明 細 書
Skp— 2発現抑制を利用した癌の治療
技術分野
[0001] 本発明は、 RNAi (RNA interference : RNA干渉)法を利用するものであって、 Skp _2遺伝子の発現を抑制することができる二本鎖 RNA (siRNA : small interfering RNA)、二本鎖 RNAを発現することができる二本鎖 RNA発現カセット、二本鎖 RNA 発現カセットを含む二本鎖 RNA発現ベクター、及び、これらを有効成分とする小細 胞肺癌等の癌の予防'治療剤や、これらを投与することからなる小細胞肺癌等の癌 の予防'治療方法などに関する。
背景技術
[0002] 多くの悪性腫瘍で見られる細胞周期調節機構の障害は、癌細胞の無制御な増殖 に直結している。サイクリン依存性キナーゼ(cdk)インヒビターである p27Kiplは、 G1 後期(DNA合成準備期間後期)から S期(DNA合成期)におけるサイクリン E/cdk2 複合体の活性を抑制して、 G1期から S期の移行を阻害する(例えば、 T. Cell, 78: 67-74, 1994参照)。胃ガン、乳ガン及び直腸ガンを含む多くの悪性腫瘍において、 p 27Kiplの発現低下が、腫瘍の予後不良及び腫瘍の非常に活動的な性質と関連して レヽることが報告されている(例えば、 Cancer Res., 62: 3819-3825, 2002参照)。 p27 Kiplタンパク質レベル力 S、ュビキチン一プロテアソームによるタンパク分解によって主に 制御されているので、 p27Kiplの分解の増進は、悪性腫瘍における p27Kiplの発現低下 の重要な原因であると思われている(例えば、 Nature, 396: 177-180参照)。 F-box タンパク質ファミリーのメンバーである Skp_2 (S_phase kinase- associated protein 2 (p45))は、 SCFュビキチン一タンパク質リガーゼ複合体の特異的基質認識サブュニッ トであり、 p27Kiplの分解に関与している(例えば、 Nature Cell Biol. 1: 207-214, 1999 参照)。 Skp_2の発現上昇は、小細胞肺ガン(SCLC) (例えば、 American J. Pathol. 161: 207-216, 2002参照)、 口腔扁平上皮癌(例えば、 Pro Natl. Acad. ScL , USA, 98: 5043-5048, 2001参照)、リンパ腫(例えば、 Proc. Natl. Acad. Sci" USA, 98: 2515-2520, 2001参照)又は胃ガン(例えば、 Cancer Res., 62: 3819-3825, 2002参
照)を含む多くのガンで報告されている。 p27Kiplのレベルは、これらのガンにおいて は、逆に低下していた。これらの腫瘍においては、 Skp-2の発現上昇力 p27Kiplタン パク質レベルの減少に関与している可能性が示唆される。 SCLCの 44%の症例で、 5pl l_l領域(amplicon)の遺伝子増幅に伴い、 Skp_2遺伝子の発現上昇が認めら れ、 p27Kiplの発現低下を伴っていた(例えば、 American J. Pathol. 161: 207-216, 2002参照)。
[0003] 生物の発生過程において、細胞は増殖と生死を厳密に制御されながら、様々な形 質を持った細胞へと分化していく。また発生後の成体においても、個々の細胞の増 殖-分化 ·細胞死は、個体としての恒常性を保っために厳密に制御されている。つま り、個々の細胞運命は、ホルモン、神経伝達物質、細胞増殖因子、サイト力インなど の細胞外シグナルが細胞膜上の受容体を介して細胞内に正確に伝達することでコン トロールされている。細胞外シグナルを細胞内の核に伝達し、遺伝情報の制御に至 る機構を細胞内シグナル伝達機構と呼び、この機構での細胞内におけるタンパク間 相互作用の連続反応を細胞内シグナル伝達経路という。この細胞内シグナル伝達経 路は、上流のシグナルを受けて活性型となり、下流にシグナルを伝達した後に不活 性型に戻るということを繰り返しながら、シグナルを伝達している。
[0004] 細胞内シグナル伝達系の一つであるマイトジヱン活性化タンパク質キナーゼ(MA PK)経路は、細胞の増殖 ·分化シグナルに重要な役割を果たしている。 MAPKは分 子量約 4万のタンパク質リン酸化酵素であり、さまざまな真核生物の細胞種で MAP キナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)→MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)→ MAPキナーゼ(MAPK)のリン酸化カスケードを形成している。このカスケードは、原 癌遺伝子 rasの下流で活性化し、細胞増殖シグナルとして働くだけでなぐ細胞分化 、細胞増殖停止、あるいは細胞運動性亢進を誘導する。また、多くの癌細胞におい ては MAPK系の恒常的機能亢進が認められるため、その特異的阻害が制癌につな 力 ¾と考えられている。
[0005] MAPK経路は、悪性黒色腫においても MPKKKの一つである BRAFの点突然変 異が高頻度に検出されており(66%)、癌化との関連性が示唆されており、変異はす ベて、キナーゼドメインの活性化領域内部か隣接するところに見られ、頻出する変異
のレヽくつ力 (V599E、 L596E, G463V、 G468A)の角军析により、変異によって BRA Fのキナーゼ活性が増し、結果として ERKが活性化すること、さらに、変異 BRAFが NIH3T3細胞のトランスフォーメーション能を有することが報告(例えば、 Nature, 417, 949-954, 2002参照。)されている。また、多くの悪性黒色腫細胞株や悪性黒色 腫組織において、恒常的に MAPK活性の亢進が報告(例えば、 Cancer Research, 63, 756-759, 2003参照。)されている。これらの報告は、変異 BRAFが悪性黒色腫の 発生に深く関連する癌遺伝子であり、悪性黒色腫治療の分子標的になりうることを示 唆する。しかし、上記のアツセィ系においては、生理的発現レベルを遥かに超えた過 剰量の変異 BRAFの機能を検出しているため、内在性の異変 BRAFが MAPKに与 える影響や癌化との関連性については依然として不明である。
[0006] また、 Skp_2発現上昇と BRAF変異が、肺癌、口腔扁平上皮癌、リンパ腫、胃癌、 大腸癌、悪性黒色腫、脳腫瘍、大腸癌、肺癌、卵巣癌、肉腫、甲状腺癌などの多くの 癌に共通に認められることも報告されている(例えば、 Cancer Res., 62: 3819-3825, 2002, American J. Pathol. 161: 207-216, 2002, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 98: 5043-5048, 2001, Proc. Natl. Acad. Sci" USA, 98: 2515-2520, 2001, Nature, 417, 949-954, 2002参照)。
[0007] 一方、ある種の生物(線虫: Caenorhabditis elegans)では、二本鎖 RNA (double
-strand RNA : ds RNA)によって遺伝子の発現を特異的に阻害できることが見い出さ れている(例えば、国際公開第 W099/32619号パンフレット、 Nature, 391,
806-811, 1998参照。)。この現象は、ある遺伝子と相同な、センス RNAとアンチセン ス RNAからなる dsRNA力 その遺伝子の転写産物(mRNA)の相同部分を破壊す るという現象で、 RNAi (RNA interference : RNA干渉)と呼ばれている。この現象は、 その後、種々の動物(例えば、 Cell, 95, 1017-1026, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 14687-14692, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 5049-5054, 1999参 照。)や、植物(例えば、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 13959-13964, 1998参照。 ) を含む下等な真核細胞において見い出されている。
