以下、本発明に係る超高圧水素ガス製造システムについて、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る超高圧水素ガス製造システム、及び超高圧水素ガス製造方法は、本実施形態では、車両として、主に乗用車、バスやトラック等を含む燃料電池自動車を対象に、その車両の水素ガスタンク(以下、単に「タンク」と称する)に、水素ガスを提供する水素ステーションで用いられる。
なお、水素ステーションで生成された水素ガスをタンクに充填する提供先として、燃料電池を具備した水素ガス提供対象は、自動車以外にも、スクータやバイク等の二輪車、フォークリフト等の輸送用車両、重機、農業用機械等の特殊車両、鉄道車両といった各種車両であっても良い。さらに、水素ガス提供対象は、船舶、航空機等に挙げられる動力源のほか、ポータブル燃料電池等のような、燃料電池を具備した種々の可搬式装置であっても良い。
はじめに、水素ステーションの概要について、説明する。図1は、実施形態に係る超高圧水素ガス製造システムの要部を示す説明図である。図1に示すように、超高圧水素ガス製造システム1は、水素ステーションに配設されている。水素ステーションでは一般的に、水素ガスGHは、設定された圧力82MPa、温度-40℃の管理条件下で、一旦、蓄圧器10に貯蔵された後、ディスペンサ5により、必要時に蓄圧器10内から車両のタンク50に供給される。水素ガスGHは、タンク50に、充填圧力70MPaの状態で充填される。
次に、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システムについて、図1を用いて説明する。超高圧水素ガス製造システム1は、水素ステーションにおいて、貯留されている液体水素LHを気化させ、生成された水素ガスGH(施設内製造水素ガス)を、前述した管理条件下で蓄圧器10に貯蔵するためのシステムである。本実施形態では、図1に示すように、超高圧水素ガス製造システム1は、送出用水素ガス供給部2(送出用水素ガス供給手段)と、制御部3(制御手段)と、貯槽4と、ディスペンサ5と、複数(本実施形態では、n個(1<n))の蓄圧器10と、圧力計32(圧力計測手段)と、第2放散弁35(圧力調整手段)と、水素カードル40等を備えて構成されている。
<蓄圧器10について>
図2は、図1に示す超高圧水素ガス製造システムに用いる蓄圧器の概略を、断面視で示す説明図であり、タイプ1に係る蓄圧器の構造を示す図である。図2に例示するように、蓄圧器10は、筒状の本体11に、液密かつ気密な内部空間12Sを有し、内部空間12Sをなす本体11全体の壁13は、鋼製等の金属を含む材質からなり、流入した液体水素LH、水素ガスGHと熱交換する部分である。
蓄圧器10は、本体11の壁13に用いる材質の違いにより、全3種(タイプ1、タイプ2、タイプ3)のバリエーションを有している。図3は、図2と同様の説明図で、タイプ2に係る蓄圧器の構造を示す図であり、タイプ3に係る蓄圧器の構造を、図4に示す。なお、図2~図4中、流入部15と流出部16を結ぶ方向(左右方向)を、本体11の軸方向AXとし、軸方向AXと直交する方向(上下方向)を、本体11の径方向RDとする。
図2~図4に例示するように、壁13は、内部空間12Sを径方向RDに沿って包囲する第1壁部13Aと、軸方向AX両側に対し、内部空間12Sを塞ぐ第2壁部13Bとからなる。タイプ1に係る蓄圧器10では、図2に例示するように、本体11の壁13全体が全て金属からなり、第1壁部13Aと第2壁部13Bは、双方とも金属層14Aとなっている。
タイプ2に係る蓄圧器10では、図3に例示するように、第2壁部13Bは、金属層14Aによる単層構造であるものの、第1壁部13Aは、内筒と外筒を含む積層構造になっている。第1壁部13Aは、内部空間12Sに入った液体水素LHや水素ガスGHと直接触れる径方向RD内周側に位置する内筒を、金属をなす金属層14Aで、その外周側を覆う外筒を、非金属層14Bで、それぞれ形成してなる。非金属層14Bは、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)(炭素繊維強化プラスチック)からなる。なお、非金属層14Bは、CFRPに代えて、CFRPに有する機械的強度、比重等の物性に対し、同等またはそれより優れた材質で形成されていても良い。
タイプ3に係る蓄圧器10では、図4に例示するように、第1壁部13Aは、径方向RD内周側の内筒を金属層14Aで、その外周側の外筒を非金属層14Bで覆う積層構造で形成されている。また、第2壁部13Bは、内部空間12Sに入った液体水素LHや水素ガスGHと直接触れる軸方向AX近接側(図4中、流入部15を有する側では右側、流出部16を有する側では左側)に金属層14Aを、軸方向AX離間側(図4中、流入部15を有する側では左側、流出部16を有する側では右側)を、非金属層14Bで覆う積層構造で形成されている。
タイプ1~3に係る蓄圧器10では、前述したように、内部空間12Sに流入した液体水素LH、水素ガスGHは、壁13の金属層14Aと直接触れることにより、金属層14Aをなす金属と熱交換するため、液体水素LHや水素ガスGHと直接触れる部分は、金属層14Aとなっている。しかしながら、タイプ1に係る蓄圧器10のように、壁13全体が金属層14A単体になっていると、蓄圧器10の自重が比較的重くなる傾向にある。この問題を解決するため、タイプ2、3に係る蓄圧器10では、壁13に非金属層14Bを設けることにより、タイプ1に係る蓄圧器10に比べ、自重の軽量化が図られている。
但し、図3及び図4に例示するように、タイプ2、3に係る蓄圧器10で、第1壁部13A全体に占める非金属層14Bの厚み(図3中、上下方向の距離)の割合と、タイプ3に係る蓄圧器10で、第2壁部13B全体に占める非金属層14Bの厚み(図4中、左右方向の距離)の割合は、50%以下であることが好ましい。より好ましくは、25%以下であると良い。
その理由として、非金属層14Bの熱伝導性は、金属層14Aと比べて小さい。そのため、第1壁部13A、第2壁部13Bに占める非金属層14Bの厚みの割合が50%超になると、非金属層14Bに起因して、第1壁部13A、第2壁部13Bの断熱性が、より顕在化して、内部空間12Sと本体11外部との間で、熱の移動が抑制されてしまう。それ故に、蓄圧器10の内部空間12Sに流入した超低温の液体水素LHに対し、その気化に必要な熱が、本体11外部から第1壁部13A、第2壁部13Bを通じて伝導し難くなり、液体水素LHの気化の効率が、低下してしまうからである。
