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JP6598412B1 - 認知機能改善用食品 - Google Patents

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Abstract

【課題】認知機能の低下抑制及び/又は改善のための新規な剤や食品を提供すること。
【解決手段】
本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤を提供する。本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品を提供する。更に、本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する神経細胞の分化促進剤を提供する。
【選択図】図6

Description

本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤に関する。本発明は、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品に関する。更に、本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する神経細胞の分化促進剤に関する。
ヒトの認知機能は、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの能力から成り立っている。事故や疾患等により脳に器質的な障害が生じると、中核症状として記憶障害、注意障害、失見当、失行動、失語、失認、実行機能障害等の認知機能障害を発症する。特に脳の器質的な障害に起因する認知機能障害を高次脳機能障害という。高次脳機能障害を発症する主な原因としては、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの脳血管疾患、交通事故、スポーツ中の転倒などによる頭部外傷、あるいは脳炎やアルツハイマー病、レビー小体病等の疾患が挙げられる。これら高次脳機能障害を含む認知機能障害の治療のためには、種々の処方薬が存在する。例えば、塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンはコリンエステラーゼ阻害作用のある抗認知症薬であり、中枢神経内のアセチルコリンの分解を抑えることにより、記憶力の低下を防ぐ。メマンチンはNMDA受容体拮抗を機序とする抗認知症薬であり、中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行を抑制する。
一方、脳に器質的な障害が無くとも、ストレスや加齢による脳の老化によって生理的な認知機能の低下が起こることが知られている。脳の器質的な障害に起因する認知機能障害ほど深刻ではないものの、物忘れなどの記憶障害、言葉が出てこない、あるいは言い間違えといった言語能力の低下、そして注意力・集中力の低下や学習能力の低下などの症状が生じる。障害には至らなくとも日常生活に支障をきたすことから、その機能低下予防あるいは機能の向上についての関心が高まっている。しかし、前述の抗認知症薬は、認知機能障害に関する疾病に罹患した場合に限って医師から処方されるものであり、健常人の認知機能の低下抑制又は改善の目的には使用できない。
このような背景から、健常人の認知機能の低下抑制又は改善に有効な成分を食品として摂取するための研究がなされてきた。例えば、プラズマローゲンを添加して成る認知機能の向上及び/又は改善用加工食品(特許文献1)やα−リポ多糖、イチョウ葉エキス、クレアチニン、カルニチン、黒コショウ抽出物、L−シスチンを含む高次脳機能低下改善剤(特許文献2)などが提案されている。
ところで、Cyclo(Gly-Pro)(以下cGPと記載する場合がある)は、グリシンとプロリンが縮合結合した構造を保有する環状のジペプチドであり、コラーゲン加水分解物や発酵食品に含まれていることが知られている。このcGPは、ラットの脳神経に関する生理活性を有することが報告されている。例えば、非特許文献1によると、ラットの脳内には内在性のcGPが存在しているが、受動回避行動の記憶に対する強い電気ショックによる健忘作用が、外部からcGPを腹腔内投与することにより弱められたことから、cGPが記憶にかかわることが示唆されている。また、非特許文献2ではラットの脳神経細胞から抽出したシナプトノイロゾームの膜電位変化をin vitroで計測しており、cGPのシナプトノイロゾーム小胞画分懸濁液中への投与が膜電位を脱分極側や過分極側に変化させたことから、cGPが記憶機能や神経保護作用に関わっている可能性が示唆されている。さらに、非特許文献3によると、低酸素性虚血性脳損傷を与えたラットの側脳室にcGPを直接投与すると組織の損傷範囲が小さかったことから、cGPに神経保護作用のあることが示唆されている。
特開2017−200466号公報 特開2008−214338号公報
Identification of a novel endogenous memory facilitating cyclic dipeptide Cyclo-prolylglycine in rat brain, FEBS Letters, Vol 391, 149-152 (1996) Cyclopropyl glycine and proline-containing preparation Noopept evoke two types of membrane potential responses in synaptoneurosomes, Bulletin of Experimental Biology and Medicine Vol 135, 559-562 (2003) Peripheral administration of a novel diketopiperazine, NNZ 2591, prevents brain injury and improves somatosensory-motor function following hypoxia-ischemia in adult rats, Neuropharmacology, Vol 53, 749-762 (2007)
非特許文献1及び3では、cGPの外部からの投与は、ラット脳室内への直接投与、あるいは腹腔内投与により行われており、また非特許文献2はin vitroでの試験を開示しており、従来技術においてcGPの経口投与における効果は知られていない。ヒトがcGPの効果を得ようとする場合は、利便性の観点からも、経口摂取できる形態であることが望ましい。細胞試験、あるいは脳への直接投与など、特殊な投与によって得られた場合と同様の効能を経口摂取で得るためには、cGPがある程度の良い効率で脳内に移行できることが必須条件である。しかし、経口で投与したcGPの血中から脳内への移行性を定量的に示した報告はない。
哺乳類の脳は、大まかに大脳、小脳、脳幹に分けられる。大脳を除けば、全ての哺乳類の脳はかなり細かなところまで似ている。例えば、記憶の形成に関与する海馬における神経細胞の規則的な配列や他領域との繋がりは、ほぼ同様の構造をしている(C. Watson, M. Kirkcaldie, G. Paxinos著、徳野博信訳、脳−「かたち」と「はたらき」−、共立出版株式会社、2012年5月10日初版1版発行)。このため、ラットやマウスなどげっ歯類の脳の働きを研究することで、ヒトの脳の働きの一端を理解することが可能である。もちろん、げっ歯類とヒトでは、感覚機能の鋭敏さの違いや身体構造の違いがあるため、げっ歯類での実験結果をヒトに対応付けて解釈することには限界がある(田所作太郎、小動物の学習・既往試験法の評価、基礎老化研究 Vol.19、No.1、2-6、1995年)。しかし、遺伝的に統制がとれた系統が確立しているため、均一な結果を得られるという利点もある(大石高生、霊長類を用いた脳機能研究:ヒトとの違いと共通点、脳外誌、25巻6号、480-484、2016年)。また、ヒトを対象としてはできないような侵襲性を伴う実験の結果を得ることも可能になる。非特許文献1〜3は、まさにそのような利点を活かした研究といえる。非特許文献2では細胞学的研究、非特許文献3は、組織学的研究が実施されている。
ただし、非特許文献2では細胞の膜電位の変化を観察したのみであり、本来の生体中において認知機能に影響を及ぼすことは明らかでない。さらに特許文献3は、虚血性脳損傷ラットにcGPを脳室内投与した場合、損傷の範囲が小さかったことのみを示しており、認知機能への影響を評価していない。すなわち、これら細胞レベル及び組織レベルでの実験では、cGPによる脳の機能への影響を直接的に表す結果は得られていないといえる。
