のスペクトルには、Cに加え、Ca及びPに帰属されるピークが検出された(図1)。この結果から、交互浸漬処理によって、基板表面に燐酸カルシウムが固定されたことが分かる。
次に、EV及びEVCPよりウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その微細構造を透過型電子顕微鏡(TEM)により調べた。その結果、EVCP表面には、直径数十ナノメートルの多数の球状粒子からなる析出物が観察された(図2)。同析出物の結晶構造を電子線回折により調べたところ、カーボン支持膜由来の2本のリングの他に、面間隔 3.0〜3.2 Åに相当するブロードなリングが認められた(図2)。この結果、及びXPSの結果から、交互浸漬処理後に基材表面に固定された燐酸酸カルシウムは、主としてアモルファスリン酸カルシウム(ACP)であると考えられる。なお、ACPはアパタイトの前躯体である。
[高分子複合体の作成]
超純水に、NaCl 142 mM、CaCl23.75 mM、K2HPO4・3H2O 1.5 mMとなるように各試薬を溶解し、その後トリスヒドロキシメチルアミノメタンと塩酸を用いて25℃でpH7.40となるように調整した。以後この溶液をCP溶液と呼ぶ。また、CP溶液に40μg/mLの濃度となるようラミニンを加えた溶液をLCP溶液と呼ぶ。
25℃に保った3 mLのCP溶液またはLCP溶液に、EV及びEVCPを24時間浸漬した。以後、上記処理を、過飽和溶液処理と呼ぶ。また、過飽和溶液処理後の試料をそれぞれ次のように略記する。
EV-LCP(LCP溶液に浸漬されたEV)
EVCP-CP(CP溶液に浸漬されたEVCP)
EVCP-LCP(LCP溶液に浸漬されたEVCP)
(表面構造の解析1)
前記で得た各試料の表面構造を薄膜X線回折(TF-XRD)により調べた。EV、及びEV-LCP表面のパターンには、EVの結晶部分由来のピークのみが検出された(図3)。一方、EVCP-CP、及びEVCP-LCP表面のXRDパターンには、EV由来のピークの他、アパタイトに帰属されるピークが検出された。以上の結果から、交互浸漬処理の後過飽和溶液処理された基板表面には、アパタイト層が形成されたことが分かった。交互浸漬処理によって基板表面に固定されたACPが、過飽和溶液中でアパタイトに相転移、成長したものと考えられる。
(表面構造の分析2)
次に、前記で得た各試料の表面構造をXPSにより調べた。EV-LCP表面のスペクトルには、Cの他、ラミニンの構成元素であるNに帰属されるピークが検出された(図4)。この結果から、LCP溶液を用いた過飽和溶液処理によって、基板表面にラミニン層が形成されたことが分かった。ラミニンは、基板表面に物理的に吸着していると考えられる。
EVCP-CP表面のスペクトルには、Cの他、Ca及びPに帰属されるピークが検出された。Cに対するCa及びPのピーク強度は、過飽和溶液処理前(図1中のEVCP)に比べ増大していた。これは、EVCP-CP表面でのアパタイト層の成長によるものと考えられる。
EVCP-LCP表面のスペクトルには、Cの他、Ca、P、及びラミニンの構成元素であるNに帰属されるピークが検出された。また、Cに対するCa及びPのピーク強度は、過飽和溶液処理前(図1中のEVCP)に比べ増大していた。これは、EVCP-LCP表面でのラミニン-アパタイト複合層の成長によるものと考えられる。
図3及び図4の結果から、EV-LCP表面には吸着ラミニン層が、EVCP-CP表面にはアパタイト層が、EVCP-LCP表面にはラミニン-アパタイト複合層が形成されていることが分かった。
(過飽和溶液処理前後のCP、及びLCP溶液中のカルシウム、リン及びラミニン濃度の測定)
過飽和溶液処理前後のCP、及びLCP溶液中のカルシウム及びリンの元素濃度を高周波結合誘導プラズマ発光分光分析により、ラミニン濃度を紫外可視分光光度計により測定した。
EV-LCPでは、LCP溶液中のカルシウム、リン及びラミニン濃度は、過飽和溶液処理前後でほぼ同じであった(図5)。この結果から、EV-LCP表面のラミニン吸着量は極めて少ないことが分かる。また、過飽和溶液処理中に、LCP溶液中における燐酸カルシウムの自発的均一核形成や、EV表面または容器壁面における燐酸カルシウムの析出は生じていないことが確認された。EVCP-CPでは、過飽和溶液処理後のCP溶液中のカルシウム及びリン濃度は処理前に比べ減少したが、ラミニン濃度は不変であった。カルシウム及びリン濃度の減少は、基板表面におけるアパタイト層の形成によるものと考えられる。EVCP-LCPでは、過飽和溶液処理後のLCP溶液中のカルシウム、リン、及びラミニン濃度はいずれも、処理前に比べ減少していた。これは、基板表面でのラミニン-アパタイト複合層の形成によるものと考えられる。以上の結果より、過飽和溶液処理において、アパタイト層あるいはラミニン-アパタイト複合層は、交互浸漬処理された基板(EVCP)表面においてのみ選択的に形成されることが確かめられた。