蓄圧器10単体の本体11の内部空間12Sは、液体水素LHと、圧縮した状態の水素ガスである送出用水素ガスGHx(送出用の水素ガス)との気液混合水素(水素ガスGH)を、一例として、300L収容可能な容積を有し、気液混合水素(水素ガスGH)の収容下で、100MPa超えの超高圧下にも耐え得る程の気密・液密性能と耐強度を具備している。
蓄圧器10は、超高圧水素ガス製造システム1の上流側(図1中、左側)に配設される流入部15と、下流側(図1中、右側)に配設される流出部16とを、本体11に設けてなる。流入部15と流出部16は、いずれも内部空間12Sと連通している。流入部15は、液体水素LHと送出用水素ガスGHxを内部空間12Sに流入可能に形成されている。流出部16は、内部空間12Sから水素ガスGH(または送出用水素ガスGHx)を流出可能に形成されている。
<貯槽4について>
貯槽4は、液体水素LHを貯留するタンクである。超高圧水素ガス製造システム1では、貯槽4は、収容した液体水素LHに対し、液面となる水平方向の距離(例えば、貯槽4内径の距離、貯槽4内の一辺や対角線の距離等)に比べ、液深となる高さ方向の距離を大きくした塔状に形成されている。貯槽4は、その下方部で、蓄圧器10の内部空間12Sと連通した液体水素供給管路21(第1管路)と連結され、貯槽4内の液体水素LHは、特に加圧せず自然流下により、貯槽4から液体水素供給管路21に供給されるようになっている。
なお、液体水素LHの液体水素供給管路21への流下にあたり、液体水素LHに対し、貯槽4内の残量が少なくなり、液深が徐々に小さくなると、貯槽4内に残る液体水素LH自重により、液体水素供給管路21に流れようとする液体水素LHに作用する加圧力は、次第に低減する。そのため、液体水素LHは、液体水素供給管路21へと流れ難くなる。
この場合には、液体水素LHは、例えば、大気圧に近い低圧の加圧下で、貯槽4から液体水素供給管路21に向けて供給されても良い。その一例として、送出用水素ガスGHx(水素ガスGH)を貯槽4内に供給し、貯槽4内に残存する液体水素LHの液面上を、大気圧より大きい圧力下にある送出用水素ガスGHx(水素ガスGH)で押圧する。
具体的には、本実施形態では、図1に示すように、貯槽接続管路27が、後述する水素ガス送出管路22と貯槽4内との間を連通して配設されている。貯槽接続管路27には、第6自動遮断弁31Fと圧力調整弁37が配管されている。水素ガス送出管路22を流通する送出用水素ガスGHx(水素ガスGH)は、第6自動遮断弁31Fの開弁により、水素ガス送出管路22と第4分岐部S4で並列に接続された貯槽接続管路27を流れる。水素ガス送出管路22では、送出用水素ガスGHx(水素ガスGH)は、設定圧力82MPaの下で流通するため、圧力調整弁37により、例えば、1MPaを大幅に下回る圧力等、かなり低い圧力に調整されて、貯槽4内にある液体水素LHの液面上に向けて供給される。
また、補助的に小型ポンプを用いて、貯槽4内に残存する液体水素LHを液体水素供給管路21に圧送しても良い。あるいは、後述する第1放散弁34、第2放散弁35から放出される水素ガスGHを貯槽4内に還流させ、その水素ガスGHの圧力を利用して、液体水素LHを液体水素供給管路21に供給しても良い。
<貯槽4からディスペンサ5に至る管路について>
液体水素供給管路21には、第1自動遮断弁31A、圧力計32、及び第1放散弁34が、設けられている。第1自動遮断弁31Aは、液体水素LHに対し、液体水素供給管路21での流通を、許容または遮断する。
制御部3は、第1自動遮断弁31Aや第1放散弁34のほか、後述する第2自動遮断弁31B、第3自動遮断弁31C、第4自動遮断弁31D、第5自動遮断弁31E、第6自動遮断弁31F、第2放散弁35、及び第3放散弁36等、各種機器と電気的に接続され、各弁の開閉動作等を制御する。液体水素供給管路21内において、滞留していた液体水素LHが自然に気化したことにより、ガス化した水素を、液体水素供給管路21外に放出するために、第1放散弁34が設けられている。
この液体水素供給管路21と流出側接続管路25(第3管路)との間には、複数の蓄圧器10が並列に接続されている。水素ガス供給管路23は、蓄圧器10の内部空間12Sから流出部16を通じて送出される水素ガスGHを、連結するディスペンサ5に供給する流路である。
具体的には、複数の蓄圧器10に対し、いずれの蓄圧器10とも、上流側に位置する流入部15は、第2自動遮断弁31Bを介して、流入側接続管路24と接続されている。流入側接続管路24の一端側(図1中、下側)は、第1分岐部S1で接続する液体水素供給管路21と連通し、貯槽4とも連通している。第2自動遮断弁31Bは、液体水素LH、送出用水素ガスGHxに対し、蓄圧器10の流入部15への流通を、許容または遮断する。
また、各蓄圧器10とも、下流側に位置する流出部16は、第2放散弁35、圧力計32、及び第3自動遮断弁31Cを介して、流出側接続管路25と接続されている。流出側接続管路25の一端側は、第2分岐部S2で接続する水素ガス供給管路23と連通している。圧力計32は、ガス充填済み蓄圧器10Xでは、その流出部16から送出される送出用水素ガスGHxの圧力を計測する。また、圧力計32は、複数の蓄圧器10のうち、後述するガス充填済み蓄圧器10X(本実施形態では、第n蓄圧器10n)を除く、第1蓄圧器10a~第(n-1)蓄圧器10n-1では、その流出部16から送出される水素ガスGHの圧力を計測する。
圧力計32による計測で、流出部16から送出される水素ガスGHが、設定圧力82MPaを上回っている場合には、第2放散弁35は、一時的に水素ガスGHを外部に拡散して、水素ガスGHの圧力を設定圧力82MPaに調整する。第3自動遮断弁31Cは、水素ガスGHまたは送出用水素ガスGHxに対し、蓄圧器10の流出部16からの流通を、許容または遮断する。
ここで、設定圧力の概念について、説明する。本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1や、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法では、設定圧力とは、蓄圧器10において、その設計上、許容可能な設計耐久圧力の上限を超えない圧力以下の範囲にあることを前提とした上で、当該超高圧水素ガス製造システム1の運転条件や、当該超高圧水素ガス製造方法の実行時に応じて、圧力の大きさを任意に選択し、設定することできる意味を含めて、定義されたものである。
