【発明の詳細な説明】
変異インスリン様増殖因子I受容体サブユニットおよびそれらの使用方法
謝辞
本発明は,国立保健衛生研究所(National Institute of Health)により付与
された補助金DK34824およびDK02023に基づく政府の援助のもとに
行われた.政府は本発明についてある権利を有する.
発明の分野
本発明は,インスリン様増殖因子−Iおよびその受容体に関し,さらに詳しく
は,修飾されたチロシンキナーゼ活性を有するインスリン様増殖因子−I受容体
サブユニットおよび受容体,ならびにそれらの使用方法に関する.
発明の背景
インスリン様増殖因子(IGF−I)は血漿中を高濃度で循環し,大部分の組
織に検出される7.5−kDのポリペプチドである.IGF−Iは様々な細胞お
よび組織型において主として分裂誘発因子であるが,また細胞分化および細胞増
殖も刺激する.組織の成長に対するIGF−Iの重要性は思春期を通じてその血
漿濃度は増大し成人でプラトーに達すること,および大部分の哺乳類細胞種が増
殖の維持にIGF−Iを要求することによって示唆される.IGF−I/IGF
−I受容体の相互作用が細胞増殖を仲介する広範囲の細胞種の総説には,
Goldring,M.B.& Goldring,S.R.,Eukar.Gene Expression,1:31−326
(1991)がある.
インビボにおいて,IGF−Iの血清レベルは下垂体成長ホルモン(GH)に
依存する.成長ホルモン依存性IGF−Iの合成の主要部位は肝臓であるが,最
近の研究では大部分の正常組織もIGF−Iを産生することを指示している.各
種の腫瘍組織もIGF−Iを産生する.すなわち,IGF−Iは自己分泌または
傍分泌,ならびに内分泌機構を介して正常および異常細胞の増殖の調節因子とし
て作用するものと思われる.
IGF−I刺激細胞増殖を導く伝達経路の最初のステップはIGF−I受容体
への受容体リガンド(IGF−I,IGF−II,または超生理学的濃度のイン
スリン)の結合である.IGF−I受容体は2種類のサブユニット,αサブユニ
ット(完全に細胞外にあってリガンドとの結合に機能する130〜135−kD
のタンパク質)とβサブユニット(膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを有す
る95−kD膜貫通タンパク質)から構成される.IGF−I受容体は最初は単
一鎖のプロ受容体ポリペプチドとして合成され,これがグリコシル化,タンパク
分解的切断,および共有結合によるプロセッシングを受けて,2個のαサブユニ
ットと2個のβサブユニットからなる成熟460−kDヘテロテトラマーに組み
立てられる.βサブユニット(単数または複数)はリガンド活性化チロシンキナ
ーゼ活性を有する.この活性がβサブユニットの自己リン酸化およびIGF−I
受容体基質のリン酸化を含むシグナル伝達経路を誘導するリガンド作用であると
解釈される.
すなわち,IGF−I受容体は,正常および異常増殖過程において中枢的役割
を果たしているものと考えられる.IGF−Iレベルの上昇は,下垂体機能亢進
症,巨人症を含めたいくつかの多様な病的状態と相関する.異常なIGF−I/
IGF−I受容体機能は,乾癬,糖尿病(微小血管増殖),血管形成術後の血管
平滑筋の再狭窄と結び付けられてきた.様々な癌,たとえば白血病,肺癌,卵巣
癌および前立腺癌においては,非癌組織に比べて腫瘍組織によるIGF−I受容
体の過剰発現が存在し,これには多分,組織の自律増殖を招く自己分泌または傍
分泌フィードバックループにおけるIGF−I/IGF−I受容体の相互作用が
関与するものと思われる.各種ヒト腫瘍の増殖において,IGF−I/IGF−
I受容体相互作用が果たす役割についての総説は,Macaulay,V.M.,Br.J.Cancer,
65:311−320(1992)を参照されたい.
このような病的状態に伴う細胞増殖を阻害するための可能性のある戦略として
は,IGF−Iレベルの抑制またはその細胞受容体レベルにおけるIGF−I作
用の遮断が考えられる.たとえば,IGFの合成および/または分泌を低下させ
る薬剤が用いられてきた.これらには,カルシノイドを含む内分泌腫瘍の処置な
らびに下垂体機能亢進症および乳癌の実験的処置のための長時間作用型ソマトス
タチン類縁体オクトレオチド,ならびに乳癌の処置のためのタモキシフェンが包
含される.しかしながら,とくに非標的組織の正常な増殖に影響を与えないで,
循環IGF−Iを組織濃度が細胞増殖を制限するようなレベルまで抑制すること
には,固有の困難性が認められてきた.
IGF−Iの作用をその細胞受容体レベルで遮断する可能性が考えられる一つ
の戦略には,IGF−I受容体に対する抗体の使用がある.しかしながら,これ
らの抗体では長期の拮抗よりもむしろ刺激を認めることが報告されている.した
がって,本技術分野においては,リガンドによって活性化されるIGF−I受容
体の機能を細胞レベルで修飾する方法の必要性が明らかである.このような方法
は,非標的組織の細胞における内因性IGF−I受容体機能を遮断することなく
標的組織の細胞におけるIGF−I受容体機能を遺伝的に修飾可能なものである
ことが好ましい.
発明の簡単な説明
本発明は,内因性IGF−I受容体に比較して修飾されたIGF−I受容体機
能を有するIGF−I受容体サブユニット(単数または複数)をコードする配列
からなる新規なポリ核酸ならびにそれらによってコードされるポリペプチドを提
供する.本発明のポリ核酸によってコードされるIGF−I受容体サブユニット
(単数または複数)は,IGF−I受容体のβサブユニットまたはαおよびβサ
ブユニットのいずれに相当するものであってもよい.修飾できるIGF−I受容
体機能の一つはチロシンキナーゼ活性である.チロシンキナーゼ活性には自己リ
ン酸化および細胞内IGF−I受容体基質のリン酸化が包含され,これらの一方
または両者が本発明によって修飾される.
本発明によって提供される変異IGF−I受容体は,内因性IGF−I受容体
に比較して修飾されたIGF−I受容体機能,たとえば修飾されたチロシンキナ
ーゼ活性によって特徴づけられ,通常少なくとも1個の変異βサブユニットから
組み立てられて変異IGF−I受容体ヘテロテトラマーを形成する.また,変異
IGF−I受容体は2個の変異βサブユニットから組み立てられてもよい.
本発明はまた,本発明の新規なポリ核酸およびポリペプチドを用いて内因性の
IGF−I受容体機能を阻害する方法を提供する.
図面の簡単な説明
図1は標的細胞のトランスフェクションに用いられるpRSV−IGFIRプ
ラスミドの模式的なダイアグラムである.ヒトIGF−I受容体cDNAの4.
2−kbのHincII/SstIフラグメントが発現ベクターRexp中にクロー
ン化された.
発明の詳細な説明
本発明では,修飾されたIGF−I受容体機能によって特徴づけられる新規な
IGF−I受容体サブユニット,これらの受容体サブユニットをコードする新規
なポリ核酸配列,およびそれらの使用のための様々な応用が提供される.
IGF−I受容体のそのリガンドによる活性化は,広範囲の細胞種の増殖に中
心的な役割を果たしていて,多くの疾患の進行に関与している.高レベルの細胞
IGF−Iに関連する疾患の処置に向けられた努力は,IGF−Iの血清濃度の
低下あるいはIGF−I受容体へのIGF−Iの結合の妨害に集中されてきたの
で,限られた成功しか達成されなかった.本発明はこれらの戦略に伴う固有の困
難性を回避し,リガンドにより活性化されるIGF−I受容体の機能を細胞のレ
ベルで修飾する遺伝的,組織特異的方法を提供するものである.
IGF−I受容体にはいくつかの機能部位がある.たとえばリガンド結合,基
質結合,自動リン酸化,基質のリン酸化,膜との会合,サブユニット間の結合等
の機能部位である.一般的にいえばIGF−I受容体の1種または2種以上の機
能が受容体の他の機能を有意に遮断することなく,独立に[すなわちIGF−I
受容体サブユニット(単数または複数)をコードする核酸の選択的突然変異によ
り]修飾できることが見出されたのである.