[0008] RNAiは、発見された当初、哺乳動物細胞においては、約 30bp以上の dsRNAを 細胞内へ導入すると、インターフェロン応答の誘導による非特異的な遺伝子発現抑
制が生じるために、 RNAiによる特異的な遺伝子発現阻害が観察されなくなるため、 哺乳動物細胞での利用は困難と思われていた。しかし、 2000年にマウス初期胚ゃ 哺乳動物培養細胞においても RNAiが起こりうることが示され、 RNAiの誘導機構そ のものは、哺乳動物細胞にも存在することが明らかとなった (例えば、国際公開第 W O01Z36646号パンフレット、 FEBS Lett, 479, 79-82, 2000参照。)。
[0009] このような RNAiの機能を利用して、哺乳動物においてもある特定の遺伝子又は遺 伝子群の発現を阻害することができれば有益であることは明らかである。多くの疾病( 癌、内分泌疾患、免疫疾患など)は、哺乳動物の中で、ある特定の遺伝子又は遺伝 子群が異常発現することによって起こるので、遺伝子又は遺伝子群の阻害は、これら の疾病を治療するために使用することができる。また、変異型タンパク質の発現に起 因して疾病が発症することもあり、このような場合には、変異した対立遺伝子の発現を 抑えることで、疾病の治療が可能となる。さらに、このような遺伝子特異的な阻害は、 例えば、 HIVなどのレトロウイルス(レトロウイルス中のウィルス遺伝子は、それらの宿 主のゲノム中に組み込まれて、発現される。)によって引き起こされるウィルス疾患を 治療するためにも使用できるとレ、われてレ、る。
[0010] RNAiの機能を引き起こす dsRNAは、当初、約 30bp以上の dsRNAの細胞内へ の導入が必要と考えられていた力 最近、更に短い(21— 23bp) dsRNA (siRNA: small interfering RNA)力 哺乳動物細胞系でも細胞毒性を示さずに RNAiを誘導で きることが明らかになった(例えば、 Nature, 411, 494-498, 2001参照。)。 siRNAは、 体細胞の全ての発生段階において遺伝子の発現を抑制する強力な手段として認識 されており、進行性の遺伝病等において、発病する前に、病気の原因となる遺伝子 の発現を抑制する方法として期待できる。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0011] 本発明の課題は、 RNAi法を利用して、 Skp-2遺伝子の発現を抑制することができ る二本鎖 RNA(siRNA)、二本鎖 RNAを発現することができる二本鎖 RNA発現力 セット、二本鎖 RNA発現カセットを含む二本鎖 RNA発現ベクター、 Skp_2を分子標 的とする安全性の高い小細胞肺癌等の癌特異的治療薬や治療法を提供することに
ある。
課題を解決するための手段
[0012] Skp_2は、 P27Kipl、 p21又は c一 myc等の複数の細胞周期調節因子の分解に関与 してレ、る。多くのガンにおける Skp_2の発現上昇は、細胞周期の調節障害の重要な メカニズムの 1つであると考えられている。そこで本発明者らは、 SCLCの発生におけ る Skp-2の役割を解明し、 Skp-2が、ガン治療の優れた分子標的となりうるかどうか を調べる目的で、ウィルスを介した Skp-2特異的 RNA干渉(RNAi)を作用させるこ とにより、癌の形質に与える変化の解析を試みた。レンチウィルスを介した Skp— 2特 異的 RNAiは、 Skp_2の発現上昇を伴った小細胞肺ガン細胞株である ACC_LC_ 172の内在性 Skp_2タンパク質レベルの抑制と同時に、インビト口での増殖活性を 低下させた。 RNAiを介しての Skp_2のタンパク質レベルの抑制は、 p27Kipl及び p2 1の上昇と相関していたが、 myc転写活性の不活性化は誘導していなかった。同様 にアデノウイルスを介した Skp-2特異的 RNAiは、 ACC-LC-172皮下腫瘍のイン ビボの増殖を抑制した。これらの結果は、 Skp— 2の RNAiは、ガンの遺伝子治療の 有用な治療方法となる可能性を示唆している。また、本発明者らは、先に RNAi法を 利用して、変異 BRAF (V599E)遺伝子等の BRAF遺伝子の発現を抑制することが できる二本鎖 RNA (siRNA)を利用した癌の治療方法を提案(特願 2004—124485 )しており、 BRAFの変異と Skp_2の発現上昇を示す悪性黒色腫細胞株に対して、 変異 BRAF (V599E)特異的 RNAiと Skp_2特異的 RNAiとの同時併用により、各 単独使用に比べて、有意に細胞増殖と細胞浸潤能が抑制されることを見い出した。 本発明は以上の知見に基づいて完成するに至ったものである。
[0013] すなわち本発明は、(1) Skp— 2遺伝子の発現を抑制することができる、 Skp-2 m RNAの標的となる特定配列に相同なセンス鎖 RNAとアンチセンス鎖 RNAからなる ことを特徴とする二本鎖 RNAや、(2)変異 Skp— 2 mRNAの標的となる特定配列が 、配列表の配列番号 2に示される塩基配列に由来する RNA及びその相補配列から なることを特徴とする上記(1)記載の二本鎖 RNAや、 (3) Skp-2 mRNAの標的とな る特定配列が、配列表の配列番号 3に示される塩基配列に由来する RNA及びその 相補配列からなることを特徴とする上記(1)記載の二本鎖 RNAや、(4) Skp— 2 mR
NAの標的となる特定配列力 19一 24bpの塩基配列であることを特徴とする上記(1 )一 (6)のレ、ずれか記載の二本鎖 RNAに関する。
[0014] また本発明は、(5)上記(1)一(4)のいずれか記載の二本鎖 RNAを発現すること ができる、 Skp_2遺伝子の特定配列のセンス鎖 DNA—リンカ一—アンチセンス鎖 DN Aからなることを特徴とする二本鎖 RNA発現カセットや、 (6)配列表の配列番号 4に 示される塩基配列からなることを特徴とする上記(5)記載の二本鎖 RNA発現カセット や、(7)配列表の配列番号 5に示される塩基配列からなることを特徴とする上記(5) 記載の二本鎖 RNA発現カセットや、(8)上記(5) (7)のいずれか記載の二本鎖 R NA発現カセットがプロモーターの下流に連結されていることを特徴とする二本鎖 RN A発現ベクターや、 (9) HIVレンチウィルスベクター又はアデノウイルスベクターであ ることを特徴とする上記(8)記載の二本鎖 RNA発現ベクターに関する。
[0015] さらに本発明は、(10)上記(1)一(4)のいずれか記載の二本鎖 RNA、上記(5)
(7)のいずれか記載の二本鎖 RNA発現カセット、又は、上記(8)若しくは(9)記載の 二本鎖 RNA発現ベクターを有効成分とすることを特徴とする Skp - 2遺伝子の発現 抑制剤や、(11)上記(1)一(4)のいずれか記載の二本鎖 RNA、上記(5)—(7)の いずれか記載の二本鎖 RNA発現カセット、又は、上記(8)若しくは(9)記載の二本 鎖 RNA発現ベクターを有効成分として含有することを特徴とする癌の予防及び/又 は治療剤や、(12)癌が、 Skp - 2遺伝子の発現亢進に起因する癌又は Skp - 2遺伝 子の発現亢進を伴う癌であることを特徴とする上記(11)記載の癌の予防及び/又は 治療剤や、(13)癌が、小細胞肺ガン(SCLC)であることを特徴とする上記(11)記載 の癌の予防及び/又は治療剤や、(14)上記(1)一 (4)のいずれか記載の二本鎖 R NA、上記(5)—(7)のいずれか記載の二本鎖 RNA発現カセット、又は、上記(8)若 しくは(9)記載の二本鎖 RNA発現ベクターを、生体、組織又は細胞に導入すること を特徴とする Skp - 2遺伝子の発現抑制方法や、 (15)上記(1)一 (4)のレ、ずれか記 載の二本鎖 RNA、上記(5)—(7)のいずれか記載の二本鎖 RNA発現カセット、又 は、上記(8)若しくは(9)記載の二本鎖 RNA発現ベクターを、生体、組織又は細胞 に導入することを特徴とする癌の予防及び Z又は治療方法や、(16)癌が、 Skp - 2 遺伝子変異又は発現亢進に起因する癌又は Skp - 2遺伝子の発現亢進を伴う癌で