また、EVCP に過飽和溶液処理によるCPまたはLCP溶液中のカルシウム、リン、及びラミニン濃度の経時変化を調べたところ、CP溶液中ではカルシウム、及びリン濃度が単調に減少した。LCP溶液中では、カルシウム及びリン濃度だけでなく、ラミニン濃度も単調に減少した(図6)。以上の結果から、EVCP-CP表面にアパタイト層が、EVCP-LCP表面にラミニン-アパタイト複合層が形成されるメカニズムは、以下の通りと推定される。過飽和溶液処理で用いられたCP、及びLCP溶液はアパタイトに対して過飽和になっている。従って、交互浸漬処理により基板表面に形成されたACPは、CP溶液中では、周囲の燐酸及びカルシウムイオンを取り込んで自発的にアパタイト層へと成長していく。LCP溶液中では、溶液中のラミニンが、アパタイト層の成長と同時にアパタイト中に取り込まれていくことにより、ラミニン-アパタイト複合層となる。
(ラミニン-アパタイト複合層の構造解析)
EVCP-LCPより、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その微細構造をTEMにより調べた。ラミニン分子を検出するために、TEM観察に先立ち免疫染色を行った。免疫染色においては、一時抗体としてanti-laminin (mouse IgG1, isotype)を、二次抗体として直径 5 nmの金コロイドを結合させたgoat anti-mouse IgGを用いた。TEM観察の結果、ラミニンを標識する直径5 nmの金コロイド粒子が、切片のほぼ全面に観察された(図7)。このことから、ラミニン-アパタイト複合層中において、ラミニン分子は層の表面だけでなく内部にも存在し、アパタイト結晶よりなるマトリックス中に分子スケールで担持されていることが分かった。
(EV、EV-LCP、EVCP-CP、及びEVCP-LCPの細胞接着性試験)
EV、EV-LCP、EVCP-CP、及びEVCP-LCPの4種類の試料を、12ウェルの細胞培養用マイクロプレート上に静置した。血清を含まないDMEM細胞培養液に、ヒト熱傷後瘢痕より生じた上皮様細胞 BSCC93を15×104 cell/mLとなるように懸濁させた。同細胞懸濁液2 mLを各ウェルに注いだ後、37℃、5 % CO2雰囲気に保ったインキュベーター中で2時間培養を行った。培養終了後、各ウェルより培養液を吸引した後、試料をPBS(-)で二回洗浄した。次いで、試料表面に接着した細胞を、0.25 %トリプシン、0.02 %EDTA混合溶液を用いて剥がし、これを0.3 %のトリパンブルーで染色した。染色された細胞の数をタタイ式細胞計数盤で計数した。ANOVA統計処理により解析したところ、EVCP-LCP表面には、他の試料よりも統計的に有意に多数の細胞が接着していたことが分かった。(図8)。以上の結果より、4種類の試料の中で、EVCP-LCPが細胞の初期接着性に最も優れていることが分かった。EVCP-LCP表面に形成されたラミニン-アパタイト複合層中のラミニンが、細胞の接着を促進したためと考えられる。EV-LCP表面にはラミニンが吸着していたにも関わらず(図4参照)、同基板の細胞接着性が低かったのは、基板表面に吸着されたラミニンの量が少なく、しかも同層が洗浄によって容易に剥がされてしまうためと推察される。すなわち、物理的にラミニンを吸着させただけの基板表面には、細胞を強固に接着させることはできなかった。一方、交互浸漬、及び過飽和溶液処理によって表面にラミニン-アパタイト複合層を形成させた基板表面には、細胞を強固に接着させることができた。
実施例2
大きさ0.05×7×17 mm3のエチレンビニルアルコール共重合体基板をアセトン及びエタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた(EV)。これに、プラズマエッチング装置を用いて30 Paの酸素雰囲気下、30秒間グロー放電処理を施した。なお、電力密度は0.50 W/cm2とした。上記処理した試料に、実施例1と同様にして交互浸漬処理を施した後、25℃に保ったLCP溶液 6 mL中に24時間浸漬した(EVCP-LCP)。得られた試料の表面構造をTF-XRD、及びXPSにより調べたところ、EVCP-LCP表面にはラミニン-アパタイト複合層が形成されていることが分かった。
以上のことから、本処理法は種々の形状の基材に有効であることが分かる。
(EV、及びEVCP-LCPの上皮組織接着性試験)