この現象を利用して,興味ある機能をコードするヌクレオチド配列の部分を選
択的に突然変異させることにより,内因性IGF−I受容体の変異体を形成させ
ることができる.得られた変異サブユニットは,内因性IGF−I受容体サブユ
ニットまたは他の変異IGF−I受容体サブユニットと複合して変異IGF−I
受容体を形成する能力を維持している.変異IGF−I受容体サブユニットが標
的細胞中に存在する場合には,標的細胞は優性負様式により変異IGF−I受容
体サブユニットに特徴的な表現型を表す.
変異サブユニットおよび受容体に特徴的な表現型は,内因性遺伝子の存在下に
も表現されるので「優性」と呼ばれる.変異サブユニットおよび受容体の表現型
は内因性IGF−I受容体の表現型と拮抗的であることから「負」と呼ばれる.
しかし,優性負の語を使用しても,細胞中における多数の変異サブユニットの存
在により競合によって生じる所望の表現型の排除を意図するものではない.
すなわち,本発明の方法は,変異IGF−I受容体サブユニットを発現させる
ために組み換え核酸技術を使用する.変異サブユニットの発現は内因性IGF−
I受容体サブユニットに対して優性負の効果を発揮し,標的細胞ならびにそれら
の子孫細胞に所望の表現型を生成させる.
本発明は,IGF−I受容体サブユニット(単数または複数)をコードする配
列からなる組み換えポリ核酸を提供する.コードされたIGF−I受容体サブユ
ニット(単数または複数)は,内因性のIGF−I受容体のIGF−I受容体機
能に比較して修飾されたIGF−I受容体機能によって特徴づけられる.
「ポリ核酸」の語はすべての形態のデオキシリボ核酸およびリボ核酸,すなわ
ち二重鎖DNA,cDNA,mRNA等を包含することを意図する.IGF−I
受容体サブユニット(単数または複数)をコードするポリ核酸配列は,IGF−
I受容体のαサブユニットをコードしなくても,またその一部もしくはすべてを
コードしていてもよい.本発明の現時点で好ましい実施態様においては,ポリ核
酸配列は,修飾されたチロシンキナーゼ活性を達成するために適当な突然変異を
もつIGF−I受容体のαおよびβサブユニットの両者をコードする.
「IGF−I受容体機能」の語は,疾患および非疾患状態の両者に関連する機
能たとえば,チロシンキナーゼ活性,リガンド結合,リガンドのインターナリゼ
ーション,ATP結合,細胞内基質の結合,リガンド依存性細胞分化 リガンド
依存性細胞増殖,リガンド依存性細胞トランスフォーメーション,リガンド依存
性の細胞腫瘍形成等のIGF−I受容体機能を包含するものである.「リガンド
依存性」の語は本明細書においてはIGF−I受容体の機能がその機能を活性化
するためのIGF−I受容体へのリガンドの結合に依存することを指示する.
「IGF−I受容体機能」もしくは「チロシンキナーゼ活性」またはIGF−
I受容体機能のいずれかの一つを修飾するのように用いられる「修飾された」の
語は,内因性のIGF−I受容体の機能と比較して,機能の上昇,低下,パター
ン変化またはその機能の欠如を意味するものである.
本明細書で用いられる「内因性IGF−I受容体」の語は,関心のある細胞に
ネイティブなIGF−I受容体を意味するものである.本明細書において用いら
れる「内因性IGF−I受容体サブユニット」の語は,その細胞にネイティブな
IGF−I受容体のαおよび/またはβサブユニットを意味するものである.
本発明はまた,内因性IGF−I受容体サブユニットのチロシンキナーゼ活性
に比較してチロシンキナーゼ活性が修飾されていることを特徴とするIGF−I
受容体サブユニット(単数または複数)をコードする配列からなる組み換えポリ
核酸を提供する.
本明細書において用いられる「修飾されたチロシンキナーゼ活性」の語は,内
因性IGF−I受容体のチロシンキナーゼ活性に比較してチロシンキナーゼ活性
が上昇,低下,パターン変化または欠如していることを意味する.「チロシンキ
ナーゼ活性」の語にはIGF−I受容体の自己リン酸化および細胞内基質すなわ
ちIRS−1,P13キナーゼ,pp185等のリン酸化が包含される.
配列番号1として掲げたDNA配列はヒトIGF−I受容体のαおよびβサブ
ユニットをコードするcDNAクローンを示す.配列番号2として掲げた配列は
配列番号1によってコードされる推定アミノ酸配列である.ヌクレオチド32か
ら121はシグナル配列をコードする.ヌクレオチド122から2239および
アミノ酸1から706はαサブユニットをコードする.ヌクレオチド2252か
ら4132およびアミノ酸711から1337はβサブユニットをコードする.
成熟IGF−I受容体のαおよびβサブユニットはジスルフィド結合によって
連結されている.配列番号2に関しては,βサブユニット上のこの結合部位はア
ミノ酸744〜約906内にある.βサブユニットはさらに膜貫通領域を配列番
号2のアミノ酸残基906もしくはその付近から約929にもつと説明すること
ができる.βサブユニットはまた,アミノ酸残基930から約990に膜貫通領
域に隣接する膜近接領域を有する.成熟IGF−I受容体が細胞膜内に繋留され
ると,膜近接領域は細胞膜に隣接する細胞質内に位置する.βサブユニット上,
膜近接領域のさらに下流は,ほぼアミノ酸残基1003におけるATP結合ドメ
インである.ATP結合部位とアミノ酸1337のカルボキシ末端の間,アミノ
酸残基約973〜1229に,細胞質内チロシンキナーゼドメインが存在する.
本発明の他の実施態様においては,内因性IGF−I受容体サブユニットの核
酸配列,または標的細胞と適合性を有しIGF−I受容体サブユニットをコード
する核酸配列を,たとえば,発現されたIGF−I受容体サブユニットが修飾さ
れたIGF−I受容体機能をもつように突然変異によって修飾される.もちろん
突然変異のために選択される位置は,修飾を所望の内因性IGF−I受容体の機
能に依存することになる.たとえばアミノ酸残基943,950および957の
膜近接領域,たとえば残基1003のATP結合部位,ならびにたとえばアミノ
酸残基1131,1135および1136の細胞内チロシンキナーゼドメインと
アミノ酸残基1316におけるカルボキシ末端はすべて,チロシンキナーゼ活性
を修飾するためのアミノ酸置換が可能である.さらに,たとえばβサブユニット
のアミノ酸残基952におけるインフレーム終結コドン(UAG,UAAまたは
UGA)の挿入によるβサブユニットの中断,ならびにアミノ酸943から96
6の22アミノ酸の欠失は,チロシンキナーゼの修飾を生じる.上述したβサブ
ユニットに対する突然変異の詳細は以下に記載の実施例でさらに細かく説明する
.本開示によって提供された情報を用いれば,本技術分野の熟練者には,所望の
結果を達成するために,多くのミスセンスまたはナンセンス突然変異を含めて,
核酸配列の突然変異またはアミノ酸配列の変換を行う本技術分野の熟練者にはよ
く知られた多くの他の方法があることは自明であろう.
現時点で好ましい実施態様では,αサブユニットを結合して成熟IGF−I受
容体テトラマーを形成するのに必要なβサブユニットの部分のみおよびIGF−
I受容体サブユニットを細胞膜内に繋留するのに必要なβサブユニットの部分の
みが,本発明のポリ核酸配列およびアミノ酸配列によってコードされる.たとえ
ば,この核酸配列およびアミノ酸配列は,βサブユニットのアミノ末端から繋留
の達成に必要な膜貫通ドメインの部分まで,すなわち,アミノ酸残基2252か
ら約2909までをコードするのみでもよい.