あることを特徴とする上記(15)記載の癌の予防及び/又は治療方法や、(17)癌が 、小細胞肺ガン (SCLC)であることを特徴とする上記(15)記載の癌の予防及び/又 は治療方法や、(18)上記(1)一(4)のいずれか記載の二本鎖 RNA、上記(5)—(7 )のいずれか記載の二本鎖 RNA発現カセット、又は、上記(8)若しくは(9)記載の二 本鎖 RNA発現ベクターを、生体、組織又は細胞に導入することを特徴とする癌の予 防及び/又は治療方法や、(19)癌が、 Skp - 2遺伝子変異又は発現亢進に起因す る癌又は Skp_2遺伝子の発現亢進を伴う癌であることを特徴とする上記(15)記載の 癌の予防及び Z又は治療方法や、 (20)癌が、小細胞肺ガン(SCLC)であることを 特徴とする上記(18)記載の癌の予防及び Z又は治療方法や、(21)以下の(1)と(2 )を、生体、組織又は細胞に導入することを特徴とする癌の予防及び/又は治療方 法、
(1)請求項 1一 4のいずれか記載の二本鎖 RNA、請求項 5 7のいずれか記載の二 本鎖 RNA発現カセット、又は、請求項 8若しくは 9記載の二本鎖 RNA発現ベクター
(2)変異 BRAF遺伝子の発現を抑制することができる、 BRAF mRNAの標的と なる特定配列に相同なセンス鎖 RNAとアンチセンス鎖 RNAからなる二本鎖 RNA、 前記二本鎖 RNAを発現することができる、 BRAF遺伝子の特定配列のセンス鎖 DN A—リンカ一一アンチセンス鎖 DNAからなる二本鎖 RNA発現カセット、又は、前記二 本鎖 RNA発現カセットがプロモーターの下流に連結されている二本鎖 RNA発現べ クタ一に関する。
発明の効果
実施例の結果からもわかるように、 RNA干渉法による Skp— 2発現の特異的抑制は 、 p27Kiplの蓄積及び G1期における細胞周期の停止を導き、強力な増殖抑制効果を もたらすことが示された。したがって、本発明の癌の予防'治療剤等は、インビトロで の細胞増殖抑制効果、及びインビボにおける増殖抑制効果を有することから、有用 な遺伝子治療薬として期待できる。また、本発明の Skp— 2特異的な siRNAは、 Skp -2発現レベルの低レ、細胞 (293T細胞、線維芽細胞など)に対しては、増殖抑制効果 を殆ど示さなかったことから、癌細胞に選択的に作用する効果が期待できるため、安 全性の高い分子標的治療法に用いることが期待できる。また、これらの siRNAは、医
療分野への応用のみならず、細胞周期の調節やその障害の基礎研究における道具 としても、極めて有用性が高い。さらに、変異 BRAF (V599E)特異的 RNAiと Skp- 2特異的 RNAiとの同時併用は、変異 BRAF (V599E)遺伝子と Skp-2遺伝子過剰 発現の両者を有する癌に対して安全性の高い分子標的治療法として有用である。 発明を実施するための最良の形態
[0017] 本発明の二本鎖 RNAとしては、 Skp-2遺伝子の発現を抑制することができる、 Sk p-2 mRNAの標的となる特定配列に相同なセンス鎖 RNAとアンチセンス鎖 RN A力 なる二本鎖 RNAであれば特に制限されるものではなぐ上記 Skp— 2遺伝子の 由来としては特に限定されないがヒト由来の Skp-2遺伝子が好ましい。かかる Skp- 2遺伝子としては、配列表の配列番号 1に示される塩基配列からなる Skp - 2遺伝子 を列示すること力 Sできる。
[0018] 上記 Skp— 2 mRNAの標的となる特定配列とは、 Skp-2 mRNAの特定の領域の 部分配列、好ましくは 19一 24bpの塩基長の部分配列をレ、い、力力る Skp— 2 mRN Aの標的配列としては、 Skp-2 mRNAに特異的配列であることが好ましい 。かかる Skp— 2 mRNAの標的配列としては、配列表の配列番号 2に示される塩基 配列 ATCAGATCTCTCTACTTTA (配列番号 1に示される塩基配列の 949一 967番 目の 19mer)に由来する RNA及びその相補配列からなる二本鎖 RNAや、配列表の 配列番号 3に示される塩基配列 AGGTCTCTGGTGTTTGTAA (配列番号 1に示され る塩基配列の 408— 426番目の 19mer)に由来する RNA及びその相補配列力 なる 二本鎖 RNAを具体的に例示することができる。
[0019] また、 Skp_2 mRNAの標的となる特定配列に相同なセンス鎖 RNAとは、例え ば上記配列番号 2や 3に示される DNA配列由来の RNAをいい、 Skp-2 mRNA の標的となる特定配列に相同なアンチセンス鎖 RNAとは、上記センス鎖 RNAと相補 的 RNAをいい、本発明の二本鎖 RNAは、通常これらセンス鎖 RNAとアンチセンス 鎖 RNA同士が結合した siRNAとして構築される力 便宜上、センス鎖 RNA配列に おいて、 1又は数個の塩基が欠失、置換或いは付加された変異センス鎖 RNA配列と 該変異センス鎖 RNA配列に相補的な変異アンチセンス鎖 RNA配列との siRNAとし て構築した二本鎖 RNAも本発明の範囲に含まれる。上記「1又は数個の塩基が欠失
、置換或いは付加された塩基配歹 l とは、例えば 1一 5個、好ましくは 1一 3個、より好 ましくは 1一 2個、さらに好ましくは 1個の任意の数の塩基が欠失、置換或いは付加さ れた塩基配列を意味する。
[0020] 本発明の二本鎖 RNA (dsRNA)を作製するには、合成による方法及び遺伝子組 換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法で は、配列情報に基づき、常法により二本鎖 RNAを合成することができる。また、遺伝 子組換え技術を用いる方法では、センス鎖 DNAやアンチセンス鎖 DNAを組み込ん だ発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入後、転写により生成されたセ ンス鎖 RNAやアンチセンス鎖 RNAをそれぞれ取得することによって作製することも できるが、 Skp_2遺伝子の特定配列のセンス鎖 DNA—リンカ一—アンチセンス鎖 DN Aからなる二本鎖 RNA発現カセットを構築し、該ニ本鎖 RNA発現カセットを発現べ クタ一のプロモーターの下流に連結し、インビボでの発現'構築により所望の二本鎖 RNAを作製することが好ましい。
[0021] Skp— 2遺伝子の特定配列のセンス鎖 DNA—リンカ一一アンチセンス鎖 DNAからな る上記本発明の二本鎖 RN A発現カセットとしては、 TTC AAGAGAをリンカ一配列とし た、配列表の配列番号 4に示される塩基配歹 IJATCAGATCTCTCTACTTTA
TTCAAGAGA TAAAGTAGAGAGATCTGAT tttttからなる二本鎖 RNA発現カセッ トゃ、配列表の配列番号 5に示される塩基配列 二本鎖 RNA発現カセットを具体的に例示することができる。これら二本鎖 RNA発現 カセットは、宿主細胞内で転写されると、センス鎖 DNAに相当するセンス鎖 RNAと、 アンチセンス鎖 DNAに相当するアンチセンス鎖 RNAとからなる二本鎖 RNAを形成 すること力 Sできる。
[0022] また、二本鎖 RNA発現カセットをプロモーターの下流に揷入することができる発現 ベクターとしては、例えば、マウス白血病レトロウイルスベクター(Microbiology and Immunology, 158, 1-23, 1992)や、アデノ随伴ウィルスベクター(Curr. Top.