他方、貯槽4から液体水素供給管路21内に供給された液体水素LHは、送出用水素ガスGHxの流通に基づいて、蓄圧器10の内部空間12Sに収容され、液体水素LHと送出用水素ガスGHxとが、設定圧力下で、蓄圧器10の内部空間12Sに充填される。この液体水素LHは、送出用水素ガスGHxとの熱交換により、気化し、高圧化した状態の水素ガスとなる。
このとき、設定圧力が、設計耐久圧力を大幅に下回る低い圧力であると、蓄圧器10の内部空間12Sで液体水素LHが気化するにあたり、気化に伴って上昇した蓄圧器10の内部空間12Sの圧力が、設定圧力に達した段階になっても、液体水素LHの気化が完全に完了していない状態になってしまうこともあり得る。このような事象を招くと、液体水素LHの気化の効率は、低下してしまう。
そこで、液体水素LHの気化を、より効率良く遂行する観点で、設定圧力は、蓄圧器10で適用される常用圧力範囲の最大値に対し、25%以上とすることが好ましく、より好ましくは、50%以上にすると良い。なお、常用圧力は、蓄圧器10において、特に急峻な圧力変動や温度変化のない条件下で、水素ガスGH(送出用水素ガスGHxを含む)や液体水素LHを内部空間12Sに収容し、貯蔵している通常の使用状態にあるとき、この通常の使用状態で蓄圧器10の本体11に作用する圧力に、許容範囲を設けた圧力範囲を意味するものである。
蓄圧器を構成する上で重要となるファクターは、実際の現場で使用する常用圧力の概念であり、その重要性について、一例の事象をあげて説明する。一例の事象として、液体水素供給管路21から蓄圧器10に供給された液体水素LHが、送出用水素ガスGHxと内部空間12Sで熱交換を十分な状態で行われず、供給された量のうち、一部で気化できなかった液体水素LHは、蓄圧器の内部空間に残留し続けてしまうことも生じ得る。水素は、融点-259.2℃、沸点-252.8℃等の物性を有する。
このような残留の液体水素LHが、-259.2℃近傍の超低温状態のまま、蓄圧器10の本体11に局所的に接触し続けると、本体11を構成する部材(壁13、流入部15、流出部16等)が、残留する液体水素LHの超低温に起因した材料の疲労破壊等、破損・損傷を受ける虞がある。
しかも、液体水素LHが残留し続けた状態にある蓄圧器10の内部空間12Sに、当該超高圧水素ガス製造システム1等の稼働により、液体水素LHより高温状態にある後続の送出用水素ガスGHxが収容されて、残留していた液体水素LHに気化が生じた場合、蓄圧器10の本体11では、温度と圧力が急激に上昇する。特に、このような急峻な圧力上昇により、万が一、蓄圧器10の本体11が、常用圧力を超えてしまうと、本体11を構成する部材等、本体11への機械的負荷(ダメージ)が、急激に増大して作用することから、本体の損傷や破損等、大きなダメージを蓄圧器10に及ぼしてしまう虞がある。
従って、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1の稼働や、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法の実行では、前述したように、液体水素LHを効率良く気化させるため、設定圧力は、蓄圧器10の常用圧力範囲の最大値に対し、25%以上、より好ましくは、50%以上に相当した圧力の条件を満たすようにしながらも、例示したような事象等の招来をより確実に回避するためには、蓄圧器10の常用圧力を超えないよう、管理して当該超高圧水素ガス製造システム1等を運用することが、非常に重要である。
本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1の説明に戻る。本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1では、水素ガス供給管路23の第2分岐部S2より下流側(図1中、右側)に、一括式水素ガス圧力調整ユニットとして、放散用接続管路26上に、圧力計32と第3放散弁36が配管されている。放散用接続管路26は、水素ガス供給管路23と第6分岐部S6で並列接続されて連通している。万が一、水素ガス供給管路23を流れる水素ガスGHが、圧力計32による計測で設定圧力82MPaを上回った場合、第3放散弁36は、一時的に水素ガスGHを外部に拡散して、水素ガス供給管路23内の水素ガスGHを、設定圧力82MPaに調整する。
なお、前述したように、第2放散弁35と圧力計32とによる個別式水素ガス圧力調整ユニットが、各蓄圧器10の下流側に、それぞれ配管されていれば、このような一括式水素ガス圧力調整ユニットは、超高圧水素ガス製造システム1に構成されていなくても良い。
第4自動遮断弁31Dは、蓄圧器10の流出部16から送出される水素ガスGHに対し、ディスペンサ5への流通を、許容または遮断する。
超高圧水素ガス製造システム1では、前述したように、液体水素供給管路21内で気化した水素ガスGHは、第1放散弁34により、液体水素供給管路21外に放出する。また、蓄圧器10の流出部16から送出される水素ガスGHが、設定圧力82MPaを上回った場合、第2放散弁35により、水素ガスGHをその管路外に放出する。このとき、放出する水素ガスGHは、BOG(Boil Off Gas)蓄圧器に向けて送出しても良い。BOG蓄圧器は、低温で、輸送・貯蔵している液体水素から自然発生したボイルオフガス(水素ガス)を、蓄圧器10とは別で、蓄圧器に貯蔵するものであり、気化した水素を、できるだけ無駄にせずに貯留しておくために設けられる。
<送出用水素ガス供給部2について>
送出用水素ガス供給部2は、液体水素供給管路21と連通した水素ガス送出管路22(第2管路)と共に配設され、既に容器内に貯蔵されている送出用水素ガスGHxを、液体水素供給管路21に設定圧力82MPa下で供給可能とした配管系統である。送出用水素ガスGHxは、ディスペンサ5から車両のタンク50に供給される水素ガスGHと、実質的に同じである。
送出用水素ガス供給部2は、本実施形態では、超高圧水素ガス製造システム1内で、第1系統である第1送出用水素ガス供給部2Aと、第2系統である第2送出用水素ガス供給部2Bとの2系統からなる。水素ガス送出管路22は、液体水素供給管路21と、第3分岐部S3で接続して連通した管路である。この水素ガス送出管路22は、送出用水素ガスGHxの流れを制御する第5自動遮断弁31Eを介して、管路上の第4分岐部S4で、並列に接続する第1水素ガス送出管路22Aと第2水素ガス送出管路22Bとに分岐している。第5自動遮断弁31Eは、送出用水素ガスGHxに対し、液体水素供給管路21への流通を、許容または遮断する。