「実質的に同一」の句は本明細書においては,本発明の修飾されたIGF−I
受容体機能を達成するために必要な変異以外に,それぞれ配列番号1および配列
番号2からの結果に影響する配列変異はない核酸配列またはアミノ酸配列を意味
して用いられる.たとえば例IIに記載したヒトIGF−I受容体cDNAに対す
る突然変異から生じる核酸配列およびアミノ酸配列は配列番号1と実質的に同一
ということになる.同様に,これらの突然変異ヒトIGF−I受容体cDNAの
発現によって生じるアミノ酸配列は,配列番号2と実質的に同一ということにな
る.同様に,IGF−I受容体サブユニットの機能(上述のものを除く)または
その三次元構造を実質的に変化させない荷電残基の同様に荷電した残基による置
換または非極性残基の他の非極性残基による置換で生じる核酸配列またはアミノ
酸配列の変化は「実質的に同一」の配列の範囲である.
本発明のさらに他の実施態様においては,修飾されたIGF−I受容体機能,
たとえば内因性IGF−I受容体機能と比較して修飾されたチロシンキナーゼ活
性,およびさらに内因性IGF−I受容体サブユニット(単数または複数)と複
合して変異IGF−I受容体を形成する能力によって特徴づけられるIGF−I
受容体サブユニットをコードする配列からなるポリ核酸を提供する.
本明細書において用いられる「変異IGF−I受容体」の語は2個のαサブユ
ニットおよび2個のβサブユニットからなるテトラマー構造を有し,その少なく
とも1個のβサブユニットは変異IGF−I受容体サブユニットであり,その受
容体は,通常は内因性IGF−I受容体の表現型に拮抗する所望の優性表現型を
有する成熟IGF−I受容体を意味する.
本明細書において用いられる「変異IGF−I受容体サブユニット」の語は,
変異IGF−I受容体サブユニットが変異IGF−I受容体の構成成分である場
合,内因性IGF−I受容体機能に比較して修飾されたIGF−I受容体機能を
発揮するIGF−I受容体サブユニットを意味する.たとえば,変異IGF−I
受容体サブユニットは内因性IGF−I受容体サブユニットに比較して修飾され
たチロシンキナーゼ活性を示すものであってもよい.変異IGF−I受容体サブ
ユニットはさらに内因性IGF−I受容体サブユニット(単数または複数)と複
合して変異IGF−I受容体を形成する能力により特徴づけることもできる.
本発明のさらに他の実施態様においては,本発明の核酸を含有するベクターが
提供される.本明細書において用いられる「ベクター」または「プラスミド」の
語は,本発明のポリ核酸配列を発現または転写のいずれかのために細胞内に導入
するのに使用される独立した要素を意味する.このようなベクターの選択および
使用は本技術分野の熟練者にはよく知られていて,そのポリ核酸を受容する標的
細胞に応じて変動する.
発現ベクターは,調節配列たとえばプロモーター領域と操作性に連結するポリ
核酸配列を発現できる構築体である.すなわち,「発現ベクター」は,組み換え
DNAまたはRNA構築体,たとえばプラスミド,ファージ,組み換えウイルス
または適当な宿主細胞中に導入するとクローン化されたポリ核酸配列の発現が起
こる他のベクターを意味する.適当な発現ベクターは本技術分野の熟練者にはよ
く知られていて,真核細胞および/または原核細胞中で複製可能であって,エピ
ソームに留まるかまたは宿主細胞のゲノム中に組み込まれるベクターが包含され
る.変異IGF−I受容体サブユニットの真核宿主細胞とくに哺乳動物細胞中で
の発現に現時点で好ましいプラスミドには,RSV LTRを有するRexp,
モロニーマウス白血病ウイルスLTR駆動発現ベクター等がある.
本明細書において用いられるプロモーター領域の語はそれに操作性に連結した
DNAの転写を制御するポリ核酸のセグメントを意味する.プロモーター領域は
RNAポリメラーゼの認識,結合ならびに転写開始に十分な特異的配列を包含す
る.プロモーター領域のこの部分がプロモーターと呼ばれる.さらに,プロモー
ター領域にはRNAポリメラーゼのこの認識,結合および転写開始活性を調節す
る配列が包含される.プロモーターは調節の性質に応じて構成的であっても調整
的であってもよい.たとえば本発明の実施に際しての使用が考えられるプロモー
ターには,SV40初期プロモーター,サイトメガロウイルス(CMV)プロモ
ーター,モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)プロモーター,チミジンキ
ナーゼプロモーター,ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター等がある.
本明細書において用いられる「操作性に連結する」の語は,ポリ核酸配列とヌ
クレオチドの調節およびエフェクター配列,たとえば,プロモーター,エンハン
サー,転写および翻訳停止部位,ならびに他のシグナル配列との機能的関係を意
味する.たとえば,DNAのプロモーターへの操作性連結とは,このDNAの転
写が,そのDNAを特異的に認識し,それに結合し,それを転写するRNAポリ
メラーゼによってプロモーターから開始されるような,DNAとプロモーターの
間の物理的および機能的関係を意味する.
本発明の他の実施態様においては,上述のポリ核酸を含む細胞が提供される.
このような宿主細胞たとえば細菌,酵母および哺乳類細胞が,本発明のポリ核酸
の転写ならびに変異IGF−I受容体サブユニット(単数または複数)の製造に
使用できる.クローン化ポリ核酸の適当な発現ベクターへの導入,プラスミドベ
クターもしくはプラスミドベクターの組合せまたは線状DNAによる真核細胞の
トランスフェクション,あるいはレトロウイルス構築体による感染,およびトラ
ンスフェクトまたは感染細胞の選択は,本技術分野においてはよく知られている
(Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2版,Cold Spring
Harbor,1989参照).異種DNAは,本技術分野の熟練者にはよく知られた
任意の方法で,たとえば異種DNAをコードするベクターのCaPO4法によるトラ
ンスフェクションにより宿主細胞に導入できる(たとえば,Kashanchi,F.ら,Nucl.Acids Res.
20:4673−4674,1992参照.この同じ方法を
本発明のタンパク質の宿主細胞への導入に使用できる).ついで組み換え細胞を
そのDNAによってコードされたサブユニット(単数または複数)が発現する条
件下に培養することができる.好ましい細胞には,哺乳類細胞,たとえば腫瘍細
胞,リンパ球,幹細胞,下垂体細胞,骨髄細胞,線維芽細胞等がある.
本発明のさらに他の実施態様においては,本発明の核酸によってコードされる
ポリペプチドが提供される.本明細書において用いられる「タンパク質」,「ペ
プチド」および「ポリペプチド」の語は,同等の語と考えてよく,互いに交換し
て使用できる.
ポリ核酸およびタンパク質で構成される物質に加えて,本発明は本発明のポリ
核酸およびポリペプチドのいくつかの新規な使用方法を提供する.本発明は内因
性IGF−I受容体チロシンキナーゼ活性に比較して修飾されたチロシンキナー
ゼ活性によって特徴づけられる変異IGF−I受容体が形成されるのに適当な条
件下に,変異IGF−I受容体サブユニットを細胞中に導入することによって,
細胞内の内因性IGF−I受容体機能を阻害する方法を提供する.本発明のこの
方法はインビトロでも同様に実施できることは容易に理解されよう.
本発明の方法によれば,変異IGF−I受容体サブユニットをコードする核酸
配列は本技術分野の熟練者に知られている任意の方法,たとえば腹腔内,皮下,
脈管内,筋肉内,経鼻もしくは静脈内注射,移植もしくは経皮投与様式等によっ
て,治療剤として哺乳類動物に投与することができる.本発明の構成物質を治療
剤として投与する場合には,構成物質を適当な医薬用担体と配合する必要がある
ことは本技術分野の熟練者には自明であろう.医薬用担体の選択および治療剤と
しての組成物の製造は,意図された用途および投与様式に依存する.治療剤の適
当な製剤および投与方法は本技術分野の熟練者によれば容易に決定できる.
IGF−I関連疾患の処置のための投与基準は様々な因子,たとえば疾患の種
類,患者の年齢,体重,性別および医学的状態,ならびに病的状態の重症度,投
与経路,使用する治療剤の種類に依存する.熟練した医師または獣医師によれば
患者の処置に必要な化合物または医薬の有効量を決定し処方することは容易であ
る.通常は,本技術分野の熟練者によれば,初期には比較的低用量が用いられ,
ついで最大の応答が得られるまで用量を増大していくことになる.本発明の核酸
は増幅されやすいので,通常の薬剤投与方法の場合に比べてはるかに低用量で有
効であると考えられる.