一方、非特許文献1ではラットの受動回避試験によってcGPの抗健忘作用、すなわち記憶能力の改善に関する作用を明らかにした。非特許文献1では、動物の長期記憶に及ぼすcGPの作用を評価するために受動回避試験を用いている。受動回避試験として一般には暗室を好む動物を用い、その動物が明室から暗室に入った際に電気刺激を与えることにより、暗室への進入と電気刺激による不快感(恐怖)を学習させ、その後再び明室に動物を置いた際に暗室へ進入するまでの時間を計測することによって記憶の保持状態を評価するというものである。非特許文献1では、暗室への進入と電気刺激による不快感(恐怖)の関係を学習させた動物にさらに強い電気ショックを与えることによって健忘症状(暗室への進入と電気刺激による不快感(恐怖)の関係を忘れること)を引き起こし、その健忘症状がcGPの投与によって弱まることを明らかにしている。したがって、cGPの投与が記憶能力の改善効果を持つことは示されている。しかし、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの認知機能に関わる能力の内、記憶以外の他の能力に及ぼすcGPの効果を示したものではない。
ヒトは、げっ歯類などと比較し大脳皮質が高度に発展しており、皮質領野が細かく分離している。そしてこの大脳皮質が、合理的・分析的思考力、言語能力、集中力などに代表される認知機能に関わる高度な能力を掌っている。このことから、高度な認知的能力に対する効果を検証する場合には、神経回路が類似し、ヒトとよく似た症状を示す霊長類を用いることがよりふさわしいとされる(大石ら、上掲)。さらに、霊長類であっても言語での教示や言語での報告は全く使えないという制約がある。特に、大脳新皮質にあるブローカ野やウェルニッケ野は言語を司るために重要な役割を果たしていると言われているが、これはヒト特異的な領域である。このように、ヒトが、げっ歯類などと比較し大脳皮質が高度に発展し、高度な認知的能力を有することを考慮すると、cGPを経口摂取した場合の認知機能の改善効果をヒトにおいて検証する動機付けが非特許文献1から3にはない。
本発明の目的は、認知機能の低下抑制及び/又は改善のための新規な剤や食品を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ラットにおいて経口投与したcGPが血中及び脳内に移行することを明らかにし、ヒトがcGPを経口摂取した場合も血中に移行することを明らかにした。また、脳損傷ラットに対して従前より混餌投与したcGPが、複雑なタスクの習得を促進する効果があり、学習能力を改善することを明らかにした。さらに、cGPを経口摂取したヒト被験者において、認知機能に関わる各種能力を評価したところ、統計的に有意な改善効果が観察された。加えて、神経細胞に対するcGPの作用を推測する目的で行ったcGPを添加した培地での神経細胞の培養では、cGP未添加の培地での培養と比較して、神経細胞の分化が促進されることが観察された。このような知見に基づいて本発明は完成された。
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤。
[2]前記の剤はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物を含有し、前記Cyclo(Gly-Pro)はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物の一部である、[1]に記載の剤。
[3]タンパク質加水分解物又はその加熱処理物中のCyclo(Gly-Pro)含有率が0.5質量%以上である、[2]に記載の剤。
[4]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、注意・集中力の低下抑制及び/又は改善である、[1]〜[3]の何れか一に記載の剤。
[5]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、言語能力の低下抑制及び/又は改善である、[1]〜[3]の何れか一に記載の剤。
[6]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善である、請求項[1]〜[3]の何れか一に記載の剤。
[7]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、学習能力の低下抑制及び/又は改善である、請求項[1]〜[3]の何れか一に記載の剤。
[8]経口投与又は経口摂取される、[1]〜[7]の何れか一に記載の剤。
[9]Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品。
[10]前記の食品はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物を含有し、前記Cyclo(Gly-Pro)はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物の一部である、[9]に記載の食品。
[11]タンパク質加水分解物又はその加熱処理物中のCyclo(Gly-Pro)含有率が0.5質量%以上である、[10]に記載の食品。
[12]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、注意・集中力の低下抑制及び/又は改善である、[9]〜[11]の何れか一に記載の食品。
[13]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、言語能力の低下抑制及び/又は改善である、[9]〜[11]の何れか一に記載の食品。
[14]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善である、[9]〜[11]の何れか一に記載の食品。
[15]前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、学習能力の低下抑制及び/又は改善である、[9]〜[11]の何れか一に記載の食品。
[16]Cyclo(Gly-Pro)を含有する神経細胞の分化促進剤。
本発明によれば、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤を提供することができる。本発明によれば、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品を提供することができる。更に、本発明によれば、Cyclo(Gly-Pro)を含有する神経細胞の分化促進剤を提供することができる。
図1は、ラットへの経口投与後の血中cGP濃度の時間変化を示すグラフである。エラーバーは標準誤差(SEM)である。 図2は、ラットへの経口投与後の脳線条体内cGP濃度の時間変化を示すグラフである。エラーバーはSEMである。 図3は、ヒトが経口摂取した場合の血中cGP濃度の時間変化を示すグラフである。エラーバーはSEMである。 図4−1は、装置の概観(左)とタスク遂行中のラットの姿勢(右)を示したものである(Kaneko et al., Learning & Behavior, 2017を改変して引用)。左右のレバーの直上に取り付けられているノズルから圧縮空気が噴き出るようになっている。この圧縮空気はレバー上に置かれているラットの前肢の甲に空圧刺激となって与えられる。空圧刺激は左右ランダムに与えられ、ラットは正解側のレバーから前肢を離すことで報酬として砂糖水を与えられる。 図4−2は、実験スケジュールを示したものである。ラットの訓練条件において、触刺激として圧縮空気を吹きかけた側の前肢をレバーから放すことで正解となる場合を刺激応答適合性の観点からcompatible条件、圧縮空気を吹きかけられなかった側の前肢をレバーから放すことで正解となる場合をincompatible条件と呼び、本実験ではこれらの条件を切り替えて逆転学習を行なわせる。訓練開始前に図4−1にある装置に馴化させて立位姿勢でタスクをできるように初期訓練を実施(Shaping)、Compatible条件でエラー率が15%未満になるまで訓練し(1st training)、正解となる側を変更してIncompatible条件でエラー率が15%未満になるまで訓練し(2nd training)、脳損傷部位を作成する(Surgery)。脳損傷作成後は、2nd trainingと同じ条件でエラー率が15%未満になるまで訓練し(3rd training)、正解となる側を変更してエラー率が15%未満となるまで訓練する(4th training)。