容器内に送出用水素ガスGHxを貯蔵した水素ガス充填済み容器は、第1送出用水素ガス供給部2Aと第2送出用水素ガス供給部2Bに、それぞれ設けられている。第1送出用水素ガス供給部2Aでは、送出用水素ガスGHxは、第1の容器として、複数の蓄圧器10のうち、既に内部空間12Sで生成した水素ガスGHが充填された状態にあるガス充填済みの蓄圧器10Xに貯蔵されている。第2送出用水素ガス供給部2Bでは、送出用水素ガスGHxは、第2の容器として、搬送に用いる水素カードル40に、水素ガスGHが充填された状態にあるガス充填済みの水素カードル40に貯蔵されている。
具体的に説明する。第1送出用水素ガス供給部2Aでは、水素ガス充填済み容器は、複数の蓄圧器10(第1蓄圧器10a,第2蓄圧器10b,第3蓄圧器10c,…,第(n-1)蓄圧器10n-1,第n蓄圧器10n)のうち、例えば、第n蓄圧器10nに、送出用水素ガスGHx(水素ガスGH)を、設定圧力82MPaの下で貯蔵したガス充填済み蓄圧器10Xである。このような例示下の場合、第1水素ガス送出管路22Aは、ガス充填済み蓄圧器10Xの流出部16(図2参照)側の管路上にある第3分岐部S3で、水素ガス供給管路23と連通した状態で接続されている。
第2送出用水素ガス供給部2Bは、第2水素ガス送出管路22B上に、水素カードル40と、小型圧縮機41等を、直列に接続した配管系統である。水素カードル40に貯蔵した水素ガスGHを搬送する場合、通常、水素ガスGHは、所定の圧力(本実施形態の場合、例えば、圧力20MPa)下に圧縮した状態で、水素カードル40に収容される。第2送出用水素ガス供給部2Bでは、水素ガス充填済み容器は、既に水素ガスGHを貯蔵した状態にある水素カードル40である。小型圧縮機41は、設定圧力82MPaの送出用水素ガスGHxを得るにあたり、水素カードル40から供給される水素ガスGHを、設定圧力82MPaまで昇圧する。
なお、本実施形態では、送出用水素ガスGHxは、設定圧力82MPaと同じ圧力としているが、貯槽4から供給され、液体水素供給管路21内で滞留下にある液体水素LHを、蓄圧器10の内部空間12Sまで送出可能な圧力となっていれば、設定圧力82MPaに限らず適宜変更可能である。
次に、超高圧水素ガス製造システム1の機能について、説明する。超高圧水素ガス製造システム1では、制御部3は、送出用水素ガス供給部2から液体水素供給管路21に送出用水素ガスGHxを送出することにより、貯槽4から液体水素供給管路21に供給された液体水素LHを、送出用水素ガスGHxの流通に基づいて、蓄圧器10の内部空間12Sに収容する。
具体的には、超高圧水素ガス製造システム1では、運転開始と共に、第1自動遮断弁31Aが開路され、液体水素LHが、液体水素供給管路21に送出される。液体水素LHが、貯槽4から蓄圧器10に向けて液体水素供給管路21に送出されるタイミングに合わせて、送出用水素ガスGHxが、送出用水素ガス供給部2より、水素ガス送出管路22を通じて、液体水素供給管路21に供給される。これにより、液体水素供給管路21内では、液体水素LHは、送出用水素ガスGHxと混ざり合う。そのため、液体水素LHは、超高圧に圧縮されている送出用水素ガスGHx自体の流動により、送出用水素ガスGHxと共に圧送されて、蓄圧器10の流入部15から内部空間12Sに収容される。
なお、前述したように、液体水素供給管路21に第1放散弁34を設け、液体水素供給管路21内で気化した水素ガスGHを、液体水素供給管路21外に放出するようにしたが、それに加えて、水素ガス送出管路22内を流通する送出用水素ガスGHxを、水素ガス送出管路22外に放出可能な脱ガス経路を、水素ガス送出管路22と分岐して設けても良い。
その理由として、万が一、何らかの理由により、蓄圧器10に流入した液体水素LHの気化が、蓄圧器10の内部空間12Sで十分に行われず、液体水素LHの状態のまま、水素ガス送出管路22に流れ込んで滞留してしまう場合も考えられる。このような場合、超高圧水素ガス製造システム1の運転中、液体水素LHが、水素ガス送出管路22内で局所的に滞留し続けると、滞留したこの液体水素LHは、液体水素LHより高温状態にある後続の送出用水素ガスGHxと接触することに起因して気化する。この液体水素LHの気化に伴い、水素ガス送出管路22では、内部圧力が急激に上昇してしまうため、この水素ガス送出管路22への機械的負荷(ダメージ)が増大して、水素ガス送出管路22に対し、損傷や破損等、悪影響を及ぼす虞がある。それ故に、脱ガス経路を水素ガス送出管路22に分岐して設けることで、このような悪影響を回避することができるからである。
加えて、このような脱ガス経路は、水素ガス送出管路22から放出した水素ガスGHや、気化せずに残留する液体水素LHを供給可能な態様で、貯槽4またはBOG蓄圧器のほか、燃料として使用することができる設備等と、接続されていると良い。液体水素LHの気化後を含む水素ガスGHは、水素ガス送出管路22から放出されても、有効利用できるからである。勿論、第1放散弁34により、液体水素供給管路21外に放出させた水素ガスGHについても、BOG蓄圧器以外に、貯槽4や、燃料として使用することができる設備等と接続されていても良い。
ところで、運転開始時に、送出用水素ガスGHxが、ガス充填済み蓄圧器10X内に全く貯蔵されていない状態、または十分な充填量で貯蔵されていない状態となっていることがある。また、超高圧水素ガス製造システム1の運転中、ガス充填済み蓄圧器10X内の送出用水素ガスGHxが、全く残存していない状態、または液体水素供給管路21に供給するのに足りる十分な量で残存していない状態となっていることもある。
このような場合、ガス充填済み蓄圧器10Xを使用できていない間、制御部3は、水素ガス充填済み容器に水素カードル40を選択して、水素カードル40に収容されている水素ガスGHを、送出用水素ガスGHxとして用いる。このとき、ガス充填済み蓄圧器10Xで、送出用水素ガスGHxが貯蔵されている間、その上流側の第2自動遮断弁31Bは、通常、閉弁している。
これにより、第n蓄圧器10n以外の第1蓄圧器10a等と同様に、貯槽4から供給された液体水素LHが、液体水素供給管路21内で、水素カードル40に送出される送出用水素ガスGHxと混合した状態で、流入側接続管路24を通じて、第n蓄圧器10nのASに収容される。