次に本発明を,以下の非限定的実施例によりさらに詳細に説明する.
例I
プラスミドの構築
Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2版,Cold Spring
Harbor(1989)に記載されているようなDNA操作の標準的方法を,すべて
のプラスミドの構築に使用した.以下の例で使用されるヒトIGF−I受容体を
コードする4.2−kbのcDNAフラグメントは,ヒトHeLa細胞cDNAラ
イブラリー(Stratagene,La Jolla,CA)を,配列番号1のDNAフラグメント
(核酸残基43〜280)およびUllrich A.ら,EMBOJ,5:2503−251
2(1986)に記載され配列番号14に掲げたオリゴヌクレオチドプローブでス
クリーニングによって得られた.このオリゴヌクレオチドはABI#394DNAシ
ンセサイザー(Applied Biosystems,Inc.Foster City,CA)で合成した.特異
的なクローンは32P−標識オリゴヌクレオチドおよびDNAフラグメントプロー
ブとの3ラウンドの配列特異的コロニーハイブリダイゼーションによって選択し
た.
重複クローンを互いにリゲートさせて完全長クローンを得て,その同一性はDN
A配列決定によって確認した.
発現構築体は単離されたヒトIGF−I受容体cDNAの4.2−kbHinc
II−SstIフラグメントを,哺乳類発現ベクターRexp(図1参照)のポリ
リンカー部位にライゲートすることにより調製した.RexpはYamasaki,Hら,Mol.Endocrinology
5:890(1991)に記載されていて,California大学
(San Diego,CA)のM.Rosenfeld氏から入手した.正方向の構築体が制限地図
の作成によって同定され,pRSV−IGFIRと命名された.
ヒトIGF−I受容体cDNAをRexp発現ベクターのBamH1部位にラ
イゲートして生成させた負の方向の構築体はpRSV−rIGFIRと命名され
た.すべてプラスミドは2種の塩化セシウム勾配上で精製した.
例II
ヒトIGF−I受容体cDNAの突然変異生形
pRSV−IGFIRからの0.45−kb SmaI−HindIIIフラグメ
ントを,M13mp19中にサブクローニンクした.突然変異形成には以下のプライ
マーを使用した.
突然変異したオリゴヌクレオチドを一本鎖DNAにアニーリングし,以後の突
然変異形成は,Amershamのキットを使用し製造業者の説明書に従って実施した.
IGF−I受容体をコードするSmaI−HindIIIフラグメントのScaI
部位にSalIリンカー(5’−GTCGAC−3’)を挿入して,位置950にさら
に3個のアミノ酸(Cys−Arg−His)を含有するIGFIR−CRHを
生成させた.ヒトIGF−I受容体の中断には,0.45−kb SmaI−Hi
ndIIIフラグメントをM13mp19中にサブクローニングした.IGF−I
受容体cDNAのSmaI−HindIIIフラグメント中に存在するScaI部
位に,Xbaリンカー,すなわち5’−TGCTCTAGAGCA−3’(配列番号13)を
挿入して,位置952にインフレーム終結コドンを生成させた.
突然変異配列をpRSV−IGFIRベクター中に再導入したのち,すべての
構築体を,T7シーケナーゼ(U.S.Biochemical,Cleveland,Ohio)を用いて
ジデオキシ配列決定に付し,突然変異配列を確認した.以下の野生型および以下
の変異型IGF−I受容体サブユニットをコードするcDNAを含むプラスミド
を形成させた.
WT=突然変異のないヒトIGF−I受容体サブユニット,
940Ala=膜近接領域における残基940のアラニン置換を有するヒトIG
F−I受容体サブユニット,
943Ala=膜近接領域における残基943のアラニン置換を有するヒトIG
F−I受容体サブユニット,
950Cys=膜近接領域における残基950のシステイン置換を有するヒトI
GF−I受容体サブユニット,
950Ser=膜近接領域における残基950のセリン置換を有するヒトIGF
−I受容体サブユニット,
950Leu=膜近接領域における残基950のロイシン置換を有するヒトIG
F−I受容体サブユニット,
950Thr=膜近接領域における残基950のスレオニン置換を有するヒトI
GF−I受容体サブユニット,
952STOP=βサブユニットが中断されているヒトIGF−I受容体サブユ
ニット,
957Ala=膜近接領域における残基957のアラニン置換を有するヒト
IGF−I受容体サブユニット,
1003Ala=ATP結合ドメインにおける残基1003のアラニン置換を有す
るヒトIGF−I受容体サブユニット,
Δ22=残基943〜966に22個のアミノ酸欠失を有するヒトIGF−I
受容体サブユニット,および
IGFIR−CRH=残基950に3個の付加的アミノ酸(Cys−Arg−His)
を有するヒトIGF−I受容体サブユニット.
すべてプラスミドは2種の塩化セシウム勾配上で精製した.
例III
GCラット下垂体細胞およびラットI線維芽細胞の
トランスフェクション
成長ホルモンを分泌するGCラット下垂体細胞(GC細胞)はNew York(NewY
ork)のH.H.Samuels博士から入手したが,多種の市販ソースから入手することも
できる.GCラット下垂体細胞は,10%(容量/容量)ウシ胎児血清を補充し
たダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)中,加湿した95%空気/5%CO2
雰囲気下に37℃で増殖させた.
ラットI線維芽細胞は,P.Koeffler氏(Cedars-Sinai Medical Center,LosA
ngeles,CA)から入手したが,多種の市販ソースから入手することも可能である
.ラットI線維芽細胞は10%(容量/容量)ウシ胎児血清を補充したαMEM
中において37℃で増殖させた.
セミコンフルーエントなGC細胞またはラットI線維芽細胞は線状化ベクター
pRSV−IGFIRまたはpRSV−rIGFIR(例IIに記載したプラスミ
ド変異体)10μgで24時間コトランスフェクトした.ラットI線維芽細胞は
WTまたは952STOPのみおよびネオマイシン抵抗性による選択を可能にする
ために,1μgのpSV2neoによりトランスフェクトした(Southern P.J.
ら,J.Mol.Appl.Genet.,1:327−341,1982の記載参照).トランス
フェクションはリン酸カルシウム沈殿法によりPrager.D.ら,J.Biol.Chem.26
3:16580−16585(1988)の記載のように実施した.
ついで細胞を1:6に分割し,新鮮培地に,GC細胞では400μg/ml,ラッ
トI線維芽細胞では600μg/ml濃度でネオマイシン(G418;Gibco,Gaith
ersburg,MD)を添加した.培地の補充は72時間毎に実施した.細胞表面にヒ
トIGF−I受容体の発現をみない模擬トランスフェクトしたラットI細胞(I
51Neoすなわち,ヒトIGF−I受容体cDNAおよびpSV2neoを導
入)を対照として使用した.
例IV
変異IGF−I受容体はIGF−Iを結合する
放射標識IGF−Iの結合は懸濁液中で実施した.トランスフェクトしたGC
細胞またはラットI線維芽細胞約1×106個を[125I]IGF−I(50,0
00cpm,比活性2,000Ci/mmol)(Amersham,Arlington Height,IL)とイ
ンキュベートした.最終容量1mlの結合緩衝液(1%ウシ血清アルブミン,12
0mMまたは150mM NaCl,1.2mM MgSO4含有50mM HEPES
,pH8)中において非標識組み換えヒトIGF−I(Met−59)(Fujisawa
Pharmaceutical Co.,Osaka,Japan)を濃度を増大させ約15℃で添加した.非
特異的結合は過剰の(100nM)非標識IGF−Iの存在下に観察された結合と
定義した.
3時間インキュベートしたのちトランスフェクタントを遠心分離し,氷冷した
ジブチルフタレート300μlを加え細胞に結合した放射能を遊離の[125I]I
GF−Iから分離した.サンプルの細胞結合放射能をついでガンマーカウンティ
ングによって測定した.総結合リガンドの計算には遊離標識リガンドを包含した
.