Microbiol. Immunol, 158, 97-129, 1992)や、アデノウイルスベクター(Science, 252, 431-434, 1991)や、リボソーム等を具体的に挙げることができる力 非分裂細胞にも
効率よく長期発現が可能であるという特徴を有する HIVレンチウィルスベクターや、 高いウィルス力価でインビボでの遺伝子導入が可能なアデノウイルスベクターの利用 が考えられる。また、これら発現系は、発現を起こさせるだけでなぐ発現を調節する 制御配列を含んでいてもよレ、。これらの発現ベクターへの二本鎖 RNA発現カセット の導入は常法によって行うことができ、例えばこれら発現ベクター中の適当なプロモ 一ター(U6プロモーター等)の下流に、標的 mRNAと相補的な配列のセンス鎖 DN A—リンカー配歹 IJ一アンチセンス鎖 DNA力、らなる二本鎖 DNAを揷入することにより本 発明の二本鎖 RNA発現ベクターを構築することができる。
[0023] 本発明の Skp— 2遺伝子の発現抑制剤や、本発明の癌の予防及び/又は治療剤と しては、(1)上記本発明の二本鎖 RNA、本発明の二本鎖 RNA発現カセット、又は、 本発明の二本鎖 RNA発現ベクターを有効成分とするものであれば特に制限されるも のではなぐまた、本発明の Skp_2遺伝子及び変異 BRAF (V599E)遺伝子の発現 抑制剤や、本発明の癌の予防及び/又は治療剤としては、上記(1)本発明の二本 鎖 RNA、本発明の二本鎖 RNA発現カセット、又は、本発明の二本鎖 RNA発現べク ターと(2)変異 BRAF遺伝子の発現を抑制することができる、 BRAF mRNAの標的 となる特定配列に相同なセンス鎖 RNAとアンチセンス鎖 RNAからなる二本鎖 RNA 、前記二本鎖 RNAを発現することができる、 BRAF遺伝子の特定配列のセンス鎖 D NA—リンカ一—アンチセンス鎖 DNA力 なる二本鎖 RNA発現カセット、又は、前記 二本鎖 RNA発現カセットがプロモーターの下流に連結されている二本鎖 RNA発現 ベクター、とを有効成分とするものであれば特に制限されるものではなぐこれら発現 抑制剤や癌の予防'治療剤を哺乳動物の生体、組織、細胞等に投与又は導入する に際しては、この分野で通常用いられる薬学的に許容される担体、結合剤、安定化 剤、賦形剤、希釈剤、 pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各 種調剤用配合成分とともに用いることができる。該薬学的に許容される担体とともに 用いる薬学的組成物は、その投与形態、例えば経口(口腔内又は舌下を含む)投与 、或いは非経口投与 (注射剤等)等に合わせて、薬学の分野ではそれ自体周知の製 剤形態で製剤化することができる。
[0024] また、本発明の Skp— 2遺伝子の発現抑制方法や、本発明の癌の予防及び Z又は
治療方法としては、(1)上記本発明の二本鎖 RNA、本発明の二本鎖 RNA発現カセ ット、又は、本発明の二本鎖 RNA発現ベクターを、哺乳動物の生体、組織又は細胞 に導入する方法であれば特に制限されるものではなぐまた、本発明の Skp— 2遺伝 子及び変異 BRAF (V599E)遺伝子の発現抑制方法や、本発明の癌の予防及び Z 又は治療方法としては、上記(1)本発としては、上記(1)本発明の二本鎖 RNA、本 発明の二本鎖 RNA発現カセット、又は、本発明の二本鎖 RNA発現ベクターと(2)変 異 BRAF遺伝子の発現を抑制することができる、 BRAF mRNAの標的となる特定配 列に相同なセンス鎖 RNAとアンチセンス鎖 RNAからなる二本鎖 RNA、前記二本鎖 RNAを発現することができる、 BRAF遺伝子の特定配列のセンス鎖 DNA—リンカ一 —アンチセンス鎖 DNAからなる二本鎖 RNA発現カセット、又は、前記二本鎖 RNA 発現カセットがプロモーターの下流に連結されている二本鎖 RNA発現ベクター、とを 哺乳動物の生体、組織又は細胞に導入する方法であれば特に制限されるものでは なぐこれら二本鎖 RNA、二本鎖 RNA発現カセット、又は、二本鎖 RNA発現べクタ 一の哺乳動物の生体、組織又は細胞への導入方法としては、経口的又は非経口的 に投与する方法を挙げることができる。例えば、通常用いられる投与形態、例えば粉 末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ 、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投 与することができる他、スプレー剤の型で鼻孔内投与することもできる。また、投与量 は、疾病の種類、患者の体重、投与形態等により適宜選定することができる。
[0025] 本発明の癌の予防'治療剤や本発明の癌の予防'治療方法の対象となる癌として は、 Skp - 2遺伝子の発現亢進に起因する癌や又は Skp - 2遺伝子の発現亢進を伴う 癌を例示することができ、より具体的には、小細胞肺癌の他、悪性黒色腫、大腸癌、 肺癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、甲状腺癌等を挙げることができる。また、本発明の癌 の予防'治療剤や本発明の癌の予防'治療方法の対象となる癌としては、 Skp - 2遺 伝子の発現亢進及び BRAF遺伝子の変異が共通に認められる癌を例示することが でき、より具体的には、肺癌、口腔扁平上皮癌、リンパ腫、胃癌、大腸癌、悪性黒色 腫、脳腫瘍、大腸癌、肺癌、卵巣癌、肉腫、甲状腺癌等を挙げることができる。
[0026] 上記変異 BRAF (V599E)遺伝子の発現を抑制することができる、 BRAF mRNA
の標的となる特定配列に相同なセンス鎖 RNAとアンチセンス鎖 RNAからなる二本 鎖 RNAとしては、ヒト由来の変異 BRAF遺伝子が好ましぐ力かる変異 BRAF遺伝 子としては、 V599E、 L596E、 G463V、 G468Aで示される変異 BRAFの遺伝子 D NAを具体的に例示することができるが、悪性黒色腫の発生に深く関与している配列 表の配列番号 10に示される塩基配列からなる変異 BRAF (V599E)遺伝子(BRAF 遺伝子の 1857番目の Tが Aに置換された変異遺伝子)を特に好適に例示することが できる。
[0027] 上記 BRAF mRNAの標的となる特定配列とは、 BRAF mRNAの特定の領域の 部分配列、好ましくは 19一 21bpの塩基長の部分配列をレ、い、かかる BRAF mRN Aの標的配列としては、 BRAFmRNAに特異的配列が好ましい力 S、変異 BRAF mR NAの変異部位を含む標的配列であることが特に好ましい。かかる変異 BRAF mR NAの変異部位を含む標的配列として、変異 BRAF (V599E)遺伝子の変異部分を 含む、配列表の配列番号 11に示される塩基配列 GCT ACA GaG AAA TCT CGA T (配列番号 10に示される塩基配列の 1850— 1868番目の 19mer)に由来する RNA 及びその相補配列からなる二本鎖 RNAを具体的に例示することができる。また、変 異 BRAF遺伝子の変異部位を含む特定配列ではないが、 BRAF mRNAの発現を 抑制することができる標的配列として、配列表の配列番号 12に示される塩基配列 GCC ACA ACT GGC TAT TGT TA (配列番号 10に示される塩基配列の 1624—1 643番目の 20mer)に由来する RNA及びその相補配列からなる二本鎖 RNAや、配 列表の配列番号 13に示される塩基配列(配列番号 10に示される塩基配列の 1669 一 1689番目の 21mer)に由来する RNA及びその相補配列からなる二本鎖 RNAを 具体的に例示することができる。
[0028] BRAF遺伝子の特定配列のセンス鎖 DNA—リンカ" ~_アンチセンス鎖 DNAからな る上記二本鎖 RNA発現カセットとしては、 TTCAAGAGAをリンカ一配列とした、配列 表の配列番号 14に示される塩基配列 GCT ACA GaG AAA TCT CGA T
TTCAAGAGA ATC GAG ATT TCt CTG TAG C tttttからなる二本鎖 RNA発現力 セットや、配列表の配列番号 15に示される塩基配列 GCC ACA ACT GGC TAT TGT TA TTCAAGAGA TA ACA ATA GCC AGT TGT GGC tttttからなる二本鎖 R
NA発現カセットや、配列表の配列番号 16に示される塩基配列 GTA TCA CCA TCT CCA TAT CAT TTCAAGAGA ATG ATA TGG AGA TGG TGA TAC tttttカゝ らなる二本鎖 RNA発現カセットを具体的に例示することができる。これら二本鎖 RN A発現カセットは、宿主細胞内で転写されると、センス鎖 DNAに相当するセンス鎖 R NAと、アンチセンス鎖 DNAに相当するアンチセンス鎖 RNAと力もなる二本鎖 RNA を形成すること力 Sできる。