なお、後にガス充填済み蓄圧器10Xとなる第n蓄圧器10nに対し、その下流側の第3自動遮断弁31Cは、通常、閉弁しているが、ガス充填済み蓄圧器10X内に収容された送出用水素ガスGHx(水素ガスGH)の圧力が、設定圧力82MPaを超えて上昇し過ぎた場合には、第2放散弁35は、制御部3によって作動し、開弁する。
そして、第3自動遮断弁31Cと第5自動遮断弁31Eが閉弁状態の下、後述するように、蓄圧器10a等の内部空間12Sで水素ガスGHを生成させる要領と同様に、第n蓄圧器10nの内部空間12Sで、水素ガスGHを生成させた後、第2自動遮断弁31Bも閉弁し、この水素ガスGHを、送出用水素ガスGHxとして、第n蓄圧器10n内に貯蔵する。
その後、送出用水素ガスGHxが、ガス充填済み蓄圧器10X内から十分な供給量で液体水素供給管路21に送出できる状態になった段階で、制御部3は、水素カードル40からガス充填済み蓄圧器10Xに、水素ガス充填済み容器を切換えて、ガス充填済み蓄圧器10Xに収容されている水素ガスGHを、送出用水素ガスGHxとして用いる。
次に、実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法について、その実施に必要な運用設備に、先に例示した超高圧水素ガス製造システム1を挙げて、説明する。実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法は、図1に示すように、水素ガスGHを、供給先である車両のタンク50に充填する施設で、液体水素LHを貯留した貯槽4から供給される液体水素LHを気化させ、生成された水素ガスGHを、管理基準を満たす設定圧力下で、蓄圧器10の本体11の内部空間12Sに貯蔵する方法である。設定圧力は、タンク50内に充填される水素ガスGHの充填圧力70MPaよりも高い82MPaである。
運用設備は、既に容器内に、圧縮した状態で貯蔵されている水素ガス、すなわち送出用水素ガスGHxを、設定圧力82MPaで供給可能な送出用水素ガス供給部2と、水素ガスGHを、タンク50に充填を行うディスペンサ5と、本体11の内部空間12Sと連通した蓄圧器10の下流側(流出部16)とを繋ぐ流出側接続管路25(第3管路)等を有する。送出用水素ガス供給部2は、貯槽4から蓄圧器10に液体水素LHを流通させる液体水素供給管路21(第1管路)と、連通した水素ガス送出管路22(第2管路)上に配設されている。
実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法は、第1過程と、第2過程と、第3過程を有する。第1過程は、送出用水素ガス供給部2から液体水素供給管路21に送出用水素ガスGHxを送出して、貯槽4から供給された液体水素LHの滞留下にある液体水素供給管路21内に、送出用水素ガスGHxを流通させることにより、送出用水素ガスGHxと水素ガスGHとよる気液混合水素を、蓄圧器10の本体11の内部空間12Sに収容する。第2過程は、第1過程により、内部空間12Sに収容された気液混合水素に含まれる液体水素LHに対し、蓄圧器10の本体11及び送出用水素ガスGHxとの間で、熱交換を行う。第3過程は、蓄圧器10の下流側で、内部空間12Sから流出した水素ガスGHが流通する流出側接続管路25(第3管路)に対し、流通する水素ガスGHが設定圧力82MPaを上回ったときに、水素ガスGHを減圧して、ディスペンサ5に向けて供給する水素ガスGHを設定圧力82MPaに調整する。
送出用水素ガスGHxの供給元は、図1に示すように、ガス充填済み蓄圧器10Xとガス充填済み水素カードル40の2系統である。ガス充填済み蓄圧器10Xは、複数の蓄圧器10のうち、既に内部空間12Sで生成した水素ガスGHが貯蔵されている水素ガス充填済み容器である。ガス充填済み水素カードル40は、搬送に用いる水素カードルに、水素ガスGHが貯蔵されている水素ガス充填済み容器である。ガス充填済み蓄圧器10Xから送出用水素ガスGHxの供給が不可の状態にある場合には、送出用水素ガスGHxは、このガス充填済み水素カードル40から供給されて使用される。
具体的に説明する。水素は、融点-259.2℃、沸点-252.8℃、液密度0.071kg/L(条件-252.8℃)、ガス密度0.052kg/m3(条件21.1℃、0.1MPa)等の物性を有する。他方、蓄圧器10の本体11は、熱伝導性を有する鋼製で、内部空間12Sは、本体11の壁13で包囲されてなる。運用設備において、蓄圧器10は、水素の沸点より高い温度環境下で設置される。具体的には、一例として、蓄圧器10を取り巻く周囲の外気温度0℃、本体11での固体内温度0℃等、温度条件の下で、蓄圧器10は、運用設備に設置される。
第1過程の実施にあたり、蓄圧器10では、下流側(流出部16側)の閉路により、内部空間12Sと流出側接続管路25とを遮断しておく。次に、液体水素LHが、貯槽4から液体水素供給管路21に供給されるのに伴い、送出用水素ガス供給部2より、水素ガス送出管路22を通じて、送出用水素ガスGHxを、設定圧力82MPaという超高圧下で圧縮された状態で、液体水素供給管路21に送出する。これにより、液体水素供給管路21内では、液体水素LHが、送出用水素ガスGHxと混合し、超高圧で圧縮されている送出用水素ガスGHx自体の流動により、液体水素LHは圧送され、蓄圧器10の流入部15から内部空間12Sに収容される。
このとき、-253℃近傍(沸点近傍)の液体水素LHが、設定圧力82MPaを満たす送出用水素ガスGHxと混合した状態で、蓄圧器10の内部空間12Sに収容されると、内部空間12Sは、送出用水素ガスGHxの圧力で、数十MPaとなる。すなわち、蓄圧器10では、内部空間12Sの全容積のうち、その一部に、収容された気相の送出用水素ガスGHxが存在し、収容された液相の液体水素LHが、その残部を占めている。
送出用水素ガスGHxは、液体水素LHよりも高温であり、内部空間12Sの雰囲気温度は、水素の沸点より高くなる。しかも、本体11は、内部空間12Sを包囲する壁13を、比較的伝熱性の高い鋼製としている。そのため、第2過程では、蓄圧器10において、液体水素LHは、本体11の壁13及び内部空間12Sに入っている水素ガスGHとの間で熱交換されて気化し、一例として、100MPa超える程まで超高圧化する。
これにより、本体11の内部空間12Sでは、液体水素LHの気化により、新たに水素ガスGHが生成される。生成された水素ガスGHは、液体水素LHからの相変化に伴って、設定圧力82MPaを満たす超高圧な状態になり得る。それ故に、本体11は、設定圧力82MPaを満たして収容された送出用水素ガスGHx、すなわち水素ガスGHと、設定圧力82MPaを満たす状態で生成される水素ガスGHとを、内部空間12Sに充填した状態となる。