尚、ラットの体重が300gを越えるまで、あるいは脳損傷作成手術から回復するまでの間は給水制限(Water deprivation)しない。cGPは脳損傷作成手術の1週間前から混餌投与(Peptide administration)する。尚、図中エラー率(Error rate)の変化は、今回、低濃度cGP含有飼料を混餌投与して得られた実験データの例(ラット名:GGD)である。学習能力を評価する際に用いた評価値は脳損傷部位作成後の逆転学習訓練期間(4th training)においてエラー率が15%未満となるまでの日数である。 図5は、訓練日数に対して学習の成立していないラットの割合を示すグラフである。 図6は、アーバンス神経心理テストの結果を示すグラフである。即時記憶、視空間・構成、言語、注意(集中力)、遅延記憶の5分野のテストを行い、総合点で認知機能を評価した。摂取量は20mg/day(11名)あるいは150mg/day(10名)で、摂取期間は8週間とした。摂取前後のデータを対応のあるt検定で比較した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。エラーバーはSEMである。 図7は、PC12細胞の画像である。cGP未添加で培養したPC12細胞とcGPを100μM添加して培養したPC12細胞との比較により、cGPを100μM添加して培養したPC12細胞では神経突起がより長いことがわかる。 図8は、cGP濃度が、PC12細胞の分化に及ぼす影響を示すグラフである。エラーバーはSEMである。*p<0.05、**p<0.01(vs 0μM)。
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤を提供する。Cyclo(Gly-Pro)は、(以下cGPと記載する場合がある)は、グリシンとプロリンが縮合結合した構造を保有する環状のジペプチドであり、以下の化学式で表すことができる。
cGPは、特に製造方法が限定されるものではなく、例えば、アミノ酸からの合成品でも、天然物からの抽出品でもよい。例えば、cGPは、コラーゲン加水分解物などのタンパク質加水分解物を加熱や発酵することにより得ることができる。具体的には、特許第5456876号公報に記載の環状ジペプチドの製造方法により得ることができる。
cGPは、グリシンとプロリンからなる直鎖ジペプチド又はグリシンとプロリンを含む直鎖トリペプチドから生成することができる。上記直鎖ジペプチドや直鎖トリペプチドは、例えば、ゼラチン又はコラーゲンの酵素消化精製物であってもよい。具体的には、cGPの原料となる直鎖ジペプチドや直鎖トリペプチドを含むコラーゲン加水分解物は、例えば特許第3146251号公報に記載の方法で調製でき、ある程度精製したコラーゲンあるいは変性コラーゲン(ゼラチン)などを原材料として、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等の酵素で加水分解することによって得られる。
cGPは、上記直鎖ジペプチドのN末端アミノ酸のアミノ基とC末端アミノ酸のカルボキシ基が脱水縮合し環状ジペプチドを形成するか、又はN末端にグリシンとN末端から2番目にプロリンを含む直鎖トリペプチドの場合、下記の化学式に示すように、N末端グリシンのアミノ基と2番目のプロリンのカルボキシ基とが環化し、さらに3番目のアミノ酸が脱離して環状ジペプチドを形成することにより生成される。
本発明の剤は、タンパク質加水分解物又はその加熱処理物を含有し、当該Cyclo(Gly-Pro)はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物の一部であってもよい。コラーゲン加水分解物などタンパク質加水分解物には、cGPを含むものがある。cGPを含有する代表的なコラーゲン加水分解物には、コラーゲン・トリペプチド(ゼライス)、HACP-01(ゼライス)、HACP-50(ゼライス)やGFF-01(ニッピ)などがある。本発明者らのLC−MS法による分析では、HACP-50のcGP含有率は1.25〜1.90質量%であり、コラーゲン・トリペプチド、HACP-01およびGFF-01におけるcGP含有率は、いずれも0.5〜0.6%であった。
上記LC−MS法の実験条件は以下のとおりである。装置としてACQUITY UPLC H−Class System with SQ Detector2(ウォーターズ社)、カラムとしてACCQ−TAG ULTRA C18(ウォーターズ社、直径2.1×100mm、粒子径1.7μm)を用いた。溶媒Aに0.1%ギ酸水溶液を、溶媒Bとして0.1%ギ酸を含む50%アセトニトリル水溶液を用い、カラム温度45℃の条件で0.6mL/minの速度で溶媒を流した。グラジエント条件として、0〜5分まで溶媒Aを100%、5〜10分まで溶媒Bを徐々に25%まで上昇させた。これに0.1%で溶媒Aに溶解したコラーゲン加水分解物水溶液を1μL注入し、cGPの質量を検出することで分析した。
上記タンパク質加水分解物は、少なくとも1種類のトリペプチド類及び/又はジペプチド類を含むことができる。トリペプチド類及びジペプチド類として、これらに限定されないが、例えば、Gly−Pro−Hyp、Gly−Pro−Pro、Gly−Pro−Ala、Gly−Ala−Hyp、Gly−Ala−Pro、Gly−Leu−Hyp、Gly−Glu−Hyp、Gly−Glu−Arg、Gly−Pro−Arg、Gly−Ser−Hyp、Gly−Ala−Lys、Gly−Ala−Arg、Gly−Pro−Lys、Gly−Pro−Ser、Gly−Phe−Hyp、Gly−Pro−Gln、Gly−Ala−Ala、Gly−Pro−Val、Gly−Asp−Ala、Gly−Glu−Ala、Gly−Ala−Asp、Gly−Arg−Hyp、Pro−Hyp−Gly、Ala−Hyp−Gly、Gly−Pro、Pro−Hyp、Hyp−Gly、Ala−Hyp及びPro−Alaなどを挙げることができる。
上記タンパク質加水分解物の加水分解物は、Cyclo(Gly-Pro)のほかに、例えば、Cyclo(Gly−Ala)、Cyclo(Gly−Leu)、Cyclo(Gly−Glu)、Cyclo(Gly−Ser)、Cyclo(Gly−Phe)、Cyclo(Gly−Val)、Cyclo(Leu−Hyp)、及びCyclo(Ala−Hyp)などを含有すると考えられる。
cGPの原料となる直鎖ジペプチドや直鎖トリペプチドを含むコラーゲン加水分解物等のタンパク質加水分解物を加熱処理し、ODSカラムで親水性成分のみを分取することにより、タンパク質加水分解物中のcGP含有率を高めることができる。本発明の特定の実施態様において、タンパク質加水分解物中又はその加熱処理物中のCyclo(Gly-Pro)含有率は、0.5質量%、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、又は10質量%以上であってもよい。タンパク質加水分解物中又はその加熱処理物中のCyclo(Gly-Pro)含有率が高い方が、少ない摂取量で多くのCyclo(Gly-Pro)を摂取できるためである。
本発明において、対象の認知機能とは、哺乳動物の認知機能を意味し、例えばイヌ、ネコ、サルなどのペットの認知機能やヒトの認知機能を意味する。特に、ヒトの認知機能は、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの能力から成り立っており、認知機能は、これら能力を、例えば脳の認知機能検査(スクリーニング検査)を実施することによって評価することができる。また、認知機能障害の治療薬の開発では、動物の行動実験により、認知機能に関連する能力のうち記憶や学習能力を評価することが行われている。
本発明において、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善は、神経心理テストにより測定される認知機能の低下抑制及び/又は改善であってもよい。神経心理テストの種類は、特に制限されないが、例えば、アーバンス神経心理テスト、ミニメンタルステイツ検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)、Mini−Cog、MoCA(Montreal Cognitive Assessment)、DASC−21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items: 地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)を挙げることができる。