[0029] その他、 BRAF mRNAの標的となる特定配列に相同なセンス鎖 RNAの意味する ところは、前記 Skp— 2における場合と同様である。また、 BRAF二本鎖 RNA(dsRN A)の作製方法や、二本鎖 RNA発現カセットをプロモーターの下流に揷入することが できる発現ベクターの作製方法については、前記 Skp_2における場合と同様である
[0030] 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこ れらの例示に限定されるものではない。なお、全ての統計学的分析を、 unpaired Student- 1 testに従ってィ了った。
実施例 1
[0031] [細胞株]
日本人の小細胞肺ガン患者より樹立した ACC—LC—172細胞株(愛知ガンセンタ 一研究所、高橋博士より供与)を、 10% (vZv)のゥシ胎児血清、ペニシリン及びスト レプトマイシンを添加した RPMI1640 (Sigma社製)内で維持した。 293T細胞及び 8 種類の悪性黒色腫糸田胞株(Skmel23, A375, 888, 397, 526, 624, 928, 1363 )は、 American Type Culture Collection (ATCC)から購入し、 10% (v/v)のゥシ胎 児血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを添加した DMEM (Sigma社製)内で維持した 実施例 2
[0032] [HIVベクター]
siRNA発現用の HIVベクターは、文献(J. Gene Med., 2004)記載の通り、 HIV— U 6i— GFPプラスミドを基として構築された。簡潔に言うと、 HIV— U6i— GFPは、 2つの 発現ユニットを有する。 1つは、 siRNA発現カセットであり、ショートヘアピン RNAがヒ
ト U6プロモーターから転写される発現ユニットであり、 2つ目は、 GFP発現カセットで あり、 GFP遺伝子が CMVプロモーター力ら転写される発現ユニットである。 siRNAを 発現するために、ターゲット配列用にインビトロでァニールした相補オリゴヌクレオチド を、ヒト U6プロモーターの 2つの BspMIサイトに揷入した。
[0033] (Skp_2を標的とする siRNA発現レンチウィルスベクター)
Skp_2mRNA上に、 siRNAターゲット配列を 2箇所選択した;(S2) の相補オリゴヌクレオチド cacc_(target sense)- TTCAAGAGA_(target
antisense)_TTTT及ひ gcatAAAAA_(target sense)— TCTCTTGAA_(target antisense を、各ターゲット配列用に合成し、インビトロでァニールした。この二本鎖 (ds)オリゴヌ クレオチドは、 HIV_U6i_GFPプラスミド内の U6プロモーター下流に存在する 2つの BspMIサイトに対し相補的な 5'突出末端を有しており、これにより、容易に HIV— U6 i一 GFP内の siRNA発現カセット内に挿入が可能である。コントロールベクターの GL 3BsiRNA (蛍ルシフェラーゼに対する siRNA) HIVベクターも、ターゲット配列
GTGCGCTGCTGGTGCCAAC (配列番号 6)で構築した。黒色腫で頻繁に変異する BRAFの mRNA (Skp-2)用の突然変異特異的抗 BRAFsiRNA HIVベクター(タ 一ゲット; GCTACAGAGAAATCTCGATGG;配列番号 7)は、レポーターアツセィでコ ントロールとして用いた。これらの HIVベクターからは、センス鎖とアンチセンス鎖が、 リンカ一配列(TTCAAGAGA)の箇所でループ構造を形成して、ショートヘアピン RN Aを形成した後、 Dicerによりリンカ一が除去されて、 siRNAが形成される。 HIVベクタ 一の作製に当たっては、 293T細胞に対して、 HIVプラスミドベクター、 pMD.G ( VSV-G env発現プラスミド)、 pMDLg/p.RRE (第 3世代パッケージングプラスミド)及 び pRSV Rev (Rev発現プラスミド)(後述の 2つのプラスミドは、 Cell Genesys力 提供 された)を、リン酸カルシウム法により、トランスフエクシヨンを行レ、、 48時間後の培養 上清を回収後、濃縮してウィルスベクターとして用いた。ウィルス力価は、 293T細胞 を感染させて測定し、 GFP発現によって算出した。
[0034] (BRAFを標的とする siRNA発現レンチウィルスベクター)
BRAF (V599E) RNA上に、 V599E変異個所を含み、 8番目の塩基が Tから Aに
変異している配列を標的にしている siRNAターゲット配列( # 1 ' ) GCTACAGAGA AATCTCGAT (配列番号 11)を選択した。 Skp_2の場合と同様に、 U6プロモーター の下流の BspMIサイトに、標的 mRNA配列と相同な 19一 21塩基長の cDNA (センス 鎖)、リンカ一配歹' J、センス鎖と相補的な cDNA (アンチセンス鎖)、転写終結シグナ ルの TTTTTからなる合成ヌクレオチドを揷入し、 U6プロモーター力も標的 mRNA 配列と相同なセンス鎖—リンカ一—アンチセンス鎖 RNAが発現できるユニットを作製し た。この RNAは、細胞内で転写された後、リンカ一部分でループを形成して、センス 鎖とアンチセンス鎖の間でステム構造を取り、細胞質内で Dicerによりリンカ一部分が 切断された後 siRNAになる。これらの HIVベクターからは、センス鎖とアンチセンス 鎖力 リンカ一配列(TTCAAGAGA)の箇所でループ構造を形成して、ショートヘアピ ン RNAを形成した後、 Dicerによりリンカ一が除去されて、 siRNAが形成される。 HIV ベクターの作製に当たっては、 293T細胞に対して、 HIVプラスミドベクター、 pMD.G (VSV-G env発現プラスミド)、 pMDLg/p.RRE (第 3世代パッケージングプラスミド)及 び pRSV Rev (Rev発現プラスミド)を、リン酸カルシウム法により、トランスフエクシヨンを 行レ、、 48時間後の培養上清を回収後、濃縮してウィルスベクターとして用いた。ウイ ノレスカ価は、 293T細胞を感染させて測定し、 GFP発現によって算出した。
実施例 3
[インビトロにおける増殖阻害アツセィ]
10万個の ACC—LC—172細胞に対して、 Skp_2 (S2又は S5)又は蛍ルシフェラ ーゼ(GL3B)特異的 siRNA HIVベクターを、 100MOI (multiplicity of infection) で、感染させた。 9日目までの細胞数を、 3日毎にトリパンブルー色素排除 (trypan blue dye exclusion)法で計測した。 3万個の 293T細胞に、コントロール GL3B又は S kp_2 (S5)特異的 siRNA HIVベクターを、 100MOIで感染し、 9日目までの細胞 数を 3日毎に定量した。また、各 5 X 104個の 3種類の悪性黒色腫細胞株(624mel, A375mel, 526mel)に対して、コントロール GL3B, BRAF siRNA # 1,, Skp— 2 siRNA S5または BRAF/Skp— 2 siRNAの四種類の HIVレンチウィルスベクタ 一を 100 MOIで感染させ、 3日毎に細胞数をトリパンブルー色素排除法で、 6日後 又は 9日後まで計測した (n = 3)。
実施例 4
[0036] [ウェスタンブロット分析]
ウェスタンブロットに用いるタンパク質は、インビトロ増殖阻害アツセィで 9日目の培 養細胞を、以下の組成のタンパク溶解液を用いて抽出した(20mM Tris-HCl (pH 7. 5)、 12. 5mM j3 グリセ口リン酸、 2mM EGTA、 10mM NaF、 ImM ベンズ アミド、 1%NP_40、プロテアーゼ阻害剤カクテル(complete、 EDTA- free (Roche社 製)、 ImM Na3V04)。なお、タンパク抽出前に、フローサイトメトリーにより、 GFP発 現が処理群間で同等であることを確認し、遺伝子導入効率の比較性が保たれている ことを確認した。タンパク質濃度は、 DC protein assay kit (Bio-Rad社製)で定量した。 一次抗体として、抗 p45Skp_2抗体(Zymed Laboratories社製)、抗ァクチン抗体( Sigma社製)、抗 p27Kipl抗体(BD Transduction社製)、抗 Rb抗体(Cell Signaling社製 )、抗 p21抗体(Santa Cruz社製)、抗 BRAF抗体、抗 ERK2抗体、抗 ppERK2抗体 を用いた。二次抗体は、 HRP共役抗 IgG抗体を用いて、酵素反応は Super Signal West Femto Maximum Sensitivity Substrate (Pierce社製)で検出し 7こ。
実施例 5
[0037] [細胞周期アツセィ]