次に、このような状態になった段階で、蓄圧器10の上流側(流入部15側)をも閉路して、内部空間12Sと流入側接続管路24とを遮断することで、内部空間12Sに充填された水素ガスGHは、本体11の内部空間12Sに貯蔵される。かくして、蓄圧器10は、本体11に供給された液体水素LHを、内部空間12Sで気化させて、生成された水素ガスGHを、設定圧力82MPa下で、本体11の内部空間12Sに貯蔵することができる。
ところで、蓄圧器10の本体11で、送出用水素ガスGHxに加え、新たに水素ガスGHが生成された段階で、内部空間12Sに充填された水素ガスGHが、設定圧力82MPaを上回った状態で、水素ガス供給管路23に流通してしまうこともある。このような場合には、第3過程を実施することで、水素ガス供給管路23を送出する水素ガスGHを減圧しておく。これにより、水素ガスGHは、設定圧力82MPaに調整された状態で、ディスペンサ5に向けて水素ガス供給管路23を流通し、ディスペンサ5に供給されるようになる。
次に、実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法の第1過程の実施にあたり、蓄圧器10への液体水素LHの供給要領について、説明する。水素ステーションでは、車両が乗用車の場合、水素ガス補給時に、水素ガスGHが、ディスペンサ5よりタンク50に充填されると、水素ガスGHは、例えば、1つに付き、全容量300Lの水素ガスGHを貯蔵した1つ以上の蓄圧器10から、説明の便宜上の仮定値として、例えば、100L程度、タンク50に提供されて消費される。この蓄圧器10では、消費された分の水素ガスGHは、新たに生成されて、補充される。
補充分の水素ガスGHを生成するにあたり、実施例1では、必要量の液体水素LHが、一度に貯槽4から液体水素供給管路21に供給され、この液体水素LHの供給に対応して、送出用水素ガスGHxも、送出用水素ガス供給部2より、液体水素供給管路21に送出される。これにより、液体水素LHと送出用水素ガスGHxとの気液混合水素は、蓄圧器10に供給され、本体11の内部空間12Sに収容される。そして、本体11の内部空間12Sでは、実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法の第2過程が行われ、補充分の水素ガスGHが、1回のオペレーションで、新たに生成される。
また、実施例2では、第1過程において、1つの蓄圧器10に付き、補充分として、内部空間12Sへの供給を必要とする気液混合水素の全容量分(先に例示と同様、説明の便宜上の仮定値として、例えば、100L)に対し、気液混合水素は、1回当たりの内部空間12Sへの供給量を、全容量分よりも少なくして、複数回に亘って、断続的に内部空間12Sに供給される。そして、先に内部空間12Sに供給された分の気液混合水素で、第2過程を終えた後、次に供給する分の気液混合水素が内部空間12Sに収容される。すなわち、蓄圧器10の内部空間12Sにおいて、いわゆるバッチ処理により、補充分の水素ガスGHは、オペレーション毎に新たに生成される。
<シミュレーションによる検証の実施>
本出願人は、実施形態の実施例2に係る超高圧水素ガス製造方法の効果を検証する目的で、その第1過程、及び第2過程について、専用のソフトにより、シミュレーションを行い、蓄圧器10に生成される水素ガスGHの状態について、解析を行った。シミュレーションでは、実在気体で固有の現象であるジュール・トムソン効果はないとの前提である。タンク本体が、蓄圧器10の本体11に相当する。シミュレーション条件は、次述の通りである。
<シミュレーション条件>
・タンク本体の仕様;容量333L(全容量23.64kgの水素ガスを収容可能)、本体内面壁熱伝達係数500W(m2K)、本体外面壁熱伝達係数5W(m2K)、
・タンク本体の初期状態;水素ガス11kgを予め初期圧力50MPa下で充填、本体内の初期温度0℃、本体外の初期温度0℃
・タンク本体に投入する液体水素;温度-253℃、圧力82MPa、投入量5kg
・タンク本体への液体水素の水素供給時間;60sec.(第1条件)、180sec.(第2条件)、300sec.(第3条件)
・タンク本体の熱容量;タンク本体の固体内温度を同一とした上で、時間変化に応じて考慮されたものである。
<シミュレーション結果>
図5は、実施形態の実施例2に係る超高圧水素ガス製造方法の第1過程、及び第2過程に関し、タンク本体内への液体水素の水素供給時間と、タンク本体の温度との関係について、そのシミュレーション結果を示すグラフである。図6は、図5に続き、タンク本体内への液体水素の水素供給時間と、タンク本体内における液体水素の温度との関係について、そのシミュレーション結果を示すグラフである。図7は、タンク本体内への液体水素の水素供給時間と、タンク本体内における液体水素の圧力との関係について、そのシミュレーション結果を示すグラフである。なお、図5及び図7には、タンク本体の熱容量を考慮していない結果を、「THCなし」と特記し、考慮した結果については、無特記である。
シミュレーション結果では、図5に示すように、タンク本体の温度は、第1条件で最も低くなり、第3条件では最も高くなった。液体水素は、図6に示すように、第1条件で、-40℃に達した状態となっているが、第1条件より長い水素供給時間の第2条件、第3条件になると、液体水素の温度は、-40℃まで達していない。しかも、液体水素は、図7に示すように、第1条件で、水素ステーションで運用する設定圧力82MPaに及ばないものの、初期圧力50MPaから急峻に24MPaも上昇し、74MPaに圧縮された状態となっている。他方、初期圧力50MPaから時間当たりの圧力上昇について、第2条件や第3条件では、液体水素は、第1条件に比べて、緩やかである。
シミュレーション結果より、全容量5kgの液体水素をタンク本体に投入にあたり、タンク本体内に液体水素を収容し続ける水素供給時間を、より短くし、1回当たりのタンク本体内への液体水素の供給量を、全容量分よりも少なくした上で、タンク本体内への液体水素の供給を、複数回に分けて、断続的に繰り返す。このように、液体水素が、1回当たりの供給時間(水素供給時間)を、より短くして、タンク本体内に供給されると、運用する設定圧力82MPaに近づき易くなる。その結果、このようなオペレーションを、適宜、複数回に分けて断続的に繰り返すことで、設定温度と設定圧力を満たす液体水素を、タンク本体に、より効率良く満充填することができる。