特定の実施態様において、上記認知機能の低下抑制及び/又は改善は、アーバンス神経心理テストにより測定される認知機能の低下抑制及び/又は改善であってもよい。後述する実施例では、日本版アーバンス神経心理テスト(脳神経、Vol.54、No.2、463-471、2002)を用いて認知機能を評価している。日本版アーバンス神経心理テストは、アーバンス(RBANS: Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status)神経心理テストの開発者であるRandolphの方法[J Clin Exp Neuropsychol Vol.20 310-319 (1998)]を日本語訳したものである。ヒトの認知機能の評価、特に認知症の認知機能試験には、例えばミニメンタルステイツ検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)などの手軽に行える検査バッテリーが代表的な評価方法であり、臨床現場において普及している。しかし、これらは内容が単純である上、1種類の検査バッテリーしかないために学習効果があり、再検査時のわずかな得点の改善が有意であるか否かを確実に判定できない懸念が指摘されている(C. Watsonら著、上掲;山嶋ら、脳神経・54号6巻、2002年)。
一方、アーバンス神経心理テストは、短時間(30分程度)で、繰り返し評価し得る神経心理テスト課題(検査バッテリー)であり、2つの等価な検査バッテリーを用いることで再検査時の学習効果を回避できる。さらには、アーバンス神経心理テストは、即時記憶、視空間・構成、言語、注意(集中力)、遅延記憶の5つの認知機能に関わる能力に関する指標を用いて評価できるという特徴を持つ。一般的に、脳機能の低下とは、記憶力の低下と同義であると認識されがちである。しかし、前述の通り、実際のヒトの認知機能とは、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの多様な能力から成り立つものとして捉えることが可能である。心理テストを用いて被験薬や被験食品がヒトの認知機能に与える影響を評価する場合に、認知機能に関わる能力の内のどの能力に働きかける成分であるかを明らかにすることは重要な意義があるが、アーバンス神経心理テストでは5つの指標により認知機能を評価することで、従来法よりも詳細に知ることができ、さらには認知機能低下の検出力が高いとされている。
上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善は、即時記憶、視空間・構成、言語、注意(集中)力又は遅延記憶の何れかの低下抑制及び/又は改善であってもよい。特定の実施態様において、即時記憶、視空間・構成、言語、注意(集中)力又は遅延記憶は、アーバンス神経心理テストにより測定される認知機能における即時記憶、視空間・構成、言語、注意(集中)力又は遅延記憶であってもよい。松井ら(富山大学杉谷キャンパス一般教育、第38号、2010.12.25、pp.87-133)によれば、即時記憶、視空間・構成、言語、注意(集中力)、遅延記憶の内容は以下のとおりである。即時記憶は、提示された情報を即時に記憶する被検者の能力を示す。視空間・構成は、空間的関係を認識し、ある図形の空間関係を正確に構成する能力を示す。言語は、「命名」あるいは「学習された素材の検索」をし、言語的に応答する被検者の能力を示す。注意(集中力)は、視覚的に、及び口頭で提示された情報を短期記憶貯蔵に保持、操作する被検者の能力を示す。遅延記憶は、被検者の前向記憶の能力を示す。
上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善は、注意・集中力の低下抑制及び/又は改善であってもよい。特定の実施態様において、注意・集中力は、アーバンス神経心理テストにより測定される認知機能における注意・集中力であってもよい。
上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善は、言語能力の低下抑制及び/又は改善であってもよい。特定の実施態様において、言語能力は、アーバンス神経心理テストにより測定される認知機能における言語能力であってもよい。
上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善は、視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善であってもよい。特定の実施態様において、注意・集中力は、アーバンス神経心理テストにより測定される認知機能における視空間・構成能力であってもよい。
後述する実施例に記載するように、若いころに比べ、物忘れが進んだと感じている男女にcGP含有物を8週間摂取してもらい、摂取の前後にアーバンス神経心理テストを実施した。その結果、cGPの摂取後に認知機能の向上が見られた。特に、cGPの摂取により、認知機能における注意(集中)力及び言語能力の改善効果が顕著であった。実施例では、アーバンス神経心理テストの認知機能総合点が8週間のcGP含有物の摂取により増加していることから、cGPは認知機能を改善する効果を有することが示された。また、cGPは認知機能を改善するので、加齢などに伴う認知機能の低下を抑制する効果を有すると考えられる。
上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、学習能力の低下抑制及び/又は改善であってもよい。本明細書において学習は、事象間の関係を覚えること、その関係を利用して適切な応答動作を高頻度(正解となる応答が多い)、かつ、短い時間(応答時間が短い)で行なえるようになることを意味する。学習能力は学習を生じる能力である。学習能力の発現は、脳神経系での神経(シナプス)の可塑性によって引き起こされる知覚、認知、行動の変化に基づく。さらに、本明細書において学習過程とは学習能力によって引き起こされる脳神経系や行動の変化の過程を意味する。
本明細書において学習能力の改善とは、正常な状態において学習過程が促進されること、学習に要する訓練時間や訓練日数が短くてすむこと、決められた作業が以前よりも短時間で終えられるようになること、決められた時間の中でより多くの作業を行えるようになることを言う。また、学習能力の低下抑制とは、脳の損傷や疲労などにより、学習が正常時に比較して遅くなること、学習に要する訓練時間や訓練日数が正常時に比較して長くなること、決められた作業が正常時に比較して遅くなることに対する抑制を意味する。
後述の実施例では、選択反応時間タスクを用いて、動物の学習能力を評価している。一般に選択反応時間タスクとは、ランダムに与えられる2通りの刺激に対し、2通りの応答方法の内の正解となる応答を選んで、可能な限り早く応答動作を実施するというタスクである。このタスクに関連する大脳皮質を破壊することによって学習の成立に要する訓練日数が増加することから、加えられた刺激と正解となる応答側との間の関係を脳神経系での神経可塑性によって学習するものと考えられる。また、その学習に要する訓練日数を実験群と対照群の間で比較すれば、群ごとの学習能力の高さを評価可能である。本発明で用いた選択反応時間タスクは、小動物において適度にゆっくりと学習が成立するので、学習過程の評価に適している。また、脳損傷モデルを用いることにより、ヒトでは実施できない侵襲的な操作、例えば脳損傷に対する影響を評価可能である。これに対して、非特許文献1の受動回避試験は極めて短時間(単一試行)に学習されてしまうような現象についての記憶能力を評価するものであり、学習が成立する過程を評価することはできない。
本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤は、経口投与又は経口摂取されることが好ましい。後述する実施例に記載するように、cGPは、経口摂取後速やかに血中に移行し、さらに脳内に移行することを本願で明らかにした。経口投与されたcGPが、脳内に移行されることを示した文献は、本願以前には存在しない。
対象がヒトである場合、加齢による脳の老化、ストレス、睡眠不足、生活習慣病などによって生じる認知機能の低下抑制及び/又は改善のために、本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤を投与又は摂取することができる。健常なヒトであっても、環境の変化、集中的な学習に伴う脳疲労、加齢の影響により、認知機能の低下を自覚することがある。そのような場合に、本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤を一定期間、摂取することにより、認知機能の低下が抑制されること、あるいは認知機能が改善されることが期待できる。