インビトロの増殖阻害アツセィで用いた細胞を 9日目に回収し、 CycleTEST PLUS DNA Reagent Kit (Becton Dickinson社製)を用いて、染色した。染色した細胞を、 FACS Calibur (Becton Dickinson社製)で分析後、細胞周期の状態を、 ModFit software (Becton Dickinson社製)で分析した。
実施例 6
[0038] [hTERTレポーターの構築]
0. 4kbのヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーター配列を、ゲノム PCR で、以下のプライマーセットを用いて増幅した;フォーワードプライマー
CGCTGGGGCCCTCGCTGGCGTCCCT (nts— 324力 — 300、翻訳開始部位に対 しての番号;配列番号 8);リバースプライマー
CAGCGGCAGCACCTCGCGGTAGTGG (nts + 48から + 72;配列番号 9)。反応条 件は、 95°Cで 4分間の変性後、 95°Cで 1分間の変性、 70°Cで 1分間のアニーリング
、 72°Cで 1分間の伸長を 27サイクル繰返し、続いて 72°Cで 7分間で完了した。次に 、 PCR産物を、 TA Cloning Kit (Invitrogen社製)の pCRIIベクター内にサブクロー二 ングした。正しい酉己歹 IJを確認、した後、 QuickChange site-directed mutagenesis kit ( STRATAGENE社製)を用いて、翻訳開始コドンを ATGから TTGに変異させた。最後 に、 hTERTプロモーターを、 pGL3- basic vector (Promega社製)内にサブクローニン グした (pGL3_hTERT)。 pGL3- hTERTは、 0. 4kbの hTERTプロモーターの制御下で 、蛍ルシフェラーゼ遺伝子を発現する。
実施例 7
[0039] [レポーターアツセィ]
HIVベクター感染により、 Skp-2 (S5)又は BRAF特異的 siRNAを恒常的に発現 させた ACC— LC— 172細胞 50万個に対して、 1 μ gのゥミシィタケルシフェラーゼ発 現プラスミド PRL-SV40 (Promega社製)及び pGL3_hTERT、 pGL3_Basic、
pGL3_control (Promega社製)のいずれ力 1つの蛍ルシフェラーゼ発現プラスミド 1 μ g とともに、リポフエクタミン(Invitrogen社製)でトランスフエクシヨンした。トランスフエクシ ヨンの 48時間後、細胞を回収し、ルシフェラーゼ活性を Dua卜 Glo Luciferase Assay System (Promega社製)及び Berthold luminometerで分析した。各 ノレシフェラーゼ 活性は、ゥミシイタケノレシフェラーゼ活性にノーマライズした。
実施例 8
[0040] [siRNA用アデノウイルス]
Ad5/35キメラファイバータンパク質(Gene, 285: 69-77, 2002)を含むアデノウイ ルスベクターを用いた。ベクタープラスミド pAdHM34及びシャトルベクタープラスミド pHMCMV- GHP1は、文献(Cancer Res., 61 : 7913-7919, 2001)に記載されている。 pHMCMV-GFPlは、 CMVプロモーター、 pEGFP-Nl (Clontech社製)由来の GFP遺 伝子及びゥシ成長ホルモン(BGH) poly(A)シグナルを含む。ヒト U6プロモーター及 び 2つの BspMIクローニングサイトを含む siRNA発現ユニットを、 HIV-U6卜 GFPプラ スミドから EcoRI処理により切り出し、 pHMCMV-GHPl内の BGH poly(A)シグナルの 下流に局在する EcoRIサイトにサブクローユングした。このベクターを
pHMCMV-GFP-U6 iと命名した。ショートヘアピン RNA特異的 dsオリゴヌクレオチド
は、 HIV_U6i_GFPと同様、 pHMCMV-GFP_U6 iの BspMIサイトに、直接サブクロ 一二ングすることができる。その結果、 Skp-2 (S5)又は GLB3特異的 dsオリゴヌタレ ォチドを含むシャトルベクタープラスミドができた。 AdF35-Skp- 2 siRNA S5及び AdF35-GL3Bのアデノウイルスベクターを、文献(Hum. Gene Ther., 9: 2577-2583, 1998)記載の通り、インビトロライゲーシヨン法で構築した。両方のアデノウイルスべク ターを、 293細胞で増幅し、ウィルス力価を、 Adeno-X Rpaid Titer Kit (Clontech社 製)で測定した。
実施例 9
[0041] [動物実験]
6週齢のォス NOD/SCIDマウス(Japan Clea社製)に、 5 X 106ACC— LC172細 胞を皮下接種した。移植約 1週間後、腫瘍の最大径が約 3— 4mmに達した時点で、 重痕内 ίこ、 l X 108ifu(infectious unit)の AdF35- Skp- 2 siRNA S5又 ίま AdF35- GL3Bを注入した(0日目)。アデノウイルスの注入は、 2日毎
にさらに 2度繰り返した。腫瘍の大きさ(最大直径 X垂直方向の直径 X高さ)を、 2— 3日ごとに、 13日目まで測定した。動物実験プロトコールは、慶應義塾大学医学部の 動物実験委員会によって承認された。マウスは、慶應義塾大学動物実験委員会によ るガイドラインに従って処理した。
実施例 10
[0042] [Skp-2遺伝子が高発現している小細胞肺癌細胞株に対する、 HIVベクターを介し た Skp-2特異的 siRNA発現は、インビトロにおける細胞増殖抑制効果を誘導した。 ]
本発明者らは、 Skp-2 mRNAを標的とする siRNA発現 HIVベクターを作製し、 S kp— 2遺伝子の発現上昇を有する小細胞肺癌細胞株 ACC— LC一 172に感染させた 後、 Skp— 2タンパク質レベルをウェスタンブロットで解析することにより、 RNAi効果を 評価した。これらの siRNA HIVベクターの中から、 Skp_2RNAi効果の優れた 2つ の HIVベクター、 S2及び S5を以下の研究に利用した。これらの HIVベクターと蛍ル シフェラーゼ(GL3B)特異的コントロール siRNA HIVベクターとを ACC— LC— 172 細胞に感染させ、 Skp_2RNAi効果とインビト口での細胞増殖の相関を分析した。 G
FPによってモニターされた遺伝子導入効率は、処理群間で同程度だった(98. 7— 99. 9%)。 S5 siRNA HIVベクターで感染した ACC—LC— 172細胞は、 GL3B si RNA HIVベクターで感染した細胞と比べると、インビト口における細胞増殖速度が 著しく低下することを見い出した(Pく 0. 0001) (図 la)。 S2 siRNA HIVベクターで 感染した ACC— LC—172細胞のインビト口における細胞増殖速度は、 S5より早いが 、 GLB3よりも有意に遅かった(p = 0. 005) (図 la)。感染後 9日目に回収した Skp_ 2タンパク質のウェスタンブロット分析により、 Skp_2タンパク質レベルの低下の程度 力 インビトロにおける細胞増殖の阻害効果と相関していることが明らかになった(図 la及び lb)。一方、 p27Kiplタンパク質レベルは、 S2及び S5 siRNA HIVベクター感 染細胞で上昇していた。興味深いことに、 p27Kiplの上昇は、インビト口での細胞増殖 速度および、 Skp_2タンパク質レベルと逆相関していた(図 lb)。他の cdkインヒビタ 一である p21も、 S2及び S5 siRNA HIVベクター感染細胞で、 p27Kiplと同様のパタ ーンで上昇していた(図 lb)。 p57Kip2タンパク質は、この細胞株における、検出限界 以下であった。 Rbタンパク質レベルは、これらの細胞間で同等であった。感染後 9日 目に行った細胞周期分析では、 S及び G2/M期の比率は、 GLB3 siRNA HIVベ クタ一で感染した細胞(57. 1 %)に比較し、 S5 siRNA HIVベクターで感染した細 胞(44. 6%)で減少が見られた。以上のように ACC—LC—172細胞において、 Skp -2 RNAiは、 p27Kipl及び p21両方のタンパク質レベルの上昇を誘導し、分裂細胞 集団の減少とインビト口での細胞増殖の阻害を誘導した。
[0043] 他方、 Skp— 2発現上昇を伴わない 293T細胞は、 Skp— 2 (S5)特異的 siRNA HI Vベクターによるインビトロでの細胞増殖阻害効果に対し、より耐性を示し
た(p = 0. 1835) (図 2a)。 Skp_2及び p27Kiplタンパク質のウェスタンブロット分析は 、 293T細胞と ACC—LC—172細胞とで同様の結果を示した力 293T細胞の方が 顕著でなかった(図 2b)。 Skp_2タンパク質の基礎レベルは、 ACC—LC—172細胞 より、 293T細胞の方が低く(図 2c)、それは Skp_2 RNAiによる増殖阻害に対する 2 93T細胞の耐性の原因となっている可能性が示唆される。