非標識IGF−Iの量を増大させて,すべてのトランスフェクタントに対する
GC細胞関連[125I]IGF−I結合を置換すると,0.6〜2nMのIGF−
Iにより最大結合の50%置換が達成された.これらの結合置換データをスキャ
ッチャード解析に付すと,すべての突然変異トランスフェクタントについて直線
のプロットが得られ,これらのGCトランスフェクタントにおける単一クラスの
高親和性受容体の存在が指示された.[125I]IGF−I結合について誘導さ
れる結合定数(Kd)はすべてのトランスフェクタントで類似していて,1.19
nMのKdを示した940Alaの場合を除いて0.25〜0.66nMの範囲であった
.異なる突然変異受容体についてのリガンド親和性のこの類似性は,βサブユニ
ット
が突然変異した場合でも細胞外αサブユニットは無傷のままであると期待される
ことから,考えられることである.各トランスフェクタント上に存在する変異I
GF−I受容体の誘導数は非トランスフェクト細胞に比較して7〜34倍に増加
した.
同様に,さらに検討するために選択されたトランスフェクトラットI線維芽細
胞クローンのスキャッチャード解析によれば,無傷のヒトIGF−I受容体WT
cDNAトランスフェクタント,および中断ヒトIGF−I受容体cDNAトラ
ンスフェクタント952(STOP)についての結合親和性(それぞれ,1.08
および0.67nM)はトランスフェクトされていないラットI線維芽細胞に対す
るIGF−I結合のKdと類似するが,トランスフェクタントでは細胞あたりのI
GF−I結合部位の2.5〜7倍の増加が認められた.
要約すると,GC細胞およびラットI線維芽細胞における変異ヒトIGF−I
受容体サブユニットの発現は,細胞あたりのIGF−I結合部位の増大を招く.
結合部位の増加は変異IGF−I受容体の形成に起因する.
例V
変異DNAの宿主ゲノムへの組み込み
外因性ヒトIGF−I受容体DNAのGC細胞およびラットI線維芽細胞ゲノ
ムDNAへの組み込みを確認するために,トランスフェクトされた細胞のDNA
のサザンブロット分析を実施した.
トランスフェクトされた細胞およびトランスフェクトされていない細胞からの
単離ゲノムDNAは,Prager,D.ら,J.Clin.Invest.,85:1680−168
5(1990)の記載のようにして調製し,BamHIまたはEcoRI(Beth
esda Research Laboratories,Gaithersburg,MD)によって消化した.DNAフ
ラグメントは0.8%アガロースゲル上電気泳動によって分離し,ナイロン膜に
移した.膜を80℃で2時間加熱し,250mM NaHPO4−H2O,250mM
NaH2PO4−7H2O,7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS),1%BS
Aおよび1mM EDTAを含有する溶液10ml中65℃で2時間プレハイブリダ
イズした.
32P−標識IGF−I受容体cDNA(Boehringer Mannheim,Indianapolis
)
比活性6×107dpmはランダムプライミングによって調製した.ハイブリダイゼ
ーションは65℃で24時間行った.膜は,2×SSC(20×SSC=3M食
塩および0.3Mクエン酸ナトリウム)および0.1%SDS,200ml中65
℃で15分間2回,0.2×SSC−0.1%SDS,200ml中65℃で15
分間2回洗浄した.フイルターをKodakフイルム(Eastman Kodak,Rochester,N
Y)ならびに増感スクリーンを使用して−70℃で7日間オ−トラジオグラフィ
ーを行った.
ヒト受容体プローブはすべてのトランスフェクタントDNAサンプルに適当に
ハイブリダイズしたが,トランスフェクトしていないGC細胞およびラットI線
維芽細胞から抽出したDNAには最低限ハイブリダイズしたのみで,外因性ヒト
IGF−I受容体cDNAはこれらの細胞のゲノムに組み込まれたことが確認さ
れた.ランダムなサイズのDNAバンドに加えて,EcoRIでの消化によって
pRSV−IGFIRからの放出が期待された大きな約5キロベースのDNAフ
ラグメントが各トランスフェクタントで可視化された.
例VI
変異IGF−I受容体の特性
変異IGF−I受容体の形成(内因性ラットIGF−I受容体サブユニット/
変異ヒトIGF−I受容体サブユニットおよび/または変異ヒトIGF−I受容
体サブユニット/変異ヒトIGF−I受容体サブユニット)は,移動標識35S−
メチオニン(ICN,Irvine,California)によるトランスフェクタントの代謝的
な標識化ついでαIR3(Oncogene,Manhesset,NY)ならびにCambridge大学(Cam
bridge,England)K.Siddle博士から入手したAb1−2モノクローナル抗体の
両者でのタンパク質の免疫沈降によって証明された.
WT IGF−I受容体cDNAによりトランスフェクトしたコンフルーエン
トGC細胞およびラットI線維芽細胞ならびに952(STOP)IGF−I受容
体cDNA細胞をリン酸緩衝食塩溶液(PBS)5mlで濯ぎ,血清およびメチオ
ニンを含まない培地5ml中0.5mCi[35S]メチオニン(CSA,1,049Ci/mmo
l)により37℃で代謝的に標識した.16時間後に,細胞を溶解緩衝液(0.
01M NaCl,0.5%デオキシコール酸,1%Triton X−100,0.1%
SDS,0.01%ナトリウムアジド,および1mMフェニルメチルスルホニルフ
ルオリド)で溶解し,3,000rpm,4℃で15分間遠心分離した.αIR3ま
たはAb1−2のいずれかを,それぞれ1:500または1:300の最終濃度
で使用した.免疫複合体はプロテインA−Sepharose(Pharmacia Inc.,Piscata
way,NJ)で沈殿させた.ペレットをついで洗浄し,4%非変性ポリアクリルア
ミドSDSゲルに予め染色したタンパク質分子量マーカー(Bethesda Research
Laboratories,Gaithersburg,MD)と共に負荷した.
αIR3はヒトIGF−I受容体のαサブユニットを認識する.したがって,
460−kDのWT受容体ホロテトラマーおよび中断300−kDの952STO
P変異受容体ホロテトラマーがαIR3での免疫沈降に応答してゲル上に明瞭な
バンドとして現れる.Ab1−2はラットおよびヒト両IGF−I受容体のカル
ボキシ末端βサブユニットエピトープを認識し,したがって360−kD変異(
ラットIGF−I受容体サブユニット/変異ヒトIGF−I受容体サブユニット
)受容体ヘテロテトラマーがゲル上に明らかに異なるバンドとして同定される.
無傷のヒトIGF−I受容体ホロテトラマーは,WTトランスフェクタント中
αIR3およびAb1−2の両者で免疫沈降させた.αIR3は952STOPト
ランスフェクタント中の変異中断ヒト受容体ホロテトラマーを沈殿させた.Ab
1−2による952STOPトランスフェクタントの免疫沈降に応答した唯一の卓
越したバンドは360−kDの変異ラット/ヒトハイブリッド受容体であった.
例VII
変異IGF−I受容体の寿命
IGF−I受容体の生合成半減期を検討するために,セミコンフルーエントの
GC細胞トランスフェクタントを例VIの場合と同様にして[35S]メチオニンで
代謝的に標識した.16時間後に,メチオニンを含有し6.5nMのIGF−Iを
含むまたは含まない無血清特定(SFD)培地を補充した.さらに37℃でイン
キュベートし,細胞を0,0.5,2,6および16時間に収穫して例VIの記載
と同様に処理した.
WT受容体の半減期は6時間以上であった.濃度計測スキャニングにより,1
6時間までに受容体の分解の90%増大が明らかにされた.リガンドの添加は受
容体の分解速度には影響しないように思われた.952STOPトランスフェクタ
ントにおいては変異ラット/ヒトハイブリッド受容体の分解速度は明らかに遅延
し,16時間後にも大部分の合成受容体はなお存在した.同様に,リガンドの存
在は変異ラット/ヒトハイブリッド受容体の半減期には影響しなかった.変異中
断−ヒトIGF−Iホロテトラマーはまた,変異ラット/ヒトハイブリッド受容
体の緩徐な分解に類似して遅い速度で分解するように思われた.