本発明の対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤は、神経心理テストにおいて、認知機能が正常でないと診断された対象に用いることができる。例えば、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)では、満点30点中、20点以下の場合は痴呆の疑いがあると診断されるので、HDS−R得点20点以下の対象に投与することにより、認知機能の低下抑制及び/又は改善が得られる可能性がある。また、ミニメンタルステイツ検査(MMSE)では、満点30点中、24点以上で正常と判断されるので、MMSE得点23点以下の対象に投与することにより、認知機能の低下抑制及び/又は改善が得られる可能性がある。アーバンス神経心理テストでは、正常の目安として総合点の評価点25点以上とする場合があるので、総合点の評価点25点未満の対象に投与することにより、認知機能の低下抑制及び/又は改善が得られる可能性がある。
神経心理テストにおいて、認知機能が正常であると診断された対象であっても、得点が減少傾向にある対象(前回行った神経心理テストの点数よりも、点数が低かった場合など)に対し投与することができる。
また、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの脳血管疾患、交通事故、スポーツ中の転倒などによる頭部外傷、あるいは脳炎や、脳内における神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知症、レビー小体病、うつ病)等の疾患を原因として認知機能障害を発症している対象に、本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤を投与することができる。後述のように、Cyclo(Gly-Pro)は、脳損傷ラットでも学習過程の促進効果が見られ、更に神経細胞の分化促進作用を有することから、認知機能障害を発症している対象にも有効であると考えられるためである。
本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤は、種々の剤型とすることができる。例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳化剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。局所薬としては、塗布や点眼のための外用剤や噴霧剤が挙げられる。cGPは皮膚や粘膜から吸収されるためである。本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤は、cGPの他に、医薬として許容される添加物を含むことができる。医薬として許容される添加物は、例えば安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、pH調整剤、保存剤等である。
本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤は、有効成分であるcGPを、1日につき体重1kgあたり10〜1000mg、好ましくは10〜300mg、1日1回又は数回に分けて投与又は摂取することができる。投与量は、対象の年齢、体重、症状の違い、症状の程度、剤型等により適宜調節することができる。投与又は摂取の期間は、特に制限されないが、2週間以上であることが好ましい。
別の実施態様では、本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品を提供する。上述のように、脳に器質的な障害が無くとも、ストレスや加齢などによって生理的な認知機能の低下が起こることが知られており、本発明の食品は、長寿化・高齢化が進むなか認知機能の低下抑制及び/又は改善を必要とする多くの人々に用いることができる。
本発明の食品に含有されるCyclo(Gly-Pro)は、上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤に含有されるものと同様である。
対象の認知機能とは、哺乳動物の認知機能を意味し、例えばイヌ、ネコ、サルなどのペットの認知機能やヒトの認知機能を意味する。高齢化したペットでも認知機能の低下が生じる場合がある。対象がペットである場合は、ペットの認知機能の低下に気付いた飼い主が、本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品をペットに与えることができる。
対象がヒトである場合、加齢による脳の老化、ストレス、睡眠不足、生活習慣病などによって生じる認知機能の低下抑制及び/又は改善のために、本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品を摂取することができる。健常なヒトであっても、環境の変化、集中的な学習に伴う脳疲労、加齢の影響により、認知機能の低下を自覚することがある。本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品を一定期間、摂取することにより、認知機能の低下が抑制されること、あるいは認知機能が改善することが期待できる。
本発明の食品は、幅広い年代の人々に提供することができるが、若い時に比べ物忘れが進んだと感じている年代の人々に提供することにより、認知機能の低下抑制や改善の効果が実感されやすいと考えられる。例えば、他人や物の名前が思い出せないことが多くなったという実感をもつ中年期(具体的には40歳から64歳の間)や、認知症とは診断されていないが物忘れが多くなったという高年期(例えば、65歳以上)の人々に対して、認知機能の低下抑制や改善の効果が期待される。
また、若い世代であっても受験勉強などにより長時間にわたり集中的に学習をした場合には、脳疲労による認知機能の低下が起こりうる。そのような状況の前、あるいは後に摂取することにより、認知機能の低下抑制や早期の改善の効果を実感されやすいと考えられる。例えば、適切な単語がすぐに思い出せない、集中力が切れやすく小さなミスが増える、何度練習しても習得レベルが向上しないといった実感に対して、認知機能の低下抑制や改善の効果が期待される。
本発明の食品を一定期間摂取することにより、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が期待される。上記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善は、注意・集中力、言語能力、視空間・構成能力、及び/又は学習能力の低下抑制及び/又は改善であってもよい。
本発明により提供される食品についても、上述の神経心理テストを用いて、ヒトにおける、その効果を確認することができる。本発明の食品を一定期間摂取することにより、神経心理テストにより測定される認知機能の低下抑制及び/又は改善が期待される。前記神経心理テストは、アーバンス神経心理テストであることができる。また、本発明の食品を一定期間摂取することにより、神経心理テストにより測定される認知機能における注意・集中力、言語能力、及び/又は視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善が期待される。
また、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの脳血管疾患、交通事故、スポーツ中の転倒などによる頭部外傷、あるいは脳炎や、脳内における神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知症、レビー小体病、うつ病)等の疾患を原因として認知機能障害を発症している対象に、本発明の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品を摂取させることができる。後述のように、Cyclo(Gly-Pro)は、脳損傷ラットでも学習過程の促進効果が見られ、更に神経細胞の分化促進作用を有することから、認知機能障害を発症している対象にも有効であると考えられるためである。
本発明の食品は、Cyclo(Gly-Pro)又はCyclo(Gly-Pro)を含有するタンパク質加水分解物若しくはその加熱処理物を、経口摂取可能な任意の形態、例えば、溶液、懸濁液、粉末、固体成形物などに加工することができる。任意の形態に加工された食品は、そのまま摂取してもよいし、コーヒーなど嗜好飲料やヨーグルトなど乳製品などに混ぜて摂取することもできる。