次に、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1、及び超高圧水素ガス製造方法の作用・効果について説明する。
本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1は、水素ガスGHを供給先のタンク50に充填する水素ステーションで、水素ガスとして、液体水素LHを貯留した貯槽4から供給される液体水素LHを気化させ、生成した水素ガスGS(施設内製造水素ガス)を、設定圧力82MPa下で、蓄圧器10に貯蔵する超高圧水素ガス製造システムにおいて、蓄圧器10は、本体11に内部空間12Sを有し、貯槽4と蓄圧器10の内部空間12Sとを繋ぐ液体水素供給管路21と、既に容器内に、圧縮した状態で貯蔵された水素ガスである送出用水素ガスGHxを、液体水素供給管路21内に設定圧力82MPaで供給可能な送出用水素ガス供給部2と、制御部3と、を備え、送出用水素ガス供給部2は、液体水素供給管路21と連通した水素ガス送出管路22と共に配設され、制御部3は、送出用水素ガス供給部2から液体水素供給管路21に送出用水素ガスGHxを送出することにより、貯槽4から液体水素供給管路21に供給された液体水素LHを、送出用水素ガスGHxの流通に基づいて、蓄圧器10の内部空間12Sに収容すること、を特徴とする。
この特徴により、超高圧水素ガス製造システム1では、水素ガスGHを生成する上で、液体水素LHを気化させるのに、気化器が不要になるほか、生成された水素ガスを昇圧させる特殊な大型圧縮機が不要となる。あるいは、液体水素を気化させる気化器に圧送させるのに、液体水素を設定圧力82MPaまで昇圧する特殊な大型液水ポンプが不要となる。そのため、このような大型圧縮機や大型液水ポンプに対し、高額なイニシャルコストが不要になるばかりか、超高圧水素ガス製造システム1は、運転時の電気代やメンテナンスコスト等、運用上のランニングコストを抑制することができる。
従って、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1によれば、水素ステーション等において、液体水素LHを効率良く気化させ、燃料電池自動車等の動力手段に用いる超高圧の水素ガスGHを、低コストで生成することができる、という優れた効果を奏する。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1では、液体水素供給管路21には、複数の蓄圧器10が並列接続で配設され、送出用水素ガスGHxは、第1の容器として、複数の蓄圧器10のうち、既に内部空間12Sで生成した水素ガスGHが充填された状態にあるガス充填済み蓄圧器10Xに貯蔵されているものであること、を特徴とする。この特徴により、超高圧水素ガス製造システム1の構成が、前述したように、気化器、特殊な大型圧縮機や特殊な大型液水ポンプを必要としていた従来の超高圧水素ガス製造システムに比べて、簡素化できているため、超高圧水素ガス製造システム1の維持・管理を行う上で、作業者の負担が低減できる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1では、送出用水素ガスGHxは、第2の容器として、搬送に用いる水素カードルに、水素ガスGHが充填された状態にあるガス充填済み水素カードル40に貯蔵されているものであること、を特徴とする。
この特徴により、送出用水素ガスGHxが、ガス充填済み蓄圧器10Xから全く供給できない状態にある場合や、十分な送出量で液体水素供給管路21に供給できない状態にある場合に、ガス充填済み水素カードル40は、ガス充填済み蓄圧器10Xのバックアップとして、使用することができる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1では、制御部3は、当該超高圧水素ガス製造システム1の運転状況に応じて、ガス充填済み蓄圧器10Xとガス充填済み水素カードル40とを選択的に使用すること、を特徴とする。この特徴により、当該超高圧水素ガス製造システム1の運転状況に拘わらず、液体水素LHから水素ガスGSを生成する上で、必要となる送出用水素ガスGHxを、安定した供給下で、確保することができる。
すなわち、超高圧水素ガス製造システム1の運転開始時や、超高圧水素ガス製造システム1の運転を持続しながら、液体水素LHから水素ガスGSを生成する上で、必要となる送出用水素ガスGHxが、ガス充填済み蓄圧器10Xに存在しない場合や、十分な貯蔵量で残存できていない場合がある。このような場合、ガス充填済み水素カードル40からの送出用水素ガスGHxを使用することができる。しかも、超高圧水素ガス製造システム1の運転中、必要となる送出用水素ガスGHxが、ガス充填済み蓄圧器10Xより十分に供給できている場合には、ガス充填済み水素カードル40から送出用水素ガスGHxの供給を停止できるため、ガス充填済み水素カードル40内の送出用水素ガスGHxを、無駄なく有効に使用することができる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1では、蓄圧器10の下流側で、内部空間12Sから流出した水素ガスGHが流通する流出側接続管路25には、水素ガスGHの圧力を計測する圧力計32と、圧力計32による計測で、水素ガスGHが設定圧力82MPaを上回った場合に、水素ガスGHを設定圧力82MPaに調整する第2放散弁35と、を備えていること、を特徴とする。この特徴により、水素ガスGHは、設定圧力82MPaに調整された状態で、ディスペンサ5に供給できる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造システム1では、蓄圧器10の内部空間12Sで、液体水素LHとの接触する壁13は、金属からなること、を特徴とする。この特徴により、超高圧水素ガス製造システム1に気化器を備えていなくても、液体水素LHは、本体11の壁13との間や、内部空間12Sに存在する送出用水素ガスGHxとの間で、熱交換される。そのため、蓄圧器10に収容された液体水素LHは、内部空間12Sで気化し、100MPa超える程まで超高圧化する。