例VIII
IGF−Iインターナリゼーション
約1×106ラットI線維芽細胞およびGC細胞トランスフェクタントを,1
%ウシ血清アルブミンおよび10mM HEPESを含むDMEM(pH7.8)0
.5ml中において,[125I]IGF−I(40〜50,000cpm)と37℃で
30分間インキュベートした.指示されたインキュベーション時間終了時に,培
地を30μlのIN HClで酸性とし,4℃でさらに6分間インキュベートし
た.細胞内(酸抵抗性)または細胞連結[125I]IGF−Iを例VIの記載と同
様にして測定した.分解した[125I]IGF−Iは,300μlインキュベー
ション緩衝液のトリクロロ酢酸沈殿(10%)によって評価した.さらに4℃に
4分間置いたのちに,上清中の分解した[125I]IGF−IをLevyJ.R.ら,E ndocrinology,
119:572−579(1986)の記載のようにガンマーカ
ウンターで測定した.%インターナリゼーションは非トランスフェクト細胞での
それぞれの値を差し引いたのち以下の式によって計算される.
位置940,943または950にアミノ酸置換を有するcDNAでトランス
フェクトされたGC細胞およびIGFIR−CRHトランスフェクタント,なら
びにWTトランスフェクタントは46〜70%の外因性[125I]IGF−Iを
インターナライズした.これに対し,957Alaトランスフェクタントは総結合
[125I]IGF−Iの24%をインターナライズしたのみであり,Δ22およ
び1003Alaトランスフェクタントでは標識IGF−Iリガンドをインターナラ
イ
ズしなかった.
同様に,トランスフェクトされていないラットI線維芽細胞およびWTトラン
スフェクタントはいずれも[125I]IGF−Iを時間依存性にインターナライ
ズした.しかしながら,952STOPトランスフェクタントにおいては,30分
のインキュベーション期間中に標識リガンドはインターナライズされなかった.
これらのインターナリゼーションの研究は,例VIの免疫沈降アッセイの結果と
合わせて考えると,残基957および1003におけるアミノ酸置換ならびに欠
失突然変異から生じる変異IGF−I受容体サブユニットがラットI線維芽細胞
およびGC細胞の内因性IGF−I受容体サブユニットと複合して変異ラット/
ヒトハイブリッドIGF−I受容体を形成することを示している.これらの変異
IGF−I受容体は内因性IGF−I受容体リガンドのインターナリゼーション
に対して負のトランスドミナントな効果を発揮する.
例IX
内因性基質の変異IGF−I受容体自己リン酸化およびリン酸化
[35S]メチオニンで10または16時間標識したトランスフェクタントGC
細胞をPBSで洗浄し,無血清特定培地中IGF−I(6.5nM)とともにまた
はIGF−Iを加えないで37℃において1分間インキュベートした.細胞をつ
いで溶解緩衝液[1%Triton X−100,30mMピロリン酸ナトリウム,10mM
Tris(pH7.6),5mM EDTA(pH8),50mM NaCl,0.1%ウシ
血清アルブミン,2mMオルトバナジン酸ナトリウム,200mMフェニルメチルス
ルホニルフルオリド]に溶解し3,000rpmにおいて15分間遠心分離した.
免疫沈降はモノクローナル抗−ホスホチロシン抗体,Ab2またはPY20を
用い,4℃でそれぞれ3時間または16時間実施した(Ab2は Oncogene Scie
nce,Manhasset,NYから入手し,PY20はICN,Costa Mesa,CAから入手した
).Ab1−2で行ったアッセイについてはプロテインA−Sepharoseを抗−マ
ウスIgG(Sigma Chemical Corp.,St.Louis,Missouri)とともに,PY2
0で実施したアッセイでは抗−マウスIgGを使用せずに,モノクローナル抗−
ホスホチロシン抗体細胞溶解物複合体と室温で2時間インキュベートした.免疫
沈殿を0.9mlの溶解緩衝液中で6回洗浄し,0.04mlのサンプル緩衝液中
に再懸濁し,95℃に3〜5分間加熱し,7.5%ドデシル硫酸ナトリウム−ポ
リアクリルアミドゲル上電気泳動に付した.
IGF−Iリガンドに応答して,WTおよび957Alaトランスフェクタント
は,IGF−I受容体(97kD)のβサブユニットおよびチロシン残基を含む細
胞内タンパク質基質,pp185および/またはIRS−1(165−185kD
)の両者のチロシンリン酸化を誘導した.950AlaトランスフェクタントはI
PS−1をリン酸化しなかったが,他の場合では,強度は低いもののWTトラン
スフェクタントに類似のリン酸化が認められた.943Alaトランスフェクタン
トは受容体のβサブユニットを自己リン酸化したが,IRS−1のリン酸化はW
Tトランスフェクタントの場合に比べて低下した.1003Alaおよび952STO
Pトランスフェクタントは,リガンド仲介IGF−I受容体自己リン酸化および
内因性タンパク質リン酸化を受けなかった.
これらの結果は,位置950および多分943におけるチロシン残基がIRS
−1のリン酸化に重要な部位であること,また,IRS−1が成長ホルモン遺伝
子へのIGF−Iリガンドのシグナリングを仲介することを示唆するものである
.さらに,成長ホルモンの抑制レベルは,IGF−I受容体基質,IRS−1の
チロシンリン酸化によって評価された細胞中のIGF−I刺激チロシンキナーゼ
活性とほぼ平行する.ATPドメイン中の位置1003におけるリジン残基は自
己リン酸化およびリン酸化に重要である.
例X
変異IGF−I受容体はIGF−Iのシグナリングを阻害する
変異IGF−I受容体の形成が,IGF−Iシグナルを成長ホルモン遺伝子に
伝達する内因性ラットIGF−I受容体の能力に及ぼす影響を決定するために,
約5×105個のGC細胞で9cm2のマルチウエルを覆い,増殖培地中で,24時
間増殖させた.ついで培地を吸引し,Yamasaki,Hら,Endocrinology,128:
857−862(1991)に記載の培地[DMEM中,0.6nMトリヨードサ
イロニン(T3),0.2ng/mlの副甲状腺ホルモン(PTH),10mg/mlのトラン
スフェリン,0.1ng/mlの上皮増殖因子,0.2ng/nlの線維芽細胞増殖因子,
10pg/mlのグルカゴン,100nMのハイドロコーチゾン,ならびに0.3%ウ
シ血清アルブミン]1.5〜2.0mlを,6.5nMのIGF−Iを加えてまたは
加えないで補充した.培地の一部を様々な時間間隔にて採取し,National Hormo
ne and Pituitary Program,National Institute of Diabetes and Digestive a
nd Kidney Diseases(Bethesda,MD)により供給された放射標識ラット成長ホル
モンおよび抗−ラット成長ホルモン抗体を用いてラット成長ホルモンを検定した
.成長ホルモン分泌の%抑制は次式で計算される.
式中,GHは成長ホルモン,UCは非処置細胞,TCは処置細胞である.
IGF−I処置18時間後に,非トランスフェクト細胞では成長ホルモンは2
0%抑制されたに過ぎなかったが,WTトランスフェクタントでは既に成長ホル
モン分泌は58%の抑制を示した.940Alaおよび957Ala点突然変異はいず
れも,WTトランスフェクタントに認められたのと同じIGF−Iによる成長ホ
ルモンの高い抑制を示した.943Ala点突然変異は,WTと非トランスフェク
ト細胞におけるIGF−I作用の中間の抑制効果を示した.残基950または1
003におけるアミノ酸置換を有するトランスフェクタントはIGF−Iに対し
て非トランスフェクト細胞の場合と同様に応答した.952STOPは成長ホルモ
ンの分泌を抑制しなかった.
36時間までに,非トランスフェクト細胞は成長ホルモンを40%抑制し,W
Tトランスフェクタントは成長ホルモンの60%抑制を示した.しかし,952S
TOP細胞は依然としてIGF−Iリガンドに応答せず,これらの細胞における
成長ホルモンの分泌は実際,内因性IGF−I受容体の存在にもかかわらず,ト
ランスフェクトされていない対照細胞の場合より高かった.すなわち,952ST
OPトランスフェクタントは内因性ラットIGF−I受容体の存在にもかかわら
ず,成長ホルモンへの生物学的シグナリングを完全に欠くものであった.