本発明の食品は、Cyclo(Gly-Pro)又はCyclo(Gly-Pro)を含有するタンパク質加水分解物若しくはその加熱処理物を食品素材として、食品加工の際に、配合することにより製造することができる。Cyclo(Gly-Pro)又はCyclo(Gly-Pro)を含有するタンパク質加水分解物若しくはその加熱処理物が配合された食品の例としては、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤及びドリンク剤等のサプリメント、あるいは炭水化物類(パン、麺、米飯、餅など)、菓子類(クッキー、ゼリー、チョコレート、チューインガム、キャンディーなど)、乳製品(チーズ、ヨーグルト、バターなど)、粉末食品(粉末スープ、粉末ムース、粉末ゼリー、粉末甘味料)、栄養食、ダイエット食、スポーツ用栄養食や、飲料(果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース、サイダー、ジンジャーエール、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料、ゼリー飲料、コーヒー飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、乳飲料、乳酸菌飲料、ココア、ビール、発泡酒、第三のビール、ノンアルコール飲料、ビール風味飲料、リキュール、チューハイ、清酒、果実酒、蒸留酒)を挙げることができる。本発明の一態様において食品は、機能性食品又は特定保健用食品である。なお、cGPは、水に非常に溶けやすく、耐熱性に優れ、100℃程度の温水中においても安定であるため、様々な食品に利用可能な食品素材である。
本発明の食品は、cGPを1日につき体重1kgあたり10〜1000mg、好ましくは10〜300mg、1日1回又は数回に分けて経口摂取することができる。摂取量は、対象の年齢、体重、症状の違い、症状の程度、剤型等により適宜調節することができる。摂取の期間は、特に制限されないが、2週間以上であることが好ましい。cGPは長年の使用経験があるコラーゲン加水分解物に含有されている成分であることから、安全性が高いと考えられる。
別の局面において、本発明は、Cyclo(Gly-Pro)を含有する神経細胞の分化促進剤を提供する。後述する実施例では、cGPを含む培地で培養した神経細胞PC12細胞の神経突起の伸長が、cGPを含まない培地における培養と比較して促進されていることが示されている。また、神経突起伸長が生じている神経細胞の割合は、培地中に含有されるcGP濃度に依存して増加することも観察されている。すなわち、Cyclo(Gly-Pro)が神経細胞の分化を促進することが本願で初めて明らかとなった。
Cyclo(Gly-Pro)は、神経細胞の分化を促進することから、脳内における神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知症、うつ病)の治療剤として用いることができる可能性がある。後述の実施例に示されているアーバンス神経心理テストにより測定された認知機能の改善効果の作用機序の一つとして、被験者が摂取したCyclo(Gly-Pro)が脳の神経細胞の分化を促進し、神経保護作用が発揮されたことが可能性として考えられる。
上記神経細胞の分化促進剤は、認知機能の低下抑制及び/又は改善剤の場合と同様に、ヒトを含む哺乳動物に投与されるために、種々の剤型とすることができる。
上記神経細胞の分化促進剤は、培地添加剤として使用することができる。例えば、神経幹細胞から、神経細胞を分化誘導するために使用することができると考えられる。
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、「%」等は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
実施例1
<cGP投与後の血中及び脳内への移行性>
1.ラットへのcGP投与後の血中濃度測定試験
10週齢のオスのJcl:SDラットを23±3℃、湿度50±10%の環境で12時間ごとの明暗サイクルの環境で飼育した。固形飼料(放射線滅菌飼料CE−2(RI30kGy))と水は自由摂取とし、3日間馴化した。馴化後、10週齢となったラットを16時間絶食させた。cGP(Bachem社)を0.063mmol/mLになるように生理食塩水(大塚製薬工場社)に溶解し、0.53mmol/kg体重となるように胃ゾンデで強制投与した。投与前(0)、投与後10分後、30分後、60分後、120分後、及び240分後に尾静脈より採血した。血液は採取後速やかにヘパリンリチウムを含む採血管(BDマイクロティナ、日本ベクトンディッキンソン)で処理した。これを2000×g、4℃で遠心分離し、血漿を得た。これをLC−MSにて測定し、血中のcGP濃度を得た。
LC−MSの実験条件は以下のとおりである。装置としてACQUITY UPLC H−Class System with SQ Detector2(ウォーターズ社)、カラムとしてSunniest RP−AQUA(直径2.1×150mm、粒子径5μm)(クロマニックテクノロジーズ)を用いた。溶媒Aとして0.1%ギ酸水溶液を、溶媒Bとして0.1%ギ酸を含む50%アセトニトリル水溶液を用い、カラム温度45℃の条件で0.4mL/minの速度で溶媒を流した。グラジエント条件として、0〜0.5分まで溶媒Bを徐々に5%、0.5〜4分まで溶媒Bを徐々に15%まで上昇させた。血漿は終濃度4%となるようにテトラフルオロ酢酸(和光純薬製)を加え、氷冷下に1時間放置した後、10,000×g、4℃で10分間遠心分離した。この上清を装置に注入し、cGPの質量を検出することで分析した。
2.ラットへのcGP投与後の脳内濃度測定試験
脳内濃度(脳内細胞外液中濃度)測定試験は、一般的なマイクロダイアリシス法により実施した。7週齢のオスのWistarラット(日本チャールズリバー)を導入して、馴化後8週齢となったところでマイクロダイアリシスガイドカニューレを頭部に設置する手術を実施した。自発呼吸によるセボフルランの吸入麻酔下で頭蓋骨を露出し、線条体上の頭蓋骨に直径約2mmの穴をあけ、ガイドカニューレを設置した。手術後は7日間以上の回復期間をおいて、9から10週齢となったところでラットへのcGP投与後の脳内濃度測定試験を実施した。cGP投与実験の前日に灌流液で満たされたマイクロダイアリシスプローブ(CMA 11 metal free, CMAマイクロダイアリシス社)を、ガイドカニューレに挿入して設置した。また、投与実験の前日からラットは絶食とした。ラット頭部へ設置したマイクロダイアリシスプローブの灌流液入口、及び出口へフッ素樹脂製チューブを接続し、2μL/minの流速で灌流液を送液した。フリームービング状態のラットより、cGP投与の45分前から投与後6時間において、持続的に30μLずつ透析液を回収した。cGP(Bachem社)を1.6mmol/mLになるように生理食塩水(大塚製薬工場社)に溶解し、1.1mmol/kg体重となるように胃ゾンデで強制投与した。回収した透析液のcGP濃度は、液体クロマトグラフィ−質量分析装置で測定した。別途測定したマイクロダイアリシスプローブのcGP回収率から脳内でのcGP濃度を算出した。
液体クロマトグラフィ−質量分析法の実験条件は以下のとおりである。装置としてACQUITY UPLC H−Class System with SQ Detector2 (ウォーターズ社)、カラムとしてACCQ−TAG ULTRA C18(直径2.1×100mm、粒子径1.7μm)(ウォーターズ社)を用いた。溶媒Aに0.1%ギ酸水溶液を、溶媒Bとして0.1%ギ酸を含む50%アセトニトリル水溶液を用い、カラム温度45℃の条件で0.6mL/minの速度で溶媒を流した。グラジエント条件として、0〜3分まで溶媒Bを徐々に50%まで上昇させた。これにPBSで希釈した透析液を注入し、cGPの質量を検出することで分析した。
3.結果
ラットへのcGP投与後の血中濃度測定試験について、経口投与後の血中cGP濃度の時間変化を図1に示す。時刻0分にcGPを経口投与したところ、血中cGP濃度が急激に上昇し、投与後10分で血中cGP濃度は600μMを超え、投与後30分ぐらいにピーク濃度となった。この結果から、cGPが血中に移行しやすい成分であること、及び経口投与したcGPが速やかに血中へ移行することが明らかとなった。