実施例2で作製された試料を、ヌードラットのヘテロ(F344/NJcL-rnu/+、7週齢、♀)の頭部に埋植した。飼育3日後にラットを屠殺し、試料周囲の皮膚組織を切り出し、ヘマトキシリン-エオジンで染色した。同皮膚組織と試料の接着部位を光学顕微鏡により観察したところ、EV周囲の上皮組織は試料表面に沿ってダウングロウスしていたのに対し、EVCP-LCP周囲の上皮組織はダウングロウスせず、試料表面に直接接着していた(図9)。EVCP-LCP表面のラミニン-アパタイト複合層中のラミニンが、上皮組織の接着を促進したためと考えられる。以上のことから、本処理法により得られる材料は、上皮組織に対して優れた接着性を有することが確かめられた。
実施例3〜4
実施例1の基板であるEVを、ポリエチレンテレフタレート(PET)(実施例3)、ポリ乳酸(PLA)(実施例4)に代えた以外は実施例1と同様にして、交互浸漬及び過飽和溶液処理を行った。なお、PETについては、交互浸漬処理に先立ち、基板を1M-NaOH水溶液に10分間浸漬することにより、親水化処理を施した。
過飽和溶液処理後の試料表面をTF-XRDにより調べたところ、いずれの基板にもアパタイトに帰属されるピークが認められた。従って、いずれの基板表面にもアパタイトが形成されたことがわかった。また、過飽和溶液処理前後のLCP溶液中のラミニン濃度を紫外可視分光光度計により測定したところ、処理後のラミニン濃度は、いずれの基板についても処理前に比べ減少していた(図10)。以上より、PET及びPLAもEVと同様に、本処理法により、その表面にラミニン-アパタイト複合層を形成すると考えられる。以上のことから、本処理法は、エチレン‐ビニルアルコール共重合体だけでなく他の高分子材料にも有効であることが分かる。
実施例5
CP溶液に40 μg/mLの濃度となるようアルブミンを加えた溶液(ACP溶液)を調整した。25℃に保った3 mLのLCPまたはACP溶液に、EVCPを24時間浸漬した(過飽和溶液処理)。過飽和溶液処理後の基板表面をTF-XRDにより調べたところ、いずれの基板にもアパタイトに帰属されるピークが認められた。従って、いずれの基板表面にもアパタイトが形成されたことが分かった。また、過飽和溶液処理前後のACP及びLCP溶液中のラミニン及びアルブミン濃度を紫外可視分光光度計により測定したところ、処理後のラミニン及びアルブミン濃度は、処理前に比べ減少していた(図11)。従って、アルブミンもラミニンと同様、基板表面に形成されたアパタイト中に担持されることが分かった。以上のことから、本処理法は、ラミニンだけでなく他のタンパク質にも有効であることが分かる。
実施例6
CP溶液に、0.1、1、10または50μMの濃度となるようEEEEEEEYIGSRの配列を有するペプチドを加えた溶液(それぞれ、01E7Y、1E7Y、10E7Y及び50E7Y溶液と略記)を調整した。25℃に保った3 mLのCP、01E7Y、1E7Y、10E7Y、及び50E7Y溶液に、EVCPを24時間浸漬した(過飽和溶液処理)。過飽和溶液処理後の基板表面をTF-XRDにより調べたところ、いずれの基板にもアパタイトに帰属されるピークが認められた。従って、いずれの基板表面にもアパタイトが形成されたことがわかった。また、同基板表面をXPSにより調べたところ、01E7Y、1E7Y、10E7Y及び50E7Y溶液に浸漬された基板にはNに帰属されるピークが検出され、そのピーク強度は溶液中のペプチドの濃度が高くなるに従って強くなった(図12)。NはCP溶液に添加されたペプチドの構成元素のひとつである。従って、01E7Y、1E7Y、10E7Y及び50E7Y溶液に浸漬された基板表面に形成されたアパタイトにはペプチドが担持されていること、またその担持量は溶液中のペプチド濃度が高くなるに従って増加することが分かった。以上のことから、本処理法は、タンパク質だけでなく、ペプチドにも有効であることが分かる。
実施例7
CP溶液に、抗生物質の一種であるテトラサイクリンを0.01、0.05、または0.10 mMの濃度で加えた溶液(それぞれ、T001、T005、及びT010溶液と略記)を調整した。25℃に保った3 mLのT001、T005、及びT010溶液に、EVCPを24時間浸漬した(過飽和溶液処理)。過飽和溶液処理後の基板表面をTF-XRDにより調べたところ、いずれの基板にもアパタイトに帰属されるピークが認められた。従って、いずれの基板においてもその表面にアパタイトが形成されていることがわかった。また、過飽和溶液処理前後の各溶液中のテトラサイクリン濃度を紫外可視分光光度計により測定したところ、処理後のテトラサイクリン濃度は処理前に比べ減少していた(図13)。従って、T001、T005、及びT010溶液に浸漬された基板表面に形成されたアパタイトにはテトラサイクリンが担持されていることが分かった。以上のことから、本処理法は、タンパク質、ペプチドだけでなく、抗生物質にも有効であることが分かる。