これらの観察は,ヒトIGF−I受容体の膜近接ドメインに局在する3個のチ
ロシン残基のうち,位置950のチロシン残基は成長ホルモン遺伝子へのIGF
−Iシグナリングに重要であるが,位置957におけるチロシンは必要であると
は思えないことを示唆している.943AlaでIGF−Iに応答する成長ホルモ
ンを抑制する効果が低下することは,943におけるチロシンがソマトトロフ核
における成長ホルモン遺伝子へのシグナリングカスケードに関与するタンパク質
の重要なフォールディングおよび/または接触点である可能性を示唆するもので
ある.952STOP IGF−I受容体サブユニットは内因性IGF−I受容体
機能の優性負のインヒビターとして挙動することが明らかである.
例XI
変異IGF−I受容体はIGF−I誘導細胞増殖を修飾する
変異IGF−I受容体形成が内因性受容体機能を修飾することをさらに証明す
るため,約1×104のラットI線維芽細胞WTおよび952STOPトランスフェ
クタントをSFD培地に24時間接種してIGF−Iの存在および不存在下にお
ける細胞増殖を検討した.ついで培地を補充し,濃度3.25nMのIGF−Iを
「IGF−I添加」テストウエルに加えた.72時間インキュベートしたのち,
培地を吸引し,単層を5mlのPBS(pH7.4)で2回洗浄した.
クリスタルバイオレット(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)を室温でメ
タノール中0.5%に調製し,その100μlを各ウエルに15分間加えた.ウ
エルをついで1mlのH2O2で脱色して,風乾した.結晶をついで,0.1Mのク
エン酸ナトリウム(pH4.2)および50%エタノール100μl中に室温で3
0分間溶解した.プレートをElisaプレートリーダーにより波長540nmで読み
取った.以下のように増殖刺激比(%GSR)を計算した.
式中,Aは吸収である.データは模擬トランスフェクト細胞(I51Neo)
に対して,I51Neo値を差し引くことにより補正した.
表1には,対照トランスフェクト細胞の細胞増殖に対する百分率として測定し
たWTおよび952STOPトランスフェクタントのIGF−Iの存在下および不
存在下における増殖刺激比を示す.
IGF−Iリガンドの不存在下および存在下のいずれにおいても,WTトラン
スフェクタントは952STOPトランスフェクタントより速やかに(p<0.0
05)増殖した.952トランスフェクタントはIGF−Iに応答しなかった.
例XII
変異IGF−I受容体はIGF−I誘導DNA合成を修飾する
例XIIで確認された変異IGF−I受容体トランスフェクタントの鈍い増殖応
答は,IGF−I処置後の[3H]チミジンの取り込みによるDNA合成を測定
することによって確認された.
約1×104ラットI線維芽細胞,WTまたは952STOPトランスフェクタン
トをSFD培地中で24時間増殖させた.ついで培地を補充し,「IGF−I添
加」テストウエルには濃度3.25nMのIGF−Iを2ml加えた.48時間イン
キュベートしたのち[3H]チミジン(1μCi)(ICN Biochemicals,Costa Mesa
,CA)を培地に加え,細胞を37℃で5時間インキュベートした.ついで培地を
吸引し,各ウエルに100μlの冷トリカルボン酸(10%)を加え4℃に20
分間置いた.ウエルを吸引したのち10%トリカルボン酸で2回洗浄した.次に
各ウエルに1N水酸化ナトリウム100μlを添加し,プレートを振盪器上室温
で15〜30分間インキュベートした.可溶化後,各ウエルから液体シンチレー
ションカウンターでのカウントのために90μlを採取した.結果は対照のトラ
ンスフェクトしたI51Neo細胞の値を差し引いて補正した.表2に示した値
は6回の測定値の平均である.
WTトランスフェクタントへの[3H]チミジンの取り込みはIGF−Iの存
在下には2倍以上であった.しかしながら,IGF−Iは952STOPトランス
フェクタントではDNAの合成を刺激しなかった.さらに,952STOPトラン
スフェクタントの絶対増殖率はWTまたは非トランスフェクトラットI線維芽細
胞の場合より著しく低かった.これらの結果は,IGF−IがラットI線維芽細
胞の無傷な内因性IGF−I受容体を介して作動する正の増殖レギュレーターで
あること,また変異IGF−I受容体cDNAの過剰発現はこの正の調節増殖調
節を修飾するために使用できることを示している.
例XIII
変異IGF−I受容体は細胞の形態を変化させコロニー形成を阻害する
約1×105の非トランスフェクトラットI線維芽細胞,WTトランスフェク
タントまたは952STOPトランスフェクタントをSFD培地中それぞれプレー
ト上に置いた.テストプレートには濃度50nMのIGF−Iまたは650nMのイ
ンスリンを加えて,全プレートを48時間インキュベートした.
WTトランスフェクタントは,IGF−Iまたはインスリンのいずれかによる
処置後に,細胞の形態に著しい変化を示した.リガンドの不存在下に増殖したト
ランスフェクタントは,トランスフェクトしていないラットI線維芽細胞および952
STOPトランスフェクタントの場合と同じ正常な表現型の外観を呈した.
しかしながら,IGF−Iまたはインスリンの存在下には,WTトランスフェク
タントは集合し,プレートに弱く接着した.トランスフェクトしていないラット
I線維芽細胞および952STOPトランスフェクタントはリガンドの添加後も,
細胞の形態に重大な変化は生じなかった.
IGF−Iにおけるこの形態変化の促進はインスリンの場合より10倍以上強
力で,IGF−I受容体への結合親和性はインスリンの場合の10倍を示した.
これらの観察は,これらの増殖因子によって誘導される表現型変化が変異IGF
−I受容体の存在によって修飾可能なIGF−I受容体の過剰発現を介して起こ
ることを指示している.
コロニー形態の変化がトランスフェクタントの増殖表現型におけるより普遍的
な変化を意味するものかどうかを決定するため,軟質アガール中でのそれらの増
殖を解析した.約2×103の非トランスフェクトラットI線維芽細胞,WTト
ランスフェクタント,または952STOPトランスフェクタントを,0.42ml
の0.3%Bacto-Agar,0.83mlのαMEM,0.33mlの10%ウシ血清ア
ルブミン,0.2mlのペニシリンおよびストレプトマイシン合剤を含む0.3%
軟質アガール35mm中に,13nMのIGF−Iの不存在下または存在下の6群を
プレート上に置いた.プレートは37℃において12日間インキュベートした.
>40の細胞を含有するすべてのコロニーを計測した.表3中の数字は6つのウ
エル中でカウントされたコロニーの平均数を表す.
非トランスフェクトラットI線維芽細胞は,軟質アガール中で増殖したが,そ
れらのコロニーサイズはWTトランスフェクタントの場合よりはるかに小さかっ
た.小さな非トランスフェクトラットI線維芽細胞コロニーはIGF−Iに応答
してサイズおよび数が増大したが,依然として,IGF−Iの不存在下における
WTコロニーの場合より数は少なくサイズは小さかった.リガンド処置後,WT
コロニーはサイズおよび数のいずれも増大した.これに反し,952STOPトラ
ンスフェクタントは軟質アガール中リガンドの不存在下には増殖せず,リガンド
の存在下にも最低の増殖を示したのみであった.
すなわち,内因性ラットIGF−I受容体は952STOPトランスフェクタン
トの足場依存性増殖を促進することは不可能であった.これは,変異IGF−I
サブユニットの発現は,非機能性変異受容体の形成を生じることを示唆するもの
である.
例XIV
変異IGF−I受容体はインビボにおいて腫瘍形成を阻害する
変異受容体がインビボで優性負の表現型効果を発揮するかどうかを決定するた
め,各群9匹の無胸腺ヌードマウスからなる3群のマウスの右または左側腹部に
約1×106の非トランスフェクトラットI線維芽細胞,WTトランスフェクタ
ントまたは952STOPトランスフェクタントを皮下注射した.マウスは8週間
観察したのち屠殺した.