また、ラットへのcGP投与後の脳内濃度測定試験について、経口投与後の脳線条体内cGP濃度の時間変化を図2に示す。時刻0分にcGPを経口投与したところ、脳線条体内cGP濃度が次第に高くなり、投与後100分から200分後ぐらいにピーク濃度となり、ピーク濃度は7.5から18μMの範囲であった。この結果から、経口投与したcGPが脳内へ移行することが明らかとなった。
血中濃度測定試験及び脳内濃度測定試験の結果に基づき、濃度変化における時間遅れと可能な移行経路を考慮すると、経口投与したcGPが血液を経由して脳内まで移行する可能性が示された。
実施例2
<ヒトにおけるcGP経口摂取後の血中濃度測定試験>
1.ヒト試験方法
試験食としてHACP−50(ゼライス株式会社)を用いた。HACP−50に含まれるcGPは、1.25質量%であった。被験者である健常ヒト男性4名(平均年齢:41.5±13.3歳、平均体重:59.6±4.7kg)は、試験の12時間前より絶食をした。絶食後、100mLの水に溶解した80mg/kg体重のHACP−50を一度に摂取した(cGP摂取量:1mg/kg体重)。摂取の5分後、15分後、30分後、60分後、120分後、240分後に5mLの採血を行った。なお、試験時間が長く、採血が複数回に及ぶことから、被験者の安全を確保するため、被験者は開始後65分と125分に小さなおにぎり(動物性タンパク質を含まず)を摂取し、30分に一度、30mLの水分補給を行った。得られた血液を800×g、4℃で10分間遠心分離して血漿を採取した。血漿はLC−MS/MS分析に供するまで−80℃で保管した。
2.LC−MS/MSによるcGP分析
上記血漿に終濃度4%(v/v)となるようにトリクロロ酢酸(和光純薬株式会社)を添加し、21880×g、4℃で15分間、遠心分離した。この上清をLC−MS/MS分析に供した。分析にはProminence UFLC L155(島津製作所)、4000 QTRAP system(AB Sciex)を用いた。カラムはSunniest RP−AQUA(直径2.1×150mm、粒子径5μm)(クロマニックテクノロジーズ)を用いた。溶媒Aに0.1%ギ酸水溶液を、溶媒Bに0.1%ギ酸を含むアセトニトリル水溶液を用い、カラム温度30℃の条件で0.2mL/minの速度で溶媒を流した。グラジエント条件として、0〜0.5分まで溶媒Bを徐々に10%、0.5〜4分まで溶媒Bを徐々に30%まで上昇させた。これに0.1%で溶媒Aに溶解したHACP−50を10μL注入し、cGPの質量を検出することで分析した。
3.結果
血漿中のcGP濃度の変化を図3に示した。血中のcGP濃度は、摂取後30分で20nmol/mL程度まで上昇し、その後徐々に下降した。このことから、ヒトにおいても経口摂取されたcGPが血中に移行することが示された。
実施例3
<脳損傷ラットによるラット用選択反応時間タスク学習試験>
1.ラット用選択反応時間タスク
本実施例では、認知機能の中でも学習について、学習過程の速さを評価するために開発されたラット用選択反応時間タスクを用いて、cGPを脳損傷ラットに経口投与することによって学習能力が改善されることを明らかにした。
一般に選択反応時間タスクとは、ランダムに与えられる2通りの刺激に対し、2通りの応答方法の内の正解となる応答を選んで、可能な限り早く応答動作を実施するというタスクである。ここでは、図4−1のBのように立位の姿勢で2本のレバーを左右の前肢で押した状態を初期姿勢とし、ある待ち時間(0.3秒〜0.9秒のランダムな時間)の後にラットの左右前肢のどちらか一方にランダムに圧縮空気を吹きかけ、これに対して正解側となる前肢をレバーから離すことで砂糖水を報酬として得られるような選択反応時間タスクを行わせた。
2.実験
図4−2に実験スケジュールを示した。36匹のラットを訓練装置に慣れさせた後、まず、空圧刺激側と正応答側が左右同じ側となる条件でエラー率が15%未満となるまで訓練した。次に、正応答側を切り換えて、エラー率が15%未満となるまで訓練した。その後、ラットを学習能力に応じてバランスの取れた3群(1群あたり12匹)に分けて、一般飼育飼料(Normal群、日本クレア製長期飼育用餌CE−7)、低濃度ジペプチド含有特殊飼料(Low dose群、cGP含有量:28mg/kg、日本クレア製特殊飼料CE−7+cGP)、高濃度ジペプチド含有特殊飼料(High dose群、cGP含有量:84mg/kg、日本クレア製特殊飼料CE−7+cGP)で飼育した。群分けしてから1週間後、片側大脳皮質前肢感覚運動野に直径3mm程度の大きさの脳損傷部位を作成した。脳損傷部位作成の手術から回復し、タスクのエラー率が再び15%未満になった後、正応答側を切り換えて訓練してエラー率が15%未満になるまでの日数を調べた。この日数に対して、Time-to-event分析(死亡率などを問題にして解析する場合の生存分析と呼ばれるものと同じ分析法)を行った。
3.結果
図5に訓練日数と学習の成立していないラットの割合(各群内のラットにおいてエラー率が15%未満に達していないラットの割合)を示した。尚、実験実施期間が定まっている中、実験動物の導入時期の違いによって打ち切りとなったラットは、Low dose群1匹、High dose群1匹、Normal群0匹であった。図5では、学習の成立していないラットの割合が0に早く近づくことが、学習過程が速いことを意味するが、Low dose群では、Normal群と比較して逆転学習の訓練日数が有意に少ないことが分かった(χ2(1) = 6.717, p = 0.0192 < 0.05)。また、そのCohen's ωで評価される効果量も大きかった(Cohen's ω = 0.5290)。一方、High dose群はNormal群との有意差は検出できなかった(χ2(1) = 3.123, p = 0.1544)がその原因は検出力が0.42と低かったからであり、効果量的にはCohen's ωは中程度であった(Cohen's ω = 0.3607)。
したがって、cGPの混餌投与によって脳損傷ラットの逆転学習に要する日数が短縮されたものと考えられ、cGPの経口投与で学習過程を促進する効果のあることがわかった。今回作成した脳損傷ラットでは、脳損傷によって学習能力が低下しているために選択反応時間タスクの学習過程が遅れ、学習の成立に正常ラットよりも長い訓練期間を必要とすることが分かっている(Sano et al., Adv Biomed Eng, Vol. 2, pp. 72-79, 2013)。本実験結果は、脳損傷によって引き起こされてしまった学習能力の低下をcGP投与によって早期に改善することができた例である。このことから、脳損傷などが原因で引き起こされた学習能力の低下、これを伴うような認知機能の低下を改善する剤としてcGPは有効であると考えられる。
実施例4
<アーバンス神経心理テスト>
1.試験食
試験食には顆粒品と錠剤を用いた。
顆粒品:コラーゲン・トリペプチド(ゼライス株式会社)を用いた。コラーゲン・トリペプチドのcGP含有量は20mg/4gであった。
錠剤:HACP−01(ゼライス株式会社)を含む水溶液を80℃以上で24時間加熱後、YMC-triant Prep C8-S(株式会社YMC)を5kg詰めた可動栓カラムDAU-150-700(株式会社YMC)に供し、親水性画分を分取した。これを噴霧乾燥し、cGPを10%含有する粉体を作製した。さらにこれを打錠し、cGPを150mg/6粒を含む錠剤を得た。
2.被験者
若い時に比べ物忘れが進んだと感じている40歳以上の男女で、アーバンス神経心理テストの点数が25点以上52点以下の者21名をばらつきのないように2群に分けた。一方をcGP150mg摂取群、もう一方を20mg摂取群とした。cGP150mg摂取群の被験者は10名(男性5名、女性5名)、平均年齢は50.0±10.3歳であった。20mg摂取群の被験者は11名(男性5名、女性6名、平均年齢は51.1±6.8歳であった。なお、以下の1)〜11)に該当する者は、被験者に含まれていない。
1)食物アレルギーを示す恐れのある者。2)脳卒中くも膜下出血脳梗塞脳出血脳挫傷頭部外傷による治療入院手術をした事がある者。3)過度のタバコ、アルコール常用者並びに食生活が極度に不規則な者。4)肝炎の既往、現病を有する者。5)高度の貧血のある者。6)以下の既往歴もしくは以下の疾患にて通院している者 ※てんかん発作、糖尿病、甲状腺機能異常、高度腎機能障害(血液透析、尿毒症、無尿症)。7)病院内で神経心理テストを受けたことがある者。8)他の臨床試験に参加している者。9)試験結果に影響する可能性のあると思われる薬(抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗そう薬、抗てんかん薬、抗血液凝固薬など)を服用している者。10)試験結果に影響する可能性のあると思われる健康食品(抗酸化作用、血流改善効果を有するサプリメント等)を日常的に使用している者。11)試験統括医師が本試験参加に適切でないと判断した者(試験実施の過程で不適格と判断する事実を認識した場合には、解析対象者から除外する。なお、スクリーニング基準でない項目に関しては、スクリーニングからの除外基準とならない)。12)本試験開始3か月前までにアーバンス神経心理テストを実施した者。