EV及びEVCPのXPSスペクトル EV及びEVCPより作製された超薄切片のTEM写真、及び電子線回折パターン EV、EV−LCP、EVCP−CP及びEVCP−LCP表面のTF−XRDパターン EV、EV−LCP、EVCP−CP及びEVCP−LCP表面のXPSスペクトル 過飽和溶液処理前後のCPまたはLCP溶液中のCa、P及びラミニン濃度 過飽和溶液処理によるCP、及びLCP溶液中のCa、P及びラミニン濃度の経時変化 EVCP−LCPより作製された超薄切片(免疫染色後)のTEM写真 EV、EV−LCP、EVCP−CP及びEVCP−LCP表面に接着した細胞数 EV及びEVCP−LCPと、ラット皮膚との界面の光学顕微鏡写真 交互浸漬処理されたEV、PET及びPLLAに、過飽和溶液処理を施した前後のLCP溶液中のラミニン濃度 EVCPに過飽和溶液処理を施した前後のLCP、及びACP溶液中のラミニンまたはアルブミン濃度 CP、01E7Y、1E7Y、10E7Y、または50E7Y溶液に浸漬された後のEVCP表面のXPSスペクトル EVCPに過飽和溶液処理を施した前後のT001、T005、及びT010溶液中のテトラサイクリン濃度

Claims (10)

  1. 「高分子基材の表面にアパタイトおよび/またはアモルファス燐酸カルシウムからなる燐酸カルシウム捕捉層を設け、当該高分子基材と、Ca成分1.5〜4.0mM、P成分0.5〜2mM、K成分0〜10mM、Na成分100〜150mM、Cl成分100〜150mMの成分濃度、あるいは、Ca成分1.5〜4.0mM、P成分0.5〜2mM、K成分50〜100mM、Cl成分50〜100mMの成分濃度を有し、pHを5.0〜9.0に調整した、生理活性物質を含む燐酸カルシウム過飽和溶液とを接触させ、該基材表面に生理活性物質と燐酸カルシウムを共沈させることにより、当該捕捉層上に燐酸カルシウムと生理活性物質の複合層を設けたことを特徴とする、生理活性物質と燐酸カルシウムを含有する高分子複合体。」
  2. 高分子基材が、シリコーンポリマー、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、これらの共重合体、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選ばれた少なくとも1種の高分子であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子複合体。
  3. 燐酸カルシウム捕捉層が、カルシウムイオンを含む水溶液と燐酸イオンを含む水溶液による交互浸漬により形成されたアパタイトおよび/またはアモルファス燐酸カルシウムよりなるものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子複合体。
  4. 生理活性物質が、タンパク質、ペプチド、及び抗生物質から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1乃至3何れかに記載の複合体。
  5. タンパク質が、成長因子、アルブミン及び細胞接着因子から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1乃至4何れかに記載の複合体。
  6. ペプチドが、少なくとも一つ以上の酸性アミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1乃至4何れかに記載の複合体。
  7. 抗生物質が、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、またはその塩を有することを特徴とする、請求項1乃至4何れかに記載の複合体。
  8. 表面にアパタイトおよび/またはアモルファス燐酸カルシウムからなる燐酸カルシウム捕捉層を有する高分子基材と、Ca成分1.5〜4.0mM、P成分0.5〜2mM、K成分0〜10mM、Na成分100〜150mM、Cl成分100〜150mMの成分濃度、あるいは、Ca成分1.5〜4.0mM、P成分0.5〜2mM、K成分50〜100mM、Cl成分50〜100mMの成分濃度を有し、pHを5.0〜9.0に調整した、生理活性物質を含む燐酸カルシウム過飽和溶液とを接触させ、該基材表面に生理活性物質と燐酸カルシウムを共沈させることを特徴とする、請求項1乃至7何れかに記載の複合体の製造方法。
  9. 請求項1乃至7何れかに記載の生理活性物質と燐酸カルシウムを含有する高分子複合体を素材とする、医療用材料。
  10. 医療用材料が経皮端子であることを特徴とする、請求項9に記載の医療用材料。
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