実施例 11
[0044] [myc転写活性は、 Skp_2 RNAiによる ACC—LC—172細胞の細胞増殖抑制効
果には関与していない。 ]
最近の報告によると、 Skp-2は p27Kipl以外にも、 mycタンパク質のュビキチン化を 媒介すると同時に、 c一 mycの転写補助因子として作用することが示唆されている( Mol. Cell, 11: 1177-1188, 2003、 Cell, 11: 1189—1200, 2003)。 Mycは、サ イクリン E_cdk2及びサイクリン D_cdk4の活性化を媒介し、 G1/S転移を促進する 作用があることから、本発明者らは、 Skp-2 RNAiによる細胞増殖抑制効果に、 my cの転写活性抑制が関与してレ、る可能性を検討した。多くの SCLCで mycmRNAの 過剰発現が報告されているが(Lung Cancer 34: S43- 46, 2001)、 ACC_
LC—172細胞でも c_mycコピー数の軽度の上昇が見られた(2. 03倍)。 hTERTプ 口モーター(myc結合配列 E_box (CACGTG)を 2力所含む)を上流に持つ 蛍ルシフェラーゼ発現ベクター (pGL3_hTERT)を ACC—LC—172細胞株にトランスフ ェクシヨンさせた時、ゥミホタルルシフェラーゼ活性で補正した蛍ルシフェラーゼ活性 は、コントロールの pGL3_Basicの活性より、わずかに上昇を認めるのみであり(1. 1 -2. 7倍)、該細胞株において、 myc転写活性は比較的弱いことが示された(図 3)。
S5ベクターで Skp— 2をノックダウンした ACC—LC— 172細胞における pGL3-hTERT による蛍ルシフェラーゼ活性の低下は認められず、 Skp— 2RNAiによる増殖阻害効 果には、 mycの転写活性は関与していないことが示された。
実施例 12
[0045] [Skp_2特異的 SiRNAを発現するアデノウイルスベクター]
アデノウイルスベクターは、 HIVベクターと比較して、容易に高力価ウィルスの調整 が可能であること、およびインビボでの遺伝子導入効率が優れていることから、 Skp— 2特異的 siRNA発現アデノウイルスベクターを作製した。アデノウイルスベクター Ad F35-Skp-2 siRNA S5を、 5MOIで感染させた ACC— LC— 172細胞の Skp— 2タ ンパク質レベルは、コントローノレ AdF35_GL3B感染細胞と比べて、著しく低下してお り(図 4)、インビトロでの細胞増殖の阻害も伴った。
実施例 13
[0046] [アデノウイルスを介した Skp_2RNAiは、 ACC—LC—172細胞のインビボの腫瘍形 成能を低下させた。 ]
次に、アデノウイルスベクターを介した Skp— 2特異的 RNAi力 インビボで ACC— L C-172細胞の増殖を抑制することが可能かどうか調べた。 NOD/Scidマウスに作 製した移植皮下腫瘍に、 Skp_2 (S5)又はコントロール GL3B特異的 siRNAアデノ ウィルスベクターを 2日毎に 3回接種した後、腫瘍サイズを経時的に測定した。腫瘍 内にウィルスを注入開始 13日後、 S5で感染した ACC—LC—172細胞では、 GL3B で感染した場合と比べて、腫瘍の増殖が著しく阻害された(図 4b) (p< 0. 05)。これ らの結果は、 Skp_2が、 Skp— 2発現レベルの上昇を伴うガン治療に対する優れたタ 一ゲットであることを示唆した。
実施例 14
[0047] [悪性黒色腫細胞株における Skp— 2タンパク発現の解析]
8種類の悪性黒色腫細胞株(Skmel23, A375, 888, 397, 526, 624, 928, 13 63)及び対照としての ACC—LC—172細胞よりタンパク質を抽出し、ウェスタンブロッ ト法で Skp_2タンパクの発現を解析した。 Skmel23, A375mel, 624melの 3種類 の悪性黒色腫細胞株で Skp_2の高い発現を認めた。 ACC_LC_172は、 Skp-2 高発現を持つ肺小細胞癌株であり、陽性コントロールとして用いた。ァクチンは、タン パク質量の loading controlとしてブロットした。結果を、 BRAF点突然変異(V599E) の有無と、タンパク質抽出時点の細胞周期(%S + G2/M期の比率)と共に図 5に示 す。
実施例 15
[0048] [悪性黒色腫細胞株の BRAF及び Skp-2同時 RNAiの増殖抑制効果と p27Kiplタン パクに与える影響]
BRAFsiRNA # 1 'は、 V599E変異陽性 BRAFを発現していなレ、 293T細胞や V 599E変異のなレ、Skmel23では増殖抑制効果を有しないが、変異陽性 BRAFをも つ A375mel細胞株などに対しては、著明な増殖抑制効果を有することから、 V599 E変異陽性 BRAFの発現を特異的に抑制する(特願 2004— 124485参照)。 BRAF 点突然変異 (V599E)を有し、実施例 14で Skp-2の高発現が認められた 2つの悪 性黒色腫細胞株(624mel, A375mel)と、 Skp-2の高発現が認められなかった悪 性黒色腫細胞株(526mel)に対して、コントロール GL3B, BRAFsiRNA # 1 ' , Sk
p-2siRNA S 5又は BRAF/Skp— 2 siRNAの四種類の HIVレンチウィルスベクタ 一を 100MOIで感染させ、 3日毎に細胞数をトリパンブルー色素排除法で、 6日後又 は 9日後まで計測した (n = 3)。結果を図 6に示す。図 6から、 BRAF点突然変異 (V5 99E)を有し、 Skp_2の高発現が認められた 2つの悪性黒色腫細胞株(624mel, A 375mel)においては、 RNAiにより BRAF (V599E)と Skp— 2の発現を同時に抑制 すると、細胞増殖と細胞浸潤能が抑制されることがわかる。
[0049] 図 6 (b) , (d), (f)はウェスタンプロット分析の結果を示し、図(a), (c) , (e)にそれ ぞれ対応する最終観察時点で抽出したタンパク質のウェスタンプロット分析の結果を 示している。 BRAF # 1,, Skp-2 S5により、それぞれリン酸化 ERKと Skp— 2の抑制 を認めた。 624melと A375melにおいては、 BRAFZSkp_2同時抑制群ではその 両者が観察され、各単独抑制群に比べてより強レ、 P27Kiplの発現上昇を認めた。 p27 Kiplの発現レベルは、 BRAF—MAPK経路と、 Skp_2_ュビキチン—プロテアソーム経 路で、独立に制御されていると考えられる力 S、異なる作用点を同時にノックダウンした ときに、単独より更に強力な p27Kiplの発現回復が見られ、結果としてより強力な細胞 増殖抑制効果が得られることがわかる。 BRAF RNAiと Skp_2 RNAiはいずれもそ の異常を持つ癌細胞にのみ選択的に作用することから、特異性を保ちながらより強 力な治療法になる可能性を有する。
実施例 16
[0050] [八37511161細胞株にぉける111&1:1 861 invasion assay]
実施例 15と同様に、 4種類の HIVレンチウィルスベクターで感染させた 25, 000個 の A375mel糸田胞を、 matrigel invasion chamber (Bekton-Dickinson)上に き、 22時 間後に chamberの裏側に移動した細胞数を計測した。結果を図 7に示す。図 7から、 6 24melの増殖抑制効果は、 BRAF RNAi単独、 Skp— 2 RNAi単独ではかなり限定 されていたものが、 BRAF RNAiと Skp_2 RNAiとの併用で劇的に効果が強まるこ と力 Sわ力る。
実施例 17
[0051] [考察]
ウィルスを介した RNAiによる、 Skp_2の発現上昇を伴う肺小細胞癌細胞株におけ
る Skp-2のノックダウンを試みたところ、 Skp-2特異的 siRNAの持続的発現は、 Sk p-2の発現をほぼ完全に抑制し、 p27Kiplの上昇及びインビトロでの増殖低下を誘導 した。従って、この細胞株においては、 Skp-2発現上昇が、 p27Kiplの分解亢進によ る、細胞周期の調節障害 (過剰増殖)に関連していた可能性が示唆される。以上の 観察事実から、 Skp - 2は、遺伝子治療及び/又は分子標的療法の新しいターゲット 候補となる可能性が示唆される。重要なことは、 293T細胞のように Skp_2のレベル が低い細胞の増殖は Skp_2RNAiにより、ほとんど影響されず、 Skp_2の不活性化 は、 Skp - 2過剰発現を持つ癌に対する、安全な選択的治療法となる可能性が示唆 される。