3.方法
cGP20mg摂取群では、11名の被験者が顆粒品1日4グラムを8週間摂取した。cGP150mg摂取群では、10名の被験者が錠剤1日6錠を8週間摂取した。8週間のcGP摂取期間後に、アーバンス神経心理テストを実施し、各々の群でcGP摂取期間前後の結果を比較した。統計解析には対応のあるt検定を用い、p<0.05を有意差の基準とした。効果量としてrも算出した。
4.結果
結果を図6に示す。総合点は、cGP20mg摂取群(p<0.0077、r=0.63)、cGP150mg摂取群(p=0.0018、r=0.72)とも有意に上昇し、cGP摂取により認知機能が向上したことが示唆された。
各試験内訳では、cGP20mg摂取群とcGP150mg摂取群の両群で注意(集中力)において有意な改善が見られた(cGP20mg摂取群:p=0.0049、r=0.66。cGP150mg摂取群:p=0.0001、r=0.83)。このことから、cGPの摂取が、視覚的に、及び口頭で提示された情報を短期記憶として保持する能力を改善することが示唆された。
また、cGP150mg摂取群では、前述した注意(集中力)に加え、言語において有意な改善が見られた(p=0.0395、r=0.49)。このことから、cGPの摂取が「命名」あるいは「学習された素材の検索」をし、言語的に応答する能力を改善することが示唆された。
一方、20mg摂取群の視空間・構成は、有意差が無かったが、中程度の効果が見られた(p=0.1666、r=0.33)。なお、検出力は0.33と低かった。このことから、視空間・構成で有意差が出なかったのは検出力が低かったからであり、中程度の効果があったことが示唆された。このことから、cGPの摂取が、図形の空間的関係を認識して正確に再構成する能力を改善する可能性のあることが示唆された。
実施例5
<PC12細胞培養試験>
PC12細胞はラット副腎褐色細胞腫由来の株化細胞である。NGF(nerve growth factor)によりニューロン様の性質をもつようになるため、神経分化モデルとして広く使われている。そこで、cGPがPC12細胞における神経突起伸長に及ぼす影響について検討した。
1.方法
PC12細胞はDSファーマバイオメディカルより購入した。培養培地はRPMI1640(GEヘルスケア)に10%のHorse serum(GEヘルスケア)、5%のFetal Bovine Serum(GEヘルスケア)、1%のpenisillin(100U/mL)−streptmycin(100U/mL)(GEヘルスケア)を添加したものを用い、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養を行った。
あらかじめポリエチレンイミンでコートした24−wellの細胞培養プレートに、PC12細胞を1×105個/wellで500μLずつ播種した。翌日、cGP(Bachem社)を終濃度0μM、10μM、50μM、100μM、又は200μMとなるように添加し、さらにNGF(Alimone Labs)を終濃度50ng/mLとなるように、全ウェルに添加し、さらに6日間培養した(3日目に同じ組成の新しい培地に交換した)。6日培養後、各ウェルとも約300個の細胞をデジタルカメラにて撮影し、そのうち細胞径の2倍以上の突起を保有する細胞の個数を計測した。cGPの濃度ごとに、細胞径の2倍以上の突起を保有する細胞の比率の平均値を求めた。統計解析はTukey−Kramer法による多重比較検定を行い、p<0.05を有意差の基準とした。
3.結果
cGP未添加で培養したPC12細胞及びcGPを100μM添加して培養したPC12細胞の画像を図7に示す。NGFを添加していることから、いずれにおいても突起を有する細胞が見られたものの、cGPを100μM添加して培養した細胞において、神経突起がより長く伸長していた。そこで、各cGP濃度で分化した細胞(細胞径の2倍以上の突起を保有する細胞)の割合を比較した結果、分化した細胞の割合はcGP濃度依存的に増加していた(図8)。このことから、cGPが神経細胞の分化を促進することが示唆された。

Claims (14)

  1. Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善剤であって、前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、下記1)〜3)の何れかであり、前記対象が健常なヒトである、認知機能の低下抑制及び/又は改善剤。
    1)注意・集中力の低下抑制及び/又は改善
    2)言語能力の低下抑制及び/又は改善
    3)視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善。
  2. 前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、下記1)〜3)の何れかである、請求項1に記載の剤。
    1)神経心理テストにより測定される注意・集中力の低下抑制及び/又は改善
    2)神経心理テストにより測定される言語能力の低下抑制及び/又は改善
    3)神経心理テストにより測定される視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善。
  3. 前記1)〜3)に記載の神経心理テストがアーバンス神経心理テストである、請求項2に記載の剤。
  4. 前記の剤はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物を含有し、前記Cyclo(Gly-Pro)はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物の一部である、請求項1〜3の何れか一項に記載の剤。
  5. タンパク質加水分解物又はその加熱処理物中のCyclo(Gly-Pro)含有率が0.5質量%以上である、請求項1〜4の何れか一項に記載の剤。
  6. 経口投与又は経口摂取される、請求項1〜5の何れか一項に記載の剤。
  7. Cyclo(Gly-Pro)が1日につき体重1kgあたり10〜1000mg投与又は摂取される、請求項1〜6の何れか一項に記載の剤。
  8. Cyclo(Gly-Pro)を含有する、対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品であって、前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、下記1)〜3)の何れかであり、前記対象が健常なヒトである、認知機能の低下抑制及び/又は改善用食品。
    1)注意・集中力の低下抑制及び/又は改善
    2)言語能力の低下抑制及び/又は改善
    3)視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善。
  9. 前記対象の認知機能の低下抑制及び/又は改善が、下記1)〜3)の何れかである、請求項8に記載の食品。
    1)神経心理テストにより測定される注意・集中力の低下抑制及び/又は改善
    2)神経心理テストにより測定される言語能力の低下抑制及び/又は改善
    3)神経心理テストにより測定される視空間・構成能力の低下抑制及び/又は改善。
  10. 前記1)〜3)に記載の神経心理テストがアーバンス神経心理テストである、請求項9に記載の食品。
  11. 前記の食品はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物を含有し、前記Cyclo(Gly-Pro)はタンパク質加水分解物又はその加熱処理物の一部である、請求項8〜10の何れか一項に記載の食品。
  12. タンパク質加水分解物又はその加熱処理物中のCyclo(Gly-Pro)含有率が0.5質量%以上である、請求項8〜11の何れか一項に記載の食品。
  13. Cyclo(Gly-Pro)が1日につき体重1kgあたり10〜1000mg摂取される、請求項8〜12の何れか一項に記載の食品。
  14. Cyclo(Gly-Pro)を含有する神経突起の伸長促進剤。
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