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法では、水素ガスGHを供給先のタンク50に充填する水素ステーションで、水素ガスとして、液体水素LHを貯留した貯槽4から供給される液体水素LHを気化させ、生成した水素ガスGS(設内製造水素ガス)を、設定圧力82MPa下で、蓄圧器10に貯蔵する超高圧水素ガス製造方法において、既に容器内に、圧縮した状態で貯蔵された水素ガスである送出用水素ガスGHxを、設定圧力82MPaで供給可能な送出用水素ガス供給部2を有し、送出用水素ガス供給部2は、貯槽4から蓄圧器10に液体水素LHを流通させる液体水素供給管路21と連通した水素ガス送出管路22上に配設されていること、蓄圧器10は、本体11に内部空間12Sを有する容器であり、送出用水素ガス供給部2から液体水素供給管路21に送出用水素ガスGHxを送出して、貯槽4から供給された液体水素LHの滞留下にある液体水素供給管路21に、送出用水素ガスGHxを流通させることにより、送出用水素ガスGHxと液体水素LHとによる気液混合水素を、蓄圧器10の内部空間12Sに収容する第1過程と、第1過程により、内部空間12Sに収容された気液混合水素に含まれる液体水素LHに対し、蓄圧器10の本体11及び送出用水素ガスGHxとの間で、熱交換を行う第2過程と、を有すること、を特徴とする。
この特徴により、水素ガスGHを生成する上で、液体水素を気化させるのに、気化器が不要になるほか、生成された水素ガスを昇圧させる特殊な大型圧縮機が不要となる。あるいは、液体水素を気化させる気化器に圧送させるのに、液体水素を設定圧力82MPaまで昇圧する特殊な大型液水ポンプが不要となる。そのため、このような大型圧縮機や大型液水ポンプに対し、高額なイニシャルコストが不要になるばかりか、運転時の電気代やメンテナンスコスト等、運用上のランニングコストを抑制することができるようになる。
従って、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法によれば、水素ステーション等において、液体水素LHを効率良く気化させ、燃料として適した状態の水素ガスGHを、低コストで生成することができる、という優れた効果を奏する。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法では、液体水素供給管路21には、複数の蓄圧器10が並列接続で配設され、送出用水素ガスGHxは、第1の容器として、複数の蓄圧器10のうち、既に内部空間12Sで生成した水素ガスGHが充填された状態にあるガス充填済み蓄圧器10Xに貯蔵されているものであること、を特徴とする。この特徴により、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法の実施にあたり、その運用設備の構成が、気化器、特殊な大型圧縮機や特殊な大型液水ポンプを必要としていた従来の超高圧水素ガス製造システムに比べて、簡素化できているため、運用設備の維持・管理を行う上で、作業者の負担が低減できる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法では、送出用水素ガスGHxは、第2の容器として、搬送に用いる水素カードルに、水素ガスGHが充填された状態にあるガス充填済み水素カードル40に貯蔵されているものであり、送出用水素ガスGHxに対し、ガス充填済み蓄圧器10Xからの供給が不可の状態にある場合に、ガス充填済み水素カードル40から供給される送出用水素ガスGHxが、使用されること、を特徴とする。この特徴により、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法の実施にあたり、その運用設備の運転状況に拘わらず、液体水素LHから水素ガスGSを生成する上で、必要となる送出用水素ガスGHxを、安定した供給下で、確保することができる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法では、第1過程で、1つの蓄圧器10に付き、内部空間12Sへの供給を必要とする気液混合水素の全容量分に対し、気液混合水素は、1回当たりの内部空間12Sへの供給量を、全容量分より少なくして、複数回に亘って、断続的に内部空間12Sに供給され、先に内部空間12Sに供給された分の気液混合水素で、第2過程を終えた後、次に供給する分の気液混合水素が内部空間12Sに収容されること、を特徴とする。
この特徴により、蓄圧器10の内部空間12Sに対し、気液混合水素の供給流量を同じとした条件の下、気液混合水素の全容量分を、一度に内部空間12Sに供給する場合に比べ、設定圧力82MPaを満たす水素ガスGHを、蓄圧器10の内部空間12Sに、より効率良く満充填することができる。
また、本実施形態に係る超高圧水素ガス製造方法では、蓄圧器10の下流側で、内部空間12Sから流出した水素ガスGHが流通する流出側接続管路25に対し、流通する水素ガスGHが設定圧力82MPaを上回ったときに、水素ガスGHを減圧して設定圧力82MPaに調整する第3過程を有すること、を特徴とする。この特徴により、水素ガスGHは、設定圧力82MPaに調整された状態で、ディスペンサ5に供給できるため、ディスペンサ5では、特に水素ガスGHの圧力調整を必要とせず、設定圧力82MPaのまま、水素ガスGHを車両のタンク50に提供することができる。
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
(1)例えば、本実施形態では、複数の蓄圧器10の中で、ガス充填済み蓄圧器10Xを1つとした超高圧水素ガス製造システム1について説明したが、蓄圧器の数量や、複数の蓄圧器に占めるガス充填済みの蓄圧器の数量は、実施形態に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
(2)本発明に係る超高圧水素ガス製造システム、及び超高圧水素ガス製造方法では、その技術的思想は、施設において、送出用の水素ガスと共に、貯槽から供給される液体水素を、蓄圧器の内部空間に収容して気化させて、生成した超高圧の水素ガスを、蓄圧器に貯蔵するものである。この技術的思想は、対象となる流体を、液体水素以外にも、さらに液化天然ガス(LNG:Liquified Natural Gas)にも適用することができるものと、考えられる。よって、本発明に係る超高圧水素ガス製造システム、及び超高圧水素ガス製造方法を応用することで、施設において、送出用の天然ガスと共に、貯槽から供給される液化天然ガスを、容器の内部空間に収容して気化させ、生成した天然ガスを容器内に貯蔵することができる。