[0052] p21レべノレの制御は、主に、転写制御のメカニズムによって達成される。し力、し、 Sk p_2を介したュビキチン化と連続したタンパク分解の崩壊も、 p21レベルの制御に関 与することが報告されている(J. Biol. Chem, 278: 25752-25757, 2003)。本発明者ら も、 Skp-2RNAiが行われた後に、 p21レベルが上昇することを見い出しており、上 記報告と矛盾していない。 p21の上昇は、 p27Kiplレベルの上昇ほどは急激でなかつ たが、調節障害された細胞周期の制御に関連していると考えられる。
[0053] さらに、 Skp_2 siRNAアデノウイルスベクターの腫瘍内注入を用いた、イン
ビボ治療動物モデルを作製し、 in vivoでの治療効果を証明した。以上より、 Skp-2 を標的とした siRNAベクターによる遺伝子治療の可能性が示唆される。
[0054] 一方、 MAPK経路の活性化は、 p27Kiplの核から細胞質への移行を促進し、間接 的に細胞質のプロテアーゼによる p27Kiplの分解を促進する結果、細胞増殖に繋がる ことが既に報告されている。本発明者らは、 BRAF (V599E)変異に伴う MAPK経路 の活性化を持つ癌細胞株(悪性黒色腫細胞株) に対して、 BRAF (V599E)特異 的 RNAiの増殖 ·浸潤能の抑制効果を報告しているが、この方法は p27Kiplの発現回 復にも働いている。そこで、 BRAF (V599E)変異を持つ悪性黒色腫細胞株の中で、 Skp_2の発現亢進を同時に伴う細胞株に対して、 BRAF (V599E)と Skp— 2に対す る siRNAを同時に発現する HIVベクターを作製し、両者の発現を同時に抑制した影 響を、各々単独抑制群と比較検討した。 2種類の株に対して、再現性を持って、同時 抑制群は各単独抑制群よりも有意に細胞増殖と細胞浸潤能が抑制されていた (p27
Kiplは、 RhoAシグナル伝達経路に干渉して、細胞運動を亢進させる機能が知られて レ、る)。そして、 p27Kiplの発現は、各単独抑制群に比べてより強く認められたことから 、より強い p27Kiplの発現回復を介して、悪性形質の改善効果が見られたと考えられる 。 BRAFの変異と Skp_2の発現上昇は、多くの癌に共通に見られる遺伝子異常であ ることから、両者を同時に抑制する技術は、これらの変異を同時に持つ癌に対して、 より強力な癌治療効果を示すことが期待できる。
図面の簡単な説明
[図 l]Skp— 2発現上昇を伴う小細胞肺ガン細胞株への、 Skp— 2siRNAの遺伝子導入 力、インビトロの細胞増殖の阻害及び p27Kipl及び p21タンパク質の上昇を誘導するこ とを示す図である。 (a)インビトロ細胞増殖アツセィ。 10万個の ACC-LC-172細胞 に対して、コントロール蛍ルシフェラーゼ特異的 siRNA HIVベクター(GL3B)又は Sk p_2mRNA特異的 siRNA HIVベクター(S2及び S5)で、 100MOIで 0日目に感 染を行い、生細胞数を、トリパンブルー色素排除方法で 3日目、 6日目及び 9日目に 計測した。縦のバーは 3回の実験の標準偏差を示し(* ;ρ = 0· 0005、 * * ;ρ< 0. 0001)。同様の結果を示した 3回の実験の 1つの代表例である。 (b)ウェスタンブロッ ト分析。タンパク質は、 siRNA HIVベクター感染細胞から、感染後 9日目に抽出し た。タンパク質抽出時点におけ GFPの発現レベルは、 3グループ間で同程度であつ た(98. 7 99. 9%) 0 S2及び S5感染群の Skp_2タンパク質レベルは、 GL3B群に 比べ、著しく低下を認めた。反対に p27Kipl及び p21タンパク質レベルは、 S2及び S5 感染群で上昇した。 p27Kipl及び p21タンパク質レベルは、 Skp— 2タンパク質レベルと 逆相関していた。
[図 2]Skp_2発現上昇を伴わない 293T細胞への siRNA導入は、インビトロ細胞増殖 に殆ど影響しな力 たことを示す図である。 (a)インビトロ増殖アツセィ。 30000個の 2 93T細胞に対して、コントロール GLB3又は S5ベクターで、 100MOIで 0日目に感染 を行い、細胞数を図 1 (a)と同様に計測した。縦のバーは 3回の実験の標準偏差を示 す(* ; ρ = 0· 1835)。同様の結果を示した 3回の実験の 1つの代表例である。 (b)ゥ エスタンプロット分析。タンパク質は、図 1 (b)と同様に調製した。タンパク抽出時点の GFPの発現レベルは、 2つのグループ間で同等であった(GL3B ; 95· 4%、 S5 ; 10
0. 0%)。 S5感染群の Skp_2タンパク質レベルは、 GL3B群に比べ、低下を認めた。 一方、 p27Kiplタンパク質レベルは、 S5感染群において GL3B感染群より上昇を示すが 、 ACC— LC172細胞における変化に比べるとその程度は弱い。 (c) 293T及び ACC —LC— 172間の Skp— 2タンパク質レベルの比較。 Skp— 2タンパク質は、 ACC— LC— 172細胞より 293T細胞の方がかなり低かった。タンパク質抽出時点における、 293T 細胞及び ACC—LC—172細胞の S + G2ZMの割合は、それぞれ 74. 0%及び 58. 4%であった。
[図 3]Skp_2タンパク質の上昇は、 ACC—LC—172細胞の myc転写活性能の増強 には影響していなかつたことを示す図である。 Skp_2特異的 siRNA (siRNA S5)ま たは、 BRAF特異的 siRNAを恒常的に発現する ACC—LC—172細胞に対して、: g の pRL- SV40 (ゥミシィタケルシフェラーゼ発現プラスミド)及び 1 μ gの pGL3_hTERT、 pGL3_Basic又は pGL3_control (異なるプロモーターに導かれる蛍ルシフェラーゼ発 現プラスミド)を、リポフエクタミンを用いてトランフエタトした。トランスフエクシヨン後 48 時間目に細胞を回収し、ゥミシィタケ及び蛍ルシフェラーゼ両方の活性を測定し、ゥミ シイタケノレシフェラーゼ活性化で標準化した各蛍ルシフェラーゼ活性を算出した。 pGL3_hTERTをトランスフエタトした細胞の蛍ルシフェラーゼ活性は、 pGL3_Basicをト ランスフエタトした細胞の 1.6倍に上昇を認めた力 Skp_2特異的 siRNAの発現下で 、その活性の抑制は認めなかった。各バーは、 3度のアツセィの平均値を示し、エラ 一バーは、標準偏差を示す。同様の結果を示した 3回の実験の 1つの代表例である
[図 4]Skp_2特異的 siRNAアデノウイルスベクターの腫瘍内注入による in vivo治療 効果を示す図である。 (a) Skp_2特異的 siRNAアデノウイルスベクターによる、 Skp —2タンパクの抑制効果。 AdF35_Skp_2 siRNAS5又は AdF35— GL3Bを、 1又は 5 MOIで感染させた ACC-LC-172細胞力 抽出したタンパク質を用いて、 Skp— 2タン パク質レベルを定量した。 Skp_2のレベルは AdF35_Skp_2 siRNA S5を 5MOI で感染した場合に、著しく阻害された。 (b)アデノウイルスベクターを介した Skp— 2 siRNA導入のインビボにおける腫瘍増殖抑制効果。 NOD/SCIDマウス上に皮下移植 した ACC—LC—172細胞に対して、 2日毎に 3回、 1 X 108 ifuの Ad F35— Skp— 2 si
RNA S5 (n = 5)又は AdF35_GL3B (コントロール)(n=4)を腫瘍内注入した後、 経時的に 2つのグノレープ間で腫瘍の大きさを比較した。 * ; p < 0. 05、縦のバーは 標準偏差を示す。
園 5]8種類の悪性黒色腫細胞株における Skp_2タンパク発現の解析結果を示す図 である。
[図 6]悪性黒色腫細胞株の BRAF及び Skp_2同時 RNAiの増殖抑制効果と p27Kipl タンパクに与える影響を示す図である。 (a) 624melにおける *は p = 0. 0024, * * は p = 0. 0005, * * *は p = 0. 0002 (コントローノレ GL3Bとの i 較)を、 *¾p = 0 . 0025,★★は p = 0. 0049を示し、 (c) A375melにおける *は p = 0. 0005, * * は ρ = 0. 0008, * * * p < 0. 0001 (コントローノレ GL3Bとの i 較)を、 *¾p = 0 . 0375,★★は p = 0. 0002を示し、 (e) 526melにおける *は p = 0. 0072, * * は p = 0. 0075を示す(すべて unpaired student t- test)。最終観察時点における GF P陽性率で見た導入効率には、各群間で差を認めなかった。 各実験は、それぞれ 2 一 3回繰り返し、再現性を確認している。 (b) , (d) , (f)は、 (a) , (c) , (e)にそれぞれ 対応する最終観察時点で抽出したタンパク質のウェスタンプロット分析の結果を示す
[図 7]A375mel細胞株における matrigel invasion assayの結果を示す図である。