WTトランスフェクタントを注射したマウスはすべて,注射から3週以内に,
触知可能な肉眼で見える腫瘍を発症した.非トランスフェクトラットI線維芽細
胞を注射したマウスでは9例中6例が5〜6週後にのみ腫瘍を発症した.非トラ
ンスフェクトラットI線維芽細胞を注射されたマウスの場合の小さく壊死性であ
った腫瘍に比較して,でWTトランスフェクタントを注射されたマウスには大き
な腫瘍が発症した.952STOPトランスフェクタントを注射されたマウスには
8週間の観察期間中,腫瘍は発症しなかった.
屠殺後,ラットI線維芽細胞(ラットIMT)およびWTトランスフェクタン
ト(WTMTI−9)から得られた充実性腫瘍をコラーゲナーゼ(0.35%)
およびヒアルロニダーゼ(0.1%)で酵素的に分散させ,G418中インビト
ロで培養した.ネイティブならびにエクスビボのラットIMT細胞はいずれもゲ
ンチシンの存在下に増殖しなかった.しかしながら,エクスビボで誘導されたW
TMTI−9細胞はすべて,600μl/mlでG418中インビトロで増殖した.
例IVの記載のように実施したこれらの細胞に対する特異的[125I]-IGF−
I
の結合から,非トランスフェクトラットI線維芽細胞もしくはラットIMT細胞
(特異的IGF−Iの結合5%)に比較して,エクスビボWTMT1−9細胞で
は(特異的IGF−Iの結合20〜41%),IGF−I受容体の過剰発現が続
くことが明らかにされた.
ラットIMTおよびWTMT1−9腫瘍に由来する細胞からのEcoRI消化
DNAについて,例Vの記載と同様にして実施したサザンブロット解析により,
変異IGF−I受容体がなおエクスビボ細胞中に組み込まれていることが確認さ
れた.
WTM4およびラットIMTホルマリン固定腫瘍の病理検査から,腫瘍は肉腫
の鑑別に一致するビメンチン免疫反応性を含むことが明らかにされた.これらは
ケラチン,S100タンパク質,神経細糸,白血球共通抗原,デスミンまたはミ
オグロビンを発現せず,したがってカルシノーマ,神経細胞鑑別,リンパ腫また
は筋細胞鑑別は除外された.
電子顕微鏡による観察結果は肉腫鑑別に一致した.いずれの腫瘍も線維肉腫で
あり,著しく硬くほとんど壊死領域のなかったラットWTM4腫瘍に比較して,
ラットIMT腫瘍は大きな壊死領域を有しこの腫瘍のより脆い性質と一致した.
以上本発明を現時点で好ましい実施態様について記載したが,本発明の精神か
ら逸脱することなく様々な改変が可能であることを理解すべきである.
配列表
配列番号:1
配列の長さ:4975
配列の型:核酸
鎖の数:二本鎖
トポロジー:両者
配列の種類:cDNA
配列の特徴:
特徴を表す記号:CDS
存在位置:32..4135
他の情報:産物=「増殖因子受容体シグナルペプチド」
特徴を表す記号:sig peptide
存在位置:32..121
特徴を表す記号:mat peptide
存在位置:122..2239
他の情報:産物=「増殖因子受容体αサブユニット」
特徴を表す記号:mat peptide
存在位置:2252..4132
他の情報:産物=「増殖因子受容体βサブユニット」
配列
配列番号:2
配列の長さ:1367
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
配列
配列番号:3
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:4
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:5
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:6
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:7
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:8
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:9
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:10
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:11
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:12
配列の長さ:39
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:13
配列の長さ:12
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
配列番号:14
配列の長さ:150
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:不明
配列の種類:DNA(ゲノム)
配列
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1995年5月19日
【補正内容】
請求の範囲
1.内因性のIGF−I受容体のIGF−I受容体機能に比較して修飾された
IGF−I受容体機能を有するIGF−I受容体のサブユニットをコードし,配
列番号2に掲げたアミノ酸配列をコードする配列を含む組み換えポリ核酸におい
て,アミノ酸残基943,957または1003の少なくとも1個が内因性IG
F−Iサブユニットの相当する残基と異なる残基で置換されていることを特徴と
する上記組み換えポリ核酸。
2.IGF−I受容体機能はチロシンキナーゼ活性である「請求項1」に記載
の組み換えポリ核酸。
3.チロシンキナーゼ活性は自己リン酸化である「請求項2」に記載の組み換
えポリ核酸。
4.チロシンキナーゼ活性は細胞内基質のリン酸化である「請求項2」に記載
の組み換えポリ核酸。
5.配列はIGF−I受容体のβサブユニットをコードする「請求項1」に記
載の組み換えポリ核酸。
6.配列は更にIGF−I受容体のαサブユニットをコードする「請求項5」
に記載の組み換えポリ核酸。
7.アミノ酸残基943はアラニンである「請求項1」に記載の組み換えポリ
核酸。
8.アミノ酸残基950はシステイン,セリン,アラニン,ロイシンまたはス
レオニンから選択される「請求項1」に記載の組み換えポリ核酸。
9.アミノ酸残基957はアラニンである「請求項1」に記載の組み換えポリ
核酸。
10.アミノ酸残基1003はアラニンである「請求項1」に記載の組み換えポ
リ核酸。
11.配列番号2に掲げた配列の残基711から約929と実質的に同一のアミ
ノ配列をコードする「請求項1」に記載の組み換えポリ核酸。
12.配列番号1の残基2252〜2909と実質的に同一の配列を有する「請
求項1」に記載の組み換えポリ核酸。
13.配列番号1のコドン少なくとも1個が欠失しているかまたは内因性IGF
−I受容体をコードするポリ核酸の相当する残基と異なるコドンで置換されてい
る配列番号1と実質的に同一の配列を含む「請求項1」に記載の組み換えポリ核
酸。
14.ヌクレオチド2975〜2977は終結コドンである「請求項14」に記
載の組み換えポリ核酸。
15.IGF−I受容体サブユニットはさらに内因性IGF−I受容体サブユニ
ットと複合して変異IGF−I受容体を形成するその能力によって特徴づけられ
る「請求項1」に記載の組み換えポリ核酸。
16.「請求項1」のポリ核酸を含有するベクター。
17.「請求項1」に記載のポリ核酸を含有する細胞。
18.「請求項17」に記載のベクターを含有する細胞。
19.「請求項1」のポリ核酸によってコードされる配列を含むポリペプチド。
20.「請求項1」の組み換えポリ核酸によってコードされるIGF−I受容体
サブユニット。
21.内因性のIGF−I受容体のIGF−I受容体機能に比較して修飾された
IGF−I受容体機能を有することによって特徴づけられる「請求項20」に記
載の変異IGF−I受容体サブユニット。
22.IGF−I受容体機能はチロシンキナーゼ活性である「請求項21」に記
載の変異IGF−I受容体サブユニット。
23.変異受容体はさらに内因性のIGF−I受容体サブユニットと複合して変
異IGF−I受容体を形成するその能力を特徴とする「請求項21」に記載の変
異IGF−I受容体サブユニット。
24.「請求項21」の変異IGF−I受容体サブユニットを含むIGF−I受
容体。
25.IGF−I受容体誘導リガンド依存性の細胞の腫瘍形成を阻害するための
「請求項20〜23」に記載の変異IGF−I受容体の使用。
26.細胞を変異IGF−I受容体サブユニットと,(a)変異IGF−I受容
体のサブユニットをコードする組み換えポリ核酸を細胞に導入し,(b)工程(
a)の産物を,変異IGF−I受容体サブユニットを発現させるのに適当な条件
下に維持することによって接触させる「請求項25」に記載の使用。
27.組み換えポリ核酸はcDNAである「請求項26」に記載の使用。
28.細胞は哺乳類細胞である「請求項26」に記載の使用。
29.哺乳類細胞はヒト細胞である「請求項28」に記載の使用。
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
C12R 1:91)
(C12P 21/02
C12